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8話 瑠璃華(るりか)せんぱい、見参 -2

「さて、冗談もこのくらいでいいじゃろ」


 めっっちゃ満足げにホクホクした笑顔を浮かべながら、その女の子はそんなことを言ってのけた。

 今のあれが冗談? 冗談なの?


「ふしゅう、しゃあぁ!」


 まるで戦闘態勢のネコのようなうなり声をあげながらりんは、僕の陰でなく、寝転がってる天王寺てんのうじ先輩をわざわざ転がしたその陰に隠れてる。どうやら、なぜか、僕も敵性勢力に加えられたらしい……


「なんで!? 僕なりにベストを尽くそうとしたじゃんか!?」

「うっさい! 背中を刺そうとした味方が一番の敵だ!」

「敵扱いされた!」

「まあまあ、過ぎたことでモメるのは不幸なことじゃぞ。モんだのは私じゃがの」

『ホクホクした顔でオヤジギャグ言うなぁ!』


 僕とりんとのツープラトンツッコミにもまったく動じない、そして少女のおっ……胸をこよなく愛し、どこで覚えたかも分からないヘンなしゃべり方をする、女子小学生とも見まごうこの人物こそ。




 そう。

 ――東之京瑠璃華ひがしのみやこるりかだ。




 東之京ひがしのみやこ財閥のムスメってだけですでに目立ちすぎるのに、加えてこのキャラ性。葛城学園でこの人知らなきゃモグリだ。……いや、それってモグリというよりうちの学園関係者ですらなくなるよな。


 これだけを見てたら、ホントにこの女のコが――年上なんだけど――うちの学園を事実上牛耳ってる重要人物には見えない。――そう、これだけを見てたら。


「……で、葛城学園生徒会会長様が、わざわざこんなとこまでお越しあそばせたのはなんででしょうかね? まさかりんのお……胸を揉むためだけにあうちっ!」


 まただるまに噛まれた!


りん、お前だるまに噛めって命令したな!」

「うっさいわよ、今のもあんたが悪いんでしょ!」

「あー、先に進めてもいいかの?」

『あ』


 天王寺てんのうじ先輩のときと同じ展開だなぁ……

 東之京ひがしのみやこ先輩はふわふわの髪を手で軽く払い、一つ咳ばらいする。


「私が東之京瑠璃華ひがしのみやこるりかじゃ」


 東之京ひがしのみやこ先輩がにぱ、と笑った。……ホント、なんにも言わなきゃただの小学生だよな。


「私がそちたちに用件があるのはたしかじゃが、とにもかくにも、まずはそこの愚か者について謝らねばなるまい」

 そう言って、東之京ひがしのみやこ先輩……

「あ、私のことは瑠璃華るりかせんぱい、と気さくに呼んでよいぞ」


 ……なんで聞こえてんだよ。


 あー、まあいいや。瑠璃華るりかせんぱいはぶっ倒れたままの天王寺てんのうじ先輩をくいっとあごで指す。……へえ、まさか『謝る』なんて言葉を、この人が使うなんて。


「こやつを向かわせる前に、『手を出されないかぎりぜったい手を出すな』とあれほど口すっぱく申し伝えておったのじゃがの」


「あ、あう……」


「お言葉ですが、ひがし……いや瑠璃華るりかせんぱい、あれはそうなるように僕が仕向けたんですがね」


 すると、瑠璃華るりかせんぱいがとても楽しそうにひゃっひゃっひゃっ! と大きな笑い声をたてた。


「あれな! 見ておったよ! 久しぶりに爆笑させてもろうたわ! いやぁ、ぬしはオモロいのう!」


「え、あ、そうですか……」


 大財閥の一人娘、にしては豪快というか奇っ怪というか、ウワサよりもはるかに、はるかにハネた個性に圧倒されつつも、僕はとても重要な一言を聞き逃さなかった。


 ……見てた?

 僕と天王寺てんのうじ先輩とのやり取りを?

 『モニタリング』で監視網を敷いてたこの領域で?

 ……この魔法は侵入者すべてが対象になる。だというのに、このくりんくりんが領域内に侵入するイメージは一つも届いてこなかった――


 そんな僕の視線に気づいてないのか、涙を浮かべるほどに笑い尽くしたあと、その涙をこぶしで拭き取りながら――だから小学生みたいだって――、


「だがしかしの、じゃとしてもそやつが私の命令を無視したのは歴然とした事実じゃ」


 そして――




「その報いは骨の髄まで払わせにゃならんのう」




 ――凍りつくような視線。比喩するならその言葉以上に似つかわしいものはないほど冷たく鋭い視線で、瑠璃華るりかせんぱいは寝転がったままの天王寺てんのうじ先輩を見すえた。


「あ……う……!」


 そして、重体になってさえ僕をにらんできた天王寺てんのうじ先輩が、その視線に明らかにおびえていた。


 ……ふん、そのあたりはさすが東之京ひがしのみやこ財閥のムスメ、といったところかな。見た目にナメてかかると、頭から食われちゃう、ていうわけだ。


瑠璃華るりかせんぱい、そのへんでいいんじゃないですか? そもそも、天王寺てんのうじ先輩は僕の相手にならなかったわけですし」


「ほう。鹿屋己慧琉かのやみえるよ、ぬしは私に指図する気かの?」


 ――なんだかなぁ。その視線を僕にまで向ける? でも、そもそも僕と天王寺てんのうじ先輩との戦いはあくまでも僕ら2人のものだ。そのうちの僕が「いい」と言ったんだから、たとえ瑠璃華るりかせんぱいでも口出しする権利はないはずだ。

 ……て気持ちをこめながら瑠璃華るりかせんぱいの視線を真っ向から受けとめてると、くりんくりんせんぱいはやがてまた小学生みたいに、にぱ、と笑った。


「善き、善き。あい分かった、ぬしに免じて許してやろう。天王寺てんのうじよ、助かったの」

 すると天王寺てんのうじ先輩は、恐怖! からの安堵……という落差に加えて体力の限界がきたみたいで、そのまま気絶してしまった。……たぶん、人生で一番どん底の日だろうな。


「さて、ずいぶんと横道にそれたが、そろそろ本題に入ろうかの」


 そう言って、瑠璃華るりかせんぱいは絶賛気絶中の天王寺てんのうじ先輩へトコトコと歩きはじめる。


「そもそも、この愚か者をここへよこしたのは、そちたちにあるものを渡すためだったんじゃが……あれ?」


 べろん、とあお向けにひっくり返してブレザーやズボンのポケットをあさり始めた。


「あれ? あれ? ……こやつ持ってきておらんぞ! こんのスカタンが!」


 がしっ! と蹴飛ばして、天王寺てんのうじ先輩を川のほとりまでころころと転がすと、なにを思ったのか瑠璃華るりかせんぱいはいきなりがば、となにもない空をあおいだ。そして、


「おい、世田谷せたがや! 天王寺てんのうじのやつめ持ってくるのを忘れとるぞ! すまんが2通、よこしてくれ!」


「……ねえ己慧琉みえる東之京ひがしのみやこ先輩、疲れてるのかな?」


 りんがぽそぽそと小さく聞いてくる。

 なにもない空を見あげて、だれかに話しかけてる小学生。小学生じゃないけど。

 僕はうなずこうか悩んでしまったけど。

 ――そんな僕とりんの目に、理解しがたいものが映った。



 紙だ。



 2枚の紙が、ふわりと空から降ってきた。

 ひらりひらり、と舞って、瑠璃華るりかせんぱいが伸ばした手へ吸いこまれる。


「さすがは副会長よ、仕事が早いの! さんきゅーじゃ!」

『…………』


 ……もしかして、今の声は副会長とやらに届いてた? そしてその副会長が2枚の紙を空から降らせた?

 ……副会長もまた、なにかのチートを手に入れてるのだろうか。


「おう、これじゃこれじゃ。ほれ、ひとり1枚ずつあるぞ」


 歩み寄ってきた瑠璃華るりかせんぱいから紙――というよりチラシを受け取って、見てみる。

 そして……


『は?』


 僕とりんは一緒に声をあげた。

 チラシには、デカデカとした文字でこう書いてあったのだ。




『葛城学園、裏体育祭開催! キミのチートを熱く燃やせ!』




ひょうひょうとしてるのに、突然するどくなったり底の見えない恐怖を覚えさせたり。

そんなキャラほど、なぜか魅力に富みます。

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