なな。
詐欺師って頭良くないと出来ないような気もするでしょう?
ああ、違うか。こんな仕事、同業者には失礼だけど、馬鹿しか就かない。
舌が回って、べらぼうに変なこと言って、相手を惑わして。
相手に損を、自分には得を。
変なものを買わされて息子や娘から怒られるおばあちゃんやおじいちゃん。
幸せになるのはいつだって自分だけ。
あー、いつからだろ。
こんな犯罪者になってさ、生きてく必要あるかな。
この日本で私のような腐った人は有り余るほどいるけれど、普通に頑張って働いてる人もいて。
ほら、あそこの少年。
いまにも倒れそうになって、たくさんの不良から女の子を守ってる。
かっこいいなぁ。
なんで、私もみんなも見て見ぬふりしてるんだろ。
こんなのおかしいじゃん。
口は勝手に動く。
私はとうに詐欺師なんだから、誰に対しても詐欺を働くだけ。
詐欺師の気まぐれ。
たまたま営業用に持ってたナイフちらつかせて、狂った人になるだけで簡単に不良は逃げてく。
さて、私はいい人じゃあない。
逃げないでその場にいた君たち、どうなるか分かってるよね?
....女の子は気絶、男の子も殴られまくって気絶。
あー、もう。締まりないんだから。情けない。
このまま放置してさっきの不良たちが戻ってきてもつまんないし、運びますか。
.....重い!!!!!
どっちも!!!!
なんとなく二人とも私の車に連れてきてしまった。
このまま罪を重ねるのも悪くないような気がして、拉致を決行。
ガムテで口ふさいで、手首もガムテでまいて。
逃げられる気満々だから、大して強く巻いてない。
なにがしたいんだろう、私。
呑気にラジオなんか聞いて。
私の家でも、どこでもないどこかへ向かって高速乗って。
「昨今、オレオレ詐欺が流行っておりますがおばあちゃんに対して忠告...」
あー、刺さる。
後ろで身じろぎする音。
やっとふたりとも起きたかな。
走り続けて四、五時間経ってるんだけど。
ちょい起きるのおそすぎ。寝坊だよ。
「起きるの遅い。」
後ろからもごもごとしてる声。
それ、すぐ簡単に外れるから。まだ外してなかったんだ。
「その拘束、めっちゃ弱いから。そういうのいらないから。」
沈黙が流れて、男の子の方の声。
「あの...たすけてくれてありがとうございました。それで...一体僕らはどこへ連れていかれるんですか?」
まず感謝するのは律儀ないい子。
行先を聞くのはいいけど正直に答えるとも限らないのに。
「どーも。わからない。ただ走ってるだけ。君たちを唐突に拉致したくなって。」
自分でも何言ってるのかわかんないね。
やっと女の子の方の声も。
「なんで、私たちなんですか?」
さてね。
「...私は詐欺師やってるの。なんとなく。...だから、あなたたちのことも同じくらいの気軽さで。」
あと言えば、偽善。
女の子の方、夏なのに冬服っておかしいもんね。
ただのお節介。
詐欺師が人を救えたらいいって、もう頭ん中ぐちゃぐちゃになってるなあ。
「わたしのもとで、働いてもらうから。」
まあ、詐欺はやらせないけど。