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8話 瑠璃華(るりか)せんぱい、見参 -3


「……なんですか、これ」


 りんが、なぜかすごく満足気な笑みを浮かべてる瑠璃華るりかせんぱいに尋ねてみると、「どうじゃ、いいキャッチコピーじゃろ、私が考えたんじゃ!」と超的はずれな返事があった。


「私が気に入ってるのは『熱く燃やせ!』じゃな! なんかこう、青春まっただ中! みたいで私ら若モンにはぴったりじゃろ!」

瑠璃華るりかせんぱい、それは超絶どうでもいいです。なんですか、この『裏体育祭』って」


 ……うお、めっちゃムッとした顔した。いや、でも、メインで見せたいのはそこじゃないよね!?


「……見たら分かるじゃろ、裏の体育祭じゃ」

瑠璃華るりかせんぱい、謝ります。謝りますし、いいキャッチコピーだと思うんで、だからちゃんと教えてください」


「……しょーがないの」


 めっちゃ雑な褒め言葉だったのに、どうやらそれで機嫌を少し良くしたみたい。瑠璃華るりかせんぱいがチラシを指さしてきた。


「まあ、大会そのものの詳細はそのチラシに載っとるQRコードを読めばネットで見れるから、後で見とくがよい。で、肝心の趣旨じゃが……」


 そこで少し言葉をきって、にや、と笑う。


「聞くまでもなかろうが、そちたちはアレを見ておろう? あの『魔法陣』を」

「……はい」

「よし。ならば次の質問じゃ。あの魔法陣は、我が学園のいったいどれだけの教室に発生したと思う?」


 ……まるで、僕らを試してるみたいな尋ね方だな。そんな質問をしてくる時点で、答えはもう見えてるようなもんだよ。


 けれど、僕はあえてなにも答えないでいると、それを悟った瑠璃華るりかせんぱいがにぱ、と笑った。


「ご名答じゃ。魔法陣はすべての教室で発生しとる」

「え、全部の教室で!?」

「……りん。もうちょっと推察力を鍛えたほうがいいんじゃない?」

「まあ、そう言うてやるな。むしろ、ぬしの勘が鋭すぎるんじゃ。もっとも、鋭いのは想像力も、のようじゃが。いや、妄想力というべきかの?」


 瑠璃華るりかせんぱいのにぱ、がにやにや、へ変化してる。……僕のチートスキルを支える原動力に気がついてるのか?


「話を進めるぞ。あの魔法陣の崩壊で、そちたちやそこのスカタンがチートを身につけたと同様に、学園内の他の生徒も身につけた者がおる。全生徒あわせて……さあ、何人じゃと思う?」


 にやにやしっぱなしのくりんくりんを、僕はじっと見つめたままにする。


 くそ、さすがにこれは勘を働かせて、てわけにいかないぞ。りんが「30人!」て答えたけど、3学年×5クラス×2(僕とりんの2人からだろう)の超絶単純計算からだろう。

 ……たぶん、もっと上。

 ていうのも読まれたみたいだ、にやにや、から、にひ! に笑い方が変わった。




「惜しいのう。正解は103名じゃ」




「ひゃ、103!?」

 りんのバカでかい声。

 もちろん僕はそんな声は出さない。……出さないけど、態度にも出さないけど、その数は……想像以上だった。


 103? チートスキルを持ったヤツが、このリアル世界の、たった一つの学園内に、103人も?


「ひゃっひゃっひゃっ! なぁ、オモロいじゃろ? チートスキル保持者が103名も我が学園にいるんじゃぞ、バクショーもんじゃろ? ゆえに、これじゃ!」


 僕とりんが持つチラシを、指でぱん! と弾いた。『裏体育祭』と書かれたこのチラシを。


 その音で、僕はあることを直感した。それは、おもっきしため息をつくしかない、超バカげた内容だった。


「……瑠璃華るりかせんぱいの差金ですね?」

「うん? なにがじゃ?」

「休学ですよ。3週間の延長。このイベのために」

「ぶぁっひゃっひゃっひゃっ!」


 たぶん、僕の人生の中で一番豪快な爆笑を、目の前の小学生が――小学生じゃないけど――爆発させた。


「ひゃ、ひゃ、か、鹿屋己慧琉かのやみえる、ぬしホントめっちゃオモロいのう! わ、笑える、ひゃっひゃっひゃっ!」


 ……なんつー笑い方だ。見ろ、りんなんかドン引きしてるぞ。


「そうじゃそうじゃ、私が校長に指示した。あのハゲ、頭まで青ざめとったぞ! なんせ、来年までの授業スケジュールが白紙になったんじゃからのう! 今ごろ、緊急職員会議でてんやわんやしとるぞ!」

「……なんて大迷惑な……」

「言うな言うな、私だってあやつの立場にはなりとうない、と思うくらいに反省はしとるって。けどの、」


 浮かんでる涙をふき取りながら、


「人類史上、初にしてラストのこのお祭り、楽しまずにおれるか?」


 涙でうるんでる瑠璃華るりかせんぱいの眼差しが、異様にギラついてる。見た目が小学生だから、その異様さがよけいに際だってる。


 ……思い出した。瑠璃華るりかせんぱいの、影のあだ名。



 『ピカチュウの皮をかぶった悪魔』。



 初めて聞いたときは『ダサっ!』と思ったけど――今も思うけど――、あながち間違ってないのかも。


「もちろん、ちゃんとした名目もあるぞ。『チートスキルの突然の暴発も考えられる、だからこのイベントを機にスキルの正しい使い方を学ぼう!』とな」

「暴発?」

「考えられるじゃろ。根暗なヤツが「アイツ腹立つ、なんとかなっちゃえ!」とか思ったとたん、スキルが発動して……みたいな、の。ンットに、今の若モンはなに考えとるか分かったもんじゃないからのー」


 その筆頭がアナタですけどね、と言いたくなるのを僕は我慢する。


「他人事みたいな顔しとるが、お嬢にも言えることじゃぞ」

「あたし!? あたし、そんなネクラなこと……」

「いやいや、そこじゃなくての。日常で、しかも街中でふと間違ってまたベヒーモスなんぞ呼び出してみい、上から下へのパニックが起こるわい」


 ……なんであの夜のこと知ってんだ。


「『裏体育祭』を通じて、そこんとこをもちょっとうまく制御できるようにはなりとうないか? ん?」

「う、うーん、そう言われたら、たしかにそうかも……」

「じゃろ? そういう意味でも、『裏体育祭』に開催する意義はあるんじゃよ。まあ『裏体育祭』と言っても、そんなムズいことをするわけでもない。1クラスで1チームじゃから全部で15チームか、それらで普通の体育祭と同じく、生徒会が組んだ競技で争ってもらうだけじゃ。カンタンなもんじゃよ。しかもじゃ、」


 瑠璃華るりかせんぱいが、なんかイヤな感じで笑う。


「『裏体育祭』は学校行事と試験の両面をあわせ持っとる、つまり、参加するだけで他の生徒よりも評価が上がるわけじゃ。わが校で、成績のうんぬんが卒業後にも大きくプラスになるのは知っとるよな? 参加する側はいっさい損はせん、そういうルールは設けとるから心配は無用じゃ」


 それで全部を伝えきったのか、瑠璃華るりかせんぱいが小さなため息をついた。


「まあ、私が……というより本来はあそこのスカタンがそちたちへ伝えたかったのはそれだけじゃ。まだ疑問も多かろうが、まずは『裏体育祭』のホームページを読むといい。生徒会あてのメルアドや専用電話番号もあるから、なにかあればそこから……」

「あの、いいですか」


 僕は、瑠璃華るりかせんぱいの話をさえぎって手を挙げた。

 思ったとおり不機嫌な顔で「なんじゃ」と聞いてきた瑠璃華るりかせんぱいに、僕はこう言ってやった。




「僕、不参加で」




 ――しばらく、時間が止まった。




「……ちゃんと聞こえんかったわい」


 不機嫌そうな顔に笑みを浮かべて、でもその笑みは引きつってるというじつに複雑な表情の、瑠璃華るりかせんぱい。


「もっぺん言ってくれんか」

「僕、不参加で」


 感情をおさえた声に、僕は即答してやる。

 不参加の理由はカンタンだ。



 クラス対抗、イコールそれはチーム戦だから。



 まだ天王寺てんのうじ先輩としか戦ってないし、その天王寺てんのうじ先輩は『バカに包丁』だったけど、僕のスキルは間違いなく上位の能力だということを断言できる。そしてその能力の扱いにもかなり慣れてきた。


 さて問題です。


 チーム戦のとき、能力が高いヤツはどんな扱いになるでしょうか?

 ――はい、答えは『優先して出場させられる』。

 …………

 んなバカな!

 なんで僕がほかのヤツらのためにそんな労力を費やさなきゃならないの。そんなことのためにこの2日間をフイにしたつもりなんかない。

 僕のスキルは僕だけのものだ、ほかのヤツことなんか知ったこっちゃないね!

 成績に有利? そんなこととせっかく手に入れたチートスキルを鍛えるのがどっちが大事か、火を見るまでもなく明らかじゃん!



「……己慧琉みえる……」

「……ぬし……」



 胸を張って堂々と言い切った僕に、2人が絶句してる。なんなら、言葉が分からないはずのだるままでが絶句したっぽい顔つきをしてる。

 でもカンケーないもんね! ガマンするくらいなら本音言うもんね!


「ぬし……マジで言ってんの?」

「マジです」

「私の話は聞いとった?」

「バカにしないでください、僕の耳は健全です」




 また、しばらく時間が止まった。




 たとえ瑠璃華るりかせんぱいの怒りが爆発しようが、撤回する気はなかった。


 ――と思ったら、瑠璃華るりかせんぱいは意外にもにぱ、と笑った。


「どうしてもイヤか?」

「はい、イヤです」

「そうかそうか、なら仕方ないのう」


 ……お。にぱ、に、にやぁ、が混ざったぞ? どうしたどうした?


「これはホームページにも書いとるからまた見たらいいがの。さっきも言ったが、これは学園の正式な、れっきとした行事じゃ。それにそんな理由で不参加となると、『学園の認めない事由による欠席』扱いになる。無断欠席、てやつじゃな。鹿屋己慧琉かのやみえる、それがどういう意味か、その鋭いカンで当ててみい」


 ……くそ、瑠璃華るりかせんぱいめ、にやぁ、をやめないな。

 そんなこと、ちょっと考えたら分かる。正式な行事イコール授業の一環だ。それを無断欠席扱いとなると、僕は処罰を受けてしまうだろう。問題は処罰の程度で、すぐ思いつくのは休学だ。


 けど、その程度ならこのくりんくりんはもったいぶった言い方なんかしないだろう。

 だとするなら、これしかない。


「……停学、ですか」


 だとするならその期間が問題だ、と考えようとすると、瑠璃華るりかせんぱいが「ひゃっひゃっひゃっ!」と早くもおなじみになった笑い声をあげた。――けど、その笑い方の質は明らかに悪意がにじんでた。


「おろおろ、ぬしにしてはここ一番でカンが鈍るの。いや、おのれに対しては「こうはならないだろう」とアマくなるのかの?」


 ……まさか。


「お! ようやくここでカンが働いたか。そうじゃ、このイベントに不参加の者は、」


 瑠璃華るりかせんぱいが、くく、と笑った。




「退学じゃ」




やっとこのシーンまで来ました。

次はりんの短いシーンをはさんで本筋へと入っていきます。


が、残念なことに書きだめがなくなってしまいました。

しばらくは、更新のスパンが少し長くなります。

ご容赦くださいm(__)m

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