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じゅうご。

あー。


うーん。どうしよ。


お揃いがいいな....あ、これ!


勾玉の二つセットで、組み合わせができる...


うん、これで!...はい、割れ物なんですね、わかりました。


一つは鞄にしまって、もう一つは手に持っていっちゃおーっと。


んー、ただいまー。




深夜の今。椅子に座って物がほとんどない自室で机に突っ伏して考えていた。


明日、渡したいものがあるって言われた。

なんだろうか。ラブレター?いやいや、この前家族ぐるみで水族館行ったとか言ってたし、お土産か。

年不相応に幼い彼女とは、もう随分長い付き合いになる。

日頃から一緒に馬鹿騒ぎして遊んだり、高校でも孤独に染まり一人浮きそうな俺を見放さないで、わざわざ俺の友達作りのために走り回っていた。

お節介なやつ。

印象としては今も変わってない、昔からお節介だった。

しかし、俺の中では。

彼女への気持ちが芽生え始めてきているのを自覚してしまった。

俺と彼女がここまで友人としてやってこれたのは、恋愛感情を抱いてこの居心地のよい関係を壊さなかったからだと思っている。

だから、ひたむきに、バレてしまわないように必死に隠した。

俺のことを彼女が恋愛的視線で見つめてきたことはない。

両思いになることも、不可能だろう。

もしかしたら気を遣って彼女になってくれるかもしれないが、それは誰だって嫌だろう。

...こうした、普段と違う言葉を投げかけられるだけで、真っ先にラブレターと出てきてしまうのは、なんか、ダメだろう。こう。

それでも、最近の彼女の行動には不思議が多い。不自然に明るいような気がする。

なにか、良くないことが起こってるのだろうか。

机に乗っている、彼女が買ったからという理由で買った青色の携帯を手に取る。

青ランプの点灯。メッセージが届いた時の反応だ。

良くない知らせが届いたのかもしれない。

通知、一件。

....彼女から。


「会いたい」


....おかしい。

今は深夜と言える午後十一時だ。

こんな夜更けに女の子一人歩いてられるほど、彼女の親は放任主義じゃない。

むしろ、親は今時よく見る、門限が厳しくて、お金を使うのも理由を説明しないとダメな親だった気がする。

もしかして、親と喧嘩したのか?

だらしない青Tシャツグレーの短パンの服装を整える暇もなく、玄関で運動靴を穿いて飛び出す。

集合場所を入れないのもいつものこと。

俺達が何も言わず集合する時は決まってここだ。


夏が終わろうとしている。

ここのセミの鳴き声は鬱陶しいくらい騒がしいと思言いつつ、毎年セミの声が聞こえなくなることを寂しがる彼女は、一人、制服姿のまま椅子に座り込んでいた。

俺から背を向けるように座っている彼女の隣に座ると、単刀直入に俺は切り出す。

いつも俺の姿を見た瞬間犬みたいに反応するのに、今日は無反応だし、相当落ち込んでるようだ。


「どうした」


....顔上げて、涙を零しながらこっちを向いた。

そんなに泣いて。明日友人に心配されるぞ。


「ひっく....うう...うううう.......」


息もできてない、泣き声も随分歪になってる。

....相当、残念な知らせな気がする。



彼女が泣き止んだのは、セミの鳴き声が聞こえなくなったと気付いた時だった。

まだ、この時期は少し暑い。

そうして、やっと彼女は口を開く。


「私ね、転校するの。明日も、みんなにお別れ言えない」


...引越しと言われて、ここ最近の変なテンションに納得できた気がした。どうせ、最後だからこそ思い出に残したいと思っていたんだろう。

今、知った。

悔しい。悔しいなぁ.....教えるの、遅い。


「ほんとは、ね?...明日まで、明後日までは大丈夫だったの。...でも、お父さんが。唐突に、今日中に、転校先へ向かうって」


だから、制服姿のまま、飛び出してきたのか。

あー、なんだか目頭が熱くなってきたような気がする。

まだ、話は終わってないそうだ。


「私のこと、忘れないようにって、お揃いのプレゼントも買ったの。でもね、片方、お父さんにこんなもの買うなって壊されちゃって。...鞄に入れてた、こっちは無事だったの」


そういって肩掛けのスクールバッグから小さい紙袋を取り出すと、封を開けて、何かを取り出した。

紙袋を椅子の上に置いて、一つに見えるそれを、二つに分けた。


「これ、二つで一つの勾玉。青色と、ピンク。青色大好きだもんね。ほんとは二つでお揃いにしたかったんだけど、ネックレスとして着けられる方は、あげる。」


ピンクの勾玉を左手に持ちながら、右手で青の勾玉が着いたネックレスを渡してくる。

彼女がピンクの勾玉を青色の勾玉の反対にそっと置くと、何か嵌ったようにぴったりくっついた。

月に翳してみると、ピンクと青の柔らかい光が見えた。

彼女はピンクの勾玉を躊躇なく外すと、立ち上がる。


「また、会いたいな。....さよなら」


呆然と口を開ける俺の前で、何にも出来ない、何にも言えない俺を置いて、去っていく。



笑顔を残して。


笑顔なのに、涙が零れていた。



座り込んで、追いかけられずにいた。

何の言葉をかければいいのか分からない。

なんにも言わなかったら二度と会えないだろう。

足を立ち上がらせることが出来ない。

彼女の影はもう見えない。

俺は椅子の上で顔を伏せて、静かに泣いた。


光は月の優しい光と、虫が群がる一本の電灯だけ。

今日中に出れるという話が出るくらいだから、彼女はもう、準備が出来ているはず。

父親の言っていたタイムリミットが来る前に彼女は出ていく。

彼女と駅で別れて、どれくらいの時間が経っていた?

六時には別れて、お揃いの勾玉を探して。

それを壊されて。



こんな、ちっぽけな。

俺と彼女を繋ぎとめるには、あまりにも小さな勾玉じゃ、また巡り会うことなんて出来ないだろう。

余りに、足りない。

体はやっと硬直から開放されたようだ。

立ち上がる。けど前を踏みしめる一歩の力が出ない。

そして、諦めるように座ろうとしたその目に、紙袋が見える。

中を見ないで手探りで取り出すと、一枚のメッセージカード。


『好きです。』


ああ、ずるいじゃないか。

俺がずっと悩んでいたこと、こんな形で伝えてくるなんて。

まだ、俺の気持ちを伝えていない。

分かってるかもしれないが、言い逃げはさせたくない。

例えもう二度と会えなくたって、この言葉は言わなくちゃ。

メッセージカードをポケットに入れて、青の勾玉のネックレスを着けずに握る。

急がないと間に合わないだろう。


走る。走って、追いつかないと。

久しぶりに全力疾走して、靴下を履いてない靴中で靴ズレを起こして、足が、呼吸のし過ぎで、肺が痛い。

静かな夜に、騒がしい足音と呼吸音が響く。

石につまずいて、思いっきり頭を打ちそうになる。

脚が震えてきて、こんな服装であの親御さんに挨拶しに行ったら、殺されるかもしれないということも考えて、走り続ける。

角を曲がった先、奥の車の光。出発する直前の車。



「すいません!話を、させてください!」



車から降りてきた彼女は、制服のままだった。

表情は嬉しそうで、でも困ったように眉を下げている。

多分、ここから先、俺が立ち止まる意味はない。

降りてきた彼女に一歩、二歩近づいて、肩が触れるぐらいまでの距離に近づく。

彼女は何かを言おうとして、それを言わせる前に、強引に抱き寄せる。

初めての彼女の体温は、温かくて柔らかい。


「俺は、好きだ。そっちは、どうなんだ」


凄いもどかしいぐらい不器用な言葉しか出ない。

顔が熱い、湯気が出そうなくらいだろうか。


彼女は真っ赤な顔を左右に振って、何かに抵抗するように手も酷く無茶苦茶に動かして、最終的に脱力しきって俺の体体重を預けて、肩の上でもぞもそと一言。


「私も好きだよ」

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