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3話 朝起こったことを思いだす -2


「やれやれ、やっと邪魔なのが帰ったな」

「寝るな」


 やっと安眠の時間が訪れた、と思ったら、国府こくぶがぴしゃりと言い放つ。くそ、これじゃ邪魔なやつが入れ替わっただけじゃないか。


「なんだよ、僕の安眠を守ってくれたんじゃないの」

「お前の睡眠を守る義務が俺にあるわけないだろう」


 国府こくぶは「なんでこんな面倒なやつが同じクラスなんだ」とぶつぶつ呟きながら、教壇へと歩いてく。僕が面倒? 学校にいる時間の大半を睡眠へ投入してる僕が、どうやって面倒をかけるんだか。まったく、不当な評価だよ。


 教壇へ立ったのは国府こくぶだけでなく、副委員長の伊佐芹果いさせりかもだった。


……伊佐いささんはあいかわらず面倒くさそうに刈り上げぎみのショートカットに手ぐしを入れてる。まあ、陸上部に打ち込む代償として足りなくなった成績を補填する形で副委員長をやらされてるそうだから、仕方ないかも。まあ僕だったら、どんな手練手管を使っても交渉の場にすら立たないけどね。


 まあいいや、寝よ寝よ。


 あらためて机に突っ伏そうとすると、国府こくぶが手をパンパンと鳴らしながら「みんな座って!」と耳にうるさい声をあげた。


「昨日、先生から告知のあったとおり、我々だけで長めのホームルーム時間をもらっている。この時間で、きたる体育祭の400リレーのメンバー、そして騎馬戦の組み合わせを決めたい」


 ん? そう言えば、昨日の終わりのホームルームで先生がそんなこと言ってたな。体育祭が来月にあるんだけど、その中の選抜式の種目のメンバーを決めるとかいう話をしてた気がする。僕が選ばれるはずはないからテキトーに聞いてたんだった。


 すると、教室に少し緊張感が張りつめる。


 国府がうなずくと伊佐いささんに黒板へ書くようにうながして(自分で書けよバカ国府こくぶ)、教卓に手をついた。


「もちろんそれは、勝つためのベストメンバーを並べなきゃいけない。特に、一組に勝つためのメンバーを」


 はあ、とため息をつく。一組、一組ってうるさいなぁ。


 僕のクラスは、なにかと隣の一組を目の敵にする。


 一年の時に、一組の誰かからからかわれたのが初めらしいけど、それがなぜかどんどんと大げさになり始めて、結局それが原因で僕らのクラスは一組を、そして一組は一組で、あからさまにうちのクラスを敵視するようになった。


 他にもあるらしい、一組のやつに因縁めいたものを持ってるのが。


 最たるものがこのバカ国府こくぶだ。一組に世田谷真次郎せたがやしんじろうという、学年一位の成績を誇りバスケ部の主将も務めてそのうえ生徒会副会長の肩書きまであるヤツが、バカ国府こくぶと同じく学級委員長を務めてる。まあつまりは、劣等感を燃やして目の敵にしてるわけだ。


 その国府こくぶの隣でだるそうにしてる伊佐いささんも、なぜか目だけはギラギラしてる。

 ……ああ、そうか。聞こえてきた話だけど、彼女が中学最後の大会を怪我でフイにしたのも、一組の同じ陸上部のやつが原因だっていうはなしだっけ。


 でも、僕からしたらバカバカしい。ベストワンよりオンリーワンなのが分からないなんて、つまらない人生だよ。


 だいいち、1組はいわゆるエリート組だ。それに比べてなんの取り柄もないうちの2組が熱くなってもムダムダ。平穏無事、人生楽がない代わりに苦もないのが実は一番ラクなんだよ。


 僕には関係のない話なので寝たくはあったけど、国府こくぶのやつが定期的に僕を睨んでくるので、一限目の教科書の上にラノベを開いて隠し読みすることにする。


 テンプレな内容だと思っていた物語が、三章に入ると意外や意外、世界が実は誰かに作られた偽りのものだという流れになって、僕はホームルームも忘れてついつい読みふけってしまう。



 ――だから。



 クラスのみんなが妙にざわついてるのに気づくのが、僕は少し遅くなってしまった。


「お、おい、なんなんだよぅこれよぅ」


 ヘンな発音で戸惑ったこえをあげたのは、佐多閑也さたしずやだ。頭は良くないけど声だけは大きくて、その声で僕は小説から顔をあげた。


のだけど。


 ……なんだこれ。


 教室の壁、天井、床がほんのり光ってる。と思ったらそれだけじゃなく、大小入り混じった魔法陣が壁や天井や床の光の中を動き回ってる。


(スクリーンセーバーみたいだな)


 などと、僕はつい呑気に考える。クラスのみんなはパニックになって口々になにか言ってるので、そんなことを考えたのは僕くらいのものだろう。


 そして同時に、


(これ、もしかして)


 とも思う。手元のラノベに目を落として、思わずにやりと笑ってしまった。



 と思ったそのときだった。



 それは、すごい揺れだった。

 あー、今思うと「だった」じゃなく「だと思った」、かな。


 今になって思い出すと、余震もあったし、揺れもそんなに強いものじゃなかった。けれどあの光や魔法陣に気をとられたし、余震にも気づけてなかったから、いきなり起こった地震みたくなってたんだった。


 教室内はパニックになって、頭かかえてしゃがみこんだり、あわあわと何もできずに立ちつくしたり、と、とにかく冷静に対処できたヤツなんかいなかった。


 ……え? 僕? 僕は心の中で「落ち着け、とにかく落ち着け」と念じながらひたすらラノベに集中してました。


 まあ、そんな僕のことは置いといて。


 そんな感じで、地震にみんながあわてふためいててんやわんやになってたもんだから、教室にあふれてた光や魔法陣がいつのまにか消えてしまってることに、誰も気づかなかったのだ。



 人の領域を超越した、地震という天変地異。まあ、天変地異というほどじゃないにしても、それが誰かしらが企んだ異世界転移を失敗させたのはまず間違いないだろう。


 そして。


 その異世界転移の失敗がこの世界に遺してしまった爪跡。それがいったいなんなのか、それについて今のところ僕は気づいてる。


ここのシーンは、できるかぎりテンプレ的に行きたかったところです。


題名にもなってるとおりにオリジナル要素を混ぜたつもりのところなので、それまではテンプレ的な方が効果も狙いやすいか、と思った部分でした。

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