に。
「ほら、こっち手を出せよ。」
なんの悪気も無い少年につい唸ってしまいそうになる。純粋に受け取れきれない、私が悪いのだろうか。
不思議そうに私の顔を見つめた少年は、私の手を勝手にとると、彼はいつからか常備し始めたばんそうこうを巻き始める。
私は彼のことが好きだ。私がわがままを言うと大抵彼は聞いてくれるし、不器用な私に寄り添ってくれている。
でも、彼は心配性だ。段差があるとすぐに大丈夫か?と聞いてくるし、家庭科の裁縫の授業があると毎回救急セットを作って持ってくる。
だからこそ、私はこうして速やかに処置をしてもらえているのだけど。
でもさ、と。
過保護気味な彼に一言申したいのだ。
いつになったら私のことを好きと言ってくれるの?と。
私はまだ彼にこの気持ちを伝えてはいない。
でも、十中八九両思いで、もう彼女彼氏みたいなものなのだ。
いい加減、私だって彼に抱きつきたい。
それなのに何故私が告白してさっさと恋人にならないかというのは、彼が待ってほしいと言ったからだ。
頑張って深夜の船から東京の光を眺めつつ、二人っきりでイチャイチャしたいと考えてる私も、夕日の差し込んだ教室でいい雰囲気になって、好きだよと言おうとしたのだ。
それに気付いた彼は私の手に人差し指を当てて、しー、黙らっしゃいの合図。そんなことされたら私も黙っちゃうわけで。
「だめ。そこから先、いつか言うから待って。」
なんて、恥ずかしそうに言うから可愛くて可愛くて。
そんなのにやられちゃって、もう早三月。
ほんとに一体彼はいつ告白してくれるのだろう。
今日も指に出来た傷がちくちく痛むのを感じながら、手を引かれつつ、彼と一緒に帰る道。
私と一緒にいるうちに彼はどんどんささやかな気遣いが出来るようになったようで、いろんな人から告られている。
決して彼の気遣いは私だけに向いているのではなく、周りの人にも向いているはずなのだけど、やっぱり彼は私にずーっとついてくる。
でも、私は悪くないって言いたくなってしまう。
彼が待っていろと言ったから待っただけだし、あー、でもそんな責任を彼に押し付けるようなことしていいはずないような気がして。うーん。
だからこそ、私は今日無茶なことをした。
二人の不良が私の可愛い後輩に絡んでいるから、彼の助けを願って、不良の前に立ちふさがって。
そしたら、叱ってくれるかなって思って。
想像通り、彼は何も言わず不良をやっつけてくれた訳だけど、でも彼は私を連れて後輩のいるその場から去るように走った。
この道は、私と彼が出会った場所だ。
今より遥か前、小学生のころ。
彼は弱くて、私は強かった。
いじめられてる彼を救えたのは、あれで最後だったなぁ。
その時の私は、喧嘩強いという訳じゃなく、意思が強い、何度打たれても蘇るゾンビみたいなものだったから、ちょっと怖かったかもしれない。
そんなこの道を、怒ったようにただ無言で前を行く彼は、いつもより歩くのが早かった。
不意に。
ロマンチックさもない、ただの帰り道。
商店街を抜けて人も周りに見えない、少し田舎のような空間。周りには田んぼばっかりで、車さえ見えない。虫の鳴き声さえ、聞こえない。
ここだけ切り取ってみればほんの少しだけ神秘的に見えて、じゃあロマンチックかもしれない、そんな空間で彼は立ち止まった。
そうして、振り返ってこう言うのだ。
「好きだ」と。