疑惑浮上
アルスと瑞樹が二人っきりでデート?をした週末の、その翌週の月曜日。
学生にとっては最も辛い一日の幕開け。
制服に着替え、瑞樹はリビングに降りるとソファから人のうめき声がした。
見やれば、ソファに横たわって寝ている人物がいた。
アルスだ。
アルスの寝床について、初日に瑞樹は物置部屋を片付けて布団を敷こうと提案したが、アルスはソファでいい、との一点張りだった。
そんな柔らかい所で寝ると腰を痛めちゃうのに。
まあ本人の意見を尊重すべきだし、早朝にいつでもアルスの寝顔が見られるからいいんだけどね。
アルスの綺麗な寝顔を見ながら、瑞樹は微笑んだ。
アルスの顔を堪能したことで気分が良くなり、瑞樹は鼻歌交じりに料理をする。
それから朝食を食べて、アルスへの置き手紙を書いた。
「行ってきまーす」
そう言ってから瑞樹は玄関を出る。
この分だと、早めに学校に着きそうだ。
瑞樹は学校に着いて、自分の教室の前扉を開ける。
すると、前方から弾丸ライナーが吹っ飛んできた。
「へえ!?」
流石の瑞樹も不意を突かれてもろにそれを受ける。
いつからこのクラスは戦場と化してしまったのだろうか。
「うえぇぇえぇん」
見下ろすと、胸に顔を埋めて泣いている美沙がいた。
「どどど、どうしたの美沙!?また先生に怒られちゃったの?」
泣きじゃくる美沙に瑞樹は困惑する。
教室内を見回しても、どこか全体的に暗い。
教室の照明じゃなくて、クラスメート達のムードが。
「何かあったの、真奈?何だかみんな落ち込んでるような……」
暗い雰囲気を纏うクラスメートの内一人である親友の名倉真奈華に事情を尋ねる。
すると、真奈華は無言で彼女のスマートフォンの画面を提示する。
瑞樹はそれに目を向けると、
「なっ!こ、これはッ!?」
あたしは息を呑んだ。
愕然とする瑞樹に、真奈華は顔を上げて話し出す。
「昨日ショッピングセンターで弟と戦隊ヒーローのショーを見に行ってきたんだけど、私が2階の会場周辺を彷徨いてたら、1階から騒ぎがしてさ。
風の便りで、精度の高いコスプレをしたモデルみたいな外国人と、胸の大きな可愛い女の子がいるって聞いてさ。面白そうだからって現場に駆けつけたら……そしたらぁ…」
真奈はペタンとその場に崩れ落ちた。
画面には、あたしとアルスが並んで歩いている写真が写っていた。
あー、やっぱり誰かいたんだ、ちょっと恥ずかしい。
写真は慌てて真奈に撮られたものだろう。
「「「うわああぁあぁあぁ!」」」
突然、やけに静かだった男子らが発狂しだした。
目から血の色の涙を流している。
「我らがクラスの誇る三大天使の一人、瑞樹さんがぁっっ!?」
「誰よりも純粋で優しくて巨乳の瑞樹さんがぁぁっ!?」
「せっかく、ファンクラブ会員番号一桁台まで登り詰めたのに……」
「ありえないっ、こんな事、絶対にありえないさ。あはっ、あははははッ!」
「こんな世界、生きていけるかよ……」
男子が何だか大変そうなのは分かったが、言ってる意味はさっぱりだ。
「それで、どうなの!」
胸元から顔を出した美沙は、目尻を赤く腫らしながら瑞樹に問うた。
「どうなのって?」
「その外国人と瑞樹って、恋人同士なんでしょっ!?」
「……え?」
美沙の言ってることに、瑞樹の脳は追いつかなかった。どうしてそんな根も葉もないに繋がってしまったのか。
「瑞樹、今まであまり男性と関わりを持とうとしなかったじゃん。それなのに、その男の外国人と仲よさそうに買い物してたんだよね?それって絶対彼氏じゃん!」
「ちょっ、ちょっと待って!?その人とは別にそんな関係じゃないって!」
「………本当?じゃあ、瑞樹の恋人じゃないの?」
美沙が訝しげに見つめてきた。
「違うよ!その人は……そう!外国から来た遠い親戚の人なの!それで、周辺案内をしていただけなんだよ!」
しばしの沈黙。
美沙はジーッと目を合わせようとしてくる。
やがて瞳を潤ませて、
「よかった~ぁ!みーずーきー!」
ガバッと勢いよく美沙が抱きついてきた。
それと同時に、
「よっしゃあああぁっ!」
「やったぁーーーーーーーー!」
「ままままま、当然信じてましたけどね!?」
男子たちが所々で雄叫びを上げた。
「私の早とちりだった……。まさか、瑞樹に外国人の親戚の方がいたとは……」
真奈華は片膝立ちで深く謝罪してきた。
「いや、別に謝らなくても……」
本当は、もの凄く危なかった。
もう、冷や汗だらだら垂れてたけれど。
「は~い、ホームルーム始めるから席座ってー」
先生が教室に入ってきた。
クラスメート達は各々の席へと散っていった。
あたしも自分の席に戻る。
アルスはもう起きてるかなぁ…?
★☆★☆★
SIDE:アルス
アルスが目を開けると、そこは見慣れない天井だった。
いや、ミズキの家の天井だけれど。
「………ミズキ?」
ソファから体を起こすと、辺りはしんと静まり返っていて、部屋の明かりは点いていない。
窓からさす太陽の光が部屋の中を薄く照らしているだけだ。
時刻は8時半。
今朝、瑞樹がこっちを覗いて微笑んでいたのを微かに脳裏に覚えている。
アルスは寝ぼけ眼をこすってソファから立ち上がる。
ミズキはいずこへ行ったんだろうか。
そう思いながらふと食卓机に目をやると、何やら紙が置かれていた。
「“学校行ってきます”……か」
そういえば昨日、瑞樹がそんな事を言ってたな。
「“昼ご飯のお弁当を作っておきました”?」
目の前のこの箱だろうか?
指先で蓋を持ち上げると、
「こ、米だ……!」
一面の銀世界。
この世界に来て間もなく、アルスは米の虜になっていた。
戦闘食しか調理できないアルスにとって、賄いを作ってくれるのはありがたかった。
それに、米とあらばとても楽しみである。
ポチッ
『…と言うわけで、皆さんも是非遊びに来てください!以上、中継でした~』
アルスはテレビのリモコンのスイッチを入れる。
最初こそ驚いたが、慣れればテレビというものは非常に面白い。
まるで自分がそこにいるかのような感覚で楽しめる。
様々な情報もいち早く知ることが出来るので、この世界を知るのに役に立つ。
『ニュースです。昨夜10時頃、◯◯市の喫茶店の裏通りで、火災が発生いたしました。今は火が消えて、幸い怪我人はいませんでしたが、壁の数カ所には何らかの衝撃で破壊された跡が残っていました。なお、原因は現在警察が調査中です。』
それにしても、この世界もだいぶおっかないな。
テレビを見ていても、災害や事件、経済問題が尽きない。
これほど何か起これば、瑞樹がいずれかの騒動に巻き込まれてないか心配になってくる。
まあ、彼女なら万が一でも大丈夫だろうけれど。
そんな杞憂なことを考えながら、アルスは無心で朝ご飯の味噌汁をすすった。
少し冷めていたが、心に浸みる味で美味しかった。
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突然ですが、諸都合により3月末まで休止します。