4話 召喚魔法 -1
「でも、まさか異世界転移が実際に起こるなんて、人生生きてても何があるか分かんないよな」
「……あんた、イヤに楽しそーよね」
ジト目で睨んでくる凛。おっと、つい口に出てたか。ついでにニヤニヤもしてしまってた。
本題へ戻らねば。
「まあとにもかくにも、まず間違いなくあの魔法陣のせいだね」
「けど、アニメじゃ中世ヨーロッパ風な世界に飛んでたけど、あたし達がいるのは現代よね? ……はっ! もしかしてあたし達の世界とまったく一緒な異世界に来てたりして!」
「……なかなかファンタジックな設定を考えてくれるね。でも、たぶんそれはない」
「え、なんで?」
「そんななんの面白みもない異世界を僕は拒否するから」
「……いっそ気持ちいいくらいに自分勝手な判断ね」
「冷静に判断するなら、こうだね。魔法陣は発生した。けれどあの地震で異世界転移は崩壊して失敗した。だからこの世界は僕らの世界のままだ。けれど、異世界転移のエラーが、この世界にいるままの僕らにチートスキルを与えてしまった」
「チートスキルって……あんた達、ホントそーいうの好きよね」
「好きかどうかは、今は別問題。だし、でないとソイツを説明できないでしょ」
僕がくいっとアゴで指し示したものを凛は見下ろして、がっくりと頭を下げた。
「……たしかにそーよね……」
「がおっ」
そんな凛の顔を覗きこみながら、ソイツが1つ軽く吠えた。
凛が苦笑いする。
「……あたしのこと、心配してくれてんだ」
そう言いながら、ソイツのいかにも硬そうな頭をなでる。
――小さなドラゴン。
それが、ソイツの正体だ。
この公園へ先に着いてた凛のそばに、この世界じゃ存在しないはずのコイツがちょこんと座ってるのを見たときは、おもわず爆笑してしまった。爆笑しすぎて凛に殴られたくらいだった。
いやでも普通は笑っちゃうでしょ。僕だけでなく凛にもなにか起こってることは確信してたけど、小さいとはいえまさかドラゴンを連れてるなんて、普通に考えて想像の外でしょ。
大きさで言えば中型犬くらい。でも小太りのせいでデフォルメちっくになってて、本来の――いや実在しないけどさ――ドラゴンの持つ恐ろしさにはほど遠い外見だ。
実は、凛に今しがた披露した推論は、家を出たくらいから頭の中に浮かんでたのだ。それが、このドラゴンを見た時に僕の爆笑の中で推論は確信へと変わった。
「ちょうど、あんたから借りたアニメを観てたのよ」
という感じに、凛が切りだした。
「その中にちっちゃくて太っちょな赤ちゃんのドラゴンが出てきてて、あーこれカワイイな、こんなだったら飼ってみてもいいかな、とか呟いちゃったのよ。じゃあ、このコがいつのまにかあたしのそばに座ってて……」
「がうっ」
ちっちゃいドラゴンが、また一声吠える。その表情がどことなく笑ってるように見えて、まるで「これからもよろしくっ」とか言ったんじゃないか、と思えてしまう。
困った顔をしながらも、カワイイなと思ったものが現実に現れたのがそれはそれで嬉しいらしく、「おー、よしよし」とか言いながら、頭に生えてる2本の角(まるで生えたてのタケノコみたいだ)の間を凛はなでている。
「もうビックリしちゃって、それであわててあんたに電話したんだけど。でも、このコもあたしに全然なつていてくるし。もうカワイイからこのコは全然いいんだけど、でもなんで急にあたしの部屋に現れたんだろ?」
見上げてくる凛に対して。
――僕はもう、ニヤけてしまいそうなのを必死に我慢していた。
このドラゴンが現れた理由は、ひとつしかない。
世の中にはさまざまな頭の良い人間がいて、そんな人間からしたら僕なんか鼻で笑う価値すらないかもしれない。
けれど、この現象に関してだけは、僕がそんな人間たちを鼻で笑う番だ。異世界転移という、頭で考えたって答えの出ない今回のこのことを頭で考えようとするだろう人間たちを。
僕は凛に対して断言した。
「このドラゴンは現れたんじゃないよ。凛、お前が魔法で召喚したんだ」
マスコット的存在を用意してみました。
さて、物語の本筋にどのような役割を考えたらいいだろうか。
おいおい考えます^_^;