6話 元キャンプ場で遭遇 -2
…………。
くそ。
マジでくそ。
なんで、なんで……
「なんで僕が上着貸さなくちゃいけないんだ……」
結局、凛の逆ギレ、いや僕が怒らせたんじゃないから八つ当たりだ、八つ当たりに圧されてしまって、上着を貸すことに。
あーあ。僕の上着、びちょびちょだ……
「いつまでもすねてんじゃないわよ、男のコでしょ男のコ」
「サベツだ、男女サベツだ」
こんな時にオトコを持ちだすなんて都合よすぎでしょ……
……まったく。
「でもさ」
「……なに」
「そうやってなんだかんだ言いながらもさ、貸してくれるのが己慧琉のいいとこなんだよね」
とか言って、にこっと笑う凛。
「……」
なかばムリヤリ上着をひっぺはがされるのがいいとこなんて、僕は認めないぞ。
「もういいよ、諦めた。それより服乾いたらすぐ帰るよ。休みが延びたからって、確かめたいことはまだ山のようにあるんだし」
すると、凛があからさまに不満げに口を尖らせた。
「えー、せっかく休み延びたのにまだ同じことすんの?」
「棚ボタの休みだから余計にすんの!」
そうなのだ。
昨日の夜、急に学校から全生徒に通達があったのだ。
『校舎の躯体に深刻な損傷が見つかったため、補強工事が完了するまで3週間休学とする』
どうやらあの地震は、僕らが思ってたよりもかなり強烈だったようだ。
とはいえ、直接的に被害のなかった僕にとって、あまりにも好都合だった。その間にこのチートスキルを使いこなし、かつ自分のレベルを上げなくちゃいけない。
けど、それが凛にとっては納得いかないらしい。
「ねえ、昨日も聞いたけど、なんでそんな急いでるの? そんな集中力あるなら、もっと勉強にそそいだらいいのに」
……よけいな一言をつけ足すなよ。
そりゃ、学力テスト学年5位の凛からしたらそうだろうけど、誰にも言ってないけど僕も実は18位なんだ。本当はもっと上に行けるんだけど、行ったところでご褒美が出るわけでもないから手を抜いてるんだ。10連ガチャを10回まわせるだけの石がもらえるなら本気も出すけどさ。
……いかんいかん、余計な話だった。
凛の質問に、でも僕はできるかぎり答えたくなかった。凛の召喚魔法が便利だからこうして2人で行動してるけど、僕のスキルを明かすのも本当を言えばしたくなかったんだ。
それにはれっきとした理由があるんだけど……どうしようかなぁ。
と、悩んでたその時だった。
「……! 誰か来た!」
僕の脳裏に、突然あるイメージが流れ込んできた。
この元キャンプ場を中心に、僕はあらかじめ『モニタリング』の魔法で結界を張っていた。この魔法ももちろん僕のオリジナルで、結界内に外部から侵入者が踏み入れると、そのイメージを術者へ伝達するのだ。
「え、うそ! こんなとこに人来るの!?」
凛が僕の上着でさらに強くぎゅっと身を包みながら――あーあもっと濡れてしまう……――、不安そうな顔つきになる。
凛へうなずき、「逃げようか」と提案しようとしたその直前で、たえず流れ込んでくるイメージに目を疑った――実際には見てないけど――。
『モニタリング』は結界から侵入者が立ち去らないかぎりリアルタイムでイメージを送ってくる。逆に言うとイメージが送り続けられてくるということはつまり、その人物がどんどん侵入を深めてきてるというわけなんだけど――
「なんだ……? うちの制服?」
この元キャンプ場へ続いてる遊歩道を歩く人物は、うちの高校の制服を着ていた。
やせ気味のせいか目つきはとがってて、短い髪をハネさせて、ブレザーの下のシャツはだらしなくズボンから出してる。
見たことないヤツだ、と思ってすぐにそりゃそうだと気がつく。ブレザーのソデをふちどる緑色のチェック柄、それは2年生の証だ。
「うちの2年生がなんでこんなとこに来てるの?」
おもいっきり不安げな凛に、「かんっぜんに僕ら目当てだね」と言ってやる。
こんな山深くなのに徒歩という移動手段、迷いなく進んでくる足取り、僕らと同じ高校のブレザー。これでコイツがここに来たのが偶然なんだとしたら、そんな運はガチャに使いたいよ。
だから、僕らが目当てなのはハッキリしてる。ただ、少なくとも好意的でないのは、ソイツが手にしてる木刀が物語ってる。
もし楽しんでいただけたなら、ポイント・感想・レビューいただけると幸いです^_^
ストーリーの進行の遅さに気づいていつつ、ついつい書く楽しさを優先してしまってます。
これからの課題になりそうです。