5話 チュートリアルバトル -1
稲妻が起こした砂ぼこり。
その砂ぼこりの中心に、黒く巨大な獣が現れていた。
巨大な角、ぶっとい筋肉で盛りあがる四肢、紫にも見える黒くツヤのある毛並み。
……ゲームや小説によってフォルムの違いはあるけど、それらの特徴を見るとあれは……
「マジで!? あれ、ベヒーモス、じゃないか?」
「な、な、な……」
ブランコから転げ落ちた凛が、言葉を失いながら目の前に召喚されたベヒーモスを指さしてる。
「……ねえ凛、お前が呼ぼうとしたの、アレ?」
念のため聞いてみると、案の定顔をぶんぶんと横に振った。
なるほど。召喚魔法は視覚でも思考でもいいから、召喚する対象をイメージしないとランダムに召喚されるっぽいか。しかも……
「正気を失ってるっぽい、かな」
周囲を見回してたベヒーモスが、僕らを見つけたとたん僕の腕よりも太い牙を剥き出しにしてうなり始めたのだ。
こりゃ、どう考えてもこの状況を回避できそうにないな。
「な、な……なに……アレ……」
「ベヒーモスだよ。お前に貸したゲームにも出てきてたはずだけど。まあそれはいいとして、召喚魔法はどうやら召喚対象をイメージしないと失敗するみたいだね。失敗でベヒーモス喚び出せるのは、やっぱすごいのかな?」
「な、なんでそんな冷静なのよ! に、逃げなくちゃ……」
「逃げる?」
僕はおもわずニヤリと笑ってしまった。
「逃げて、どうすんの?」
「え……」
「ちょうどいい練習相手かもしんないのに」
「……は?」
「実戦はリアルでも初めてだけど、ま、チュートリアルくらいにはなるでしょ」
腰が抜けて役に立たなさそうな凛を置いて――こいつ喚びだしたのはおまえだぞ――、僕は足元に落ちてた木の枝を拾い、ポキポキと肩を鳴らしながらベヒーモス向けて歩きはじめた。
――そうなんだ。目の前に現れてくれたこの魔獣相手に、僕は確信しなきゃいけないことがあるんだ。
凛より遅れて公園に来たのは、ただ時間にルーズということだけじゃない――否定はしない――。僕に備わった能力、そう、ただのペンをコンクリートの壁に撃ち込んだ能力が一体なんなのか、確認する必要があったからだ。
凛からの電話があったのは、午後8時。この公園に着いたのは午後11時。そのあいだ、時間の許すかぎり、僕はプリントアウトした『魔法大全・xlsx』を手に、いろんなことを試しまくった。結果、分かったことは。
――僕は、魔法を操れるようになってる。しかもおそらく、このくらいの能力を勉強に活かせたらノーベルいけんじゃない? ていうレベルで。
さらに言うと、ただの魔法じゃない。僕が操れるのは、僕が考えだしたオリジナル魔法だ。
しかも、それだけじゃない。
ネットの生中継で、世界的に有名な格闘技の世界大会がやってるのを思いだして、PCでそれを流しながら『ヴァーチャルバトル』の魔法を唱えた。
僕のオリジナル魔法で、自分のステータスだけでなく対象者のステータスも分析し、さらに仮想対戦することで過程とその結果を知ることのできる魔法だ。
つまり、格闘技の世界大会優勝者と、布団にしか拳を向けたことのない僕自身とを仮想で戦わせたのだ。
結果。
瞬殺だった。
されたのでなく、僕が瞬殺したのだ。
相手に拳を前に出させることもなく、一瞬でふところへ入ってアッパー、頭がはね上がって伸びきった腹にボディー、くの字に折れて下がってきた顔面に膝。
時間にして、2秒。
これは仮想対戦だけど、双方のステータスに調整は入らない。だから、実戦であったとしてもそう遠くない結果がになる。
つまり、今の僕は格闘技世界王者を軽く凌駕する戦闘能力を身につけてるのだ。
オリジナル魔法と、超高い戦闘能力。
もちろんこのスキルは、僕が初めから持ってたわけでも、そしてもちろん能力が開花したわけでもない。特に魔法はこの世に魔法は無いからね。
だとすれば、この二つの能力を得た原因は一つ。
――発動に失敗したあの異世界転移の魔法陣だ。
この二つの能力をリアルで使って、僕は自分の実力を把握しなくちゃいけないんだ。ある一つの理由のために。
ベヒーモスをけっこう簡単めに説明しましたが、足りない特徴とかはないですかね?
ほとんどは、ファイナルファンタジー的なイメージを流用してます。