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じゅうに。

また。


蓋を開けたら一枚の便箋。

便箋はシンプルに薄い青色のクレヨンの色。

裏側の真ん中の閉じるところにひよこのシールが貼ってある。

ぱっと開いて、中身をとって、さっと流し読み。


『放課後、屋上でお待ちしております。もし、来るのが面倒くさい場合は、いらっしゃらなくても、大丈夫です。』


シンプルな男の子の文字で、少し震えていて。

飾りっ気もないし、名前も書いてない。

便箋の基本がわかんないのかな。


男の子がきっと必死で書いた便箋を、ぐしゃぐしゃに丸めて鞄の中に放り込む。せめて、家の中で捨てよう。


でも、仕方ないから行ってあげる。

こんなに上から、おかしいけど。




遅い。


放課後待ってますって言ったなら、最低でも急いで屋上来るよね。

またいたずらかな。裏で動画なんか撮られて。

大人しく無視しとけばよかったかな。

それにしても、全然終わんないな。中学の時は四、五回で終わったのに。誰とも私は付き合う気ないのに。

人から好意を向けられるのも、悪意を向けられるのも疲れた。もう私の事放っておいてほしい。



...がちゃがちゃ、ばたばたばた、そして男の子の荒い息。


遅いよ。もう、真っ赤に降ってきた夕焼けが輝いてる。遅れてきた男の子から私を見ると私も輝いてるだろうか。

さて、どんな言い訳してくれるんだろう。


「ごめんなさい!...」


聞こえてきた男の子の声は、予想以上に気弱で、それでもしっかりとした意志を持ってるように聞こえた。

....言い訳は、しないんだ。

じゃあ聞いてあげる、ほんの少し気になるし。


「なにしてたの。」


「....色んな先生や友達に、用事を頼まれてしまって。」


ばっかみたい。

普通、こういう大事な時にはそういうの、事前に言っておきなよ。

友達とか、応援してもらったりしないの?


「ふーん。...で、なんで呼び出したの。」


分かってるのにこの言葉、意地悪だなあ。

まだ、振り向いてない。

この状態で聞こうとするの、まあいっか。


「....あなたのことが好きです。」


「私の事好きなくせに、私優先してくれなかったんだ。」


ああ、言うつもりじゃなかったんだけど。

ついポロッと本音が出た。


「はい...」


...言葉も出ないって。


「私待たせたんだから、交渉。

私が意地悪なこと知ってるよね。意地悪な交渉をしよっか。」


慌てるように息を吸いこんだ音が聞こえると同時に振り向いて、早口にまくし立てる。


「私と、『付き合ってるフリ』をして。

私はあなたに恋人らしいことをする気は無い。

ただ、いい加減疲れたの。

周りには付き合ってるフリってこと、言っていいから。」


そこまで息継ぎもなしに言い切って、やっとその男の子に目を合わせる。

男の子は気の弱そうな平凡な外見で、顔が真っ赤になって、混乱したように目が回って、大変そうね。


「...はい。交渉、ですね。」





昔のこと。

面倒臭いしもう付き合った方がいいかって、気軽に付き合ってみた頃。

私といてもつまんないって。

なにそれ、勝手に離れていってよくわかんない。

...俺の気持ちを考えろって?

....なんで、私があなたの気持ちを考えなくちゃいけないんだろう。

最終的にその子ストーカー化して。

危ないから護身術学んで、案の定襲われて、余裕でぼこぼこにしちゃって。

...護身術楽しすぎて趣味になったのは秘密。


付き合っても何一つして好転しなかったし、無駄な時間だった。

まだ家で音楽聴きながら本読んでたほうが楽しかった。


その時のこと思い出すと、付き合うってことにいい印象はない。

ただ、今回は気弱そうだったから利用しただけ。


付き合って、一週間。

あれから私は一回も彼と会ってない。

でも、蓋を開けたら便箋が入ってることはなくなった。


案外、お喋り好きな女の子に一言でも漏らせば情報はすぐ拡散するから。

大体、ロクでもない噂付きの。




彼氏彼女っぽいことなんにもしてないのに、こんな現場。

気弱そうな男の子、たくさんの不良に囲まれて、殴られて蹴られて。


「よお、付き合ってるんだってな。

嘘だろ?嘘って言ったら、解放してやるよ。

お前なんかが付き合えるはずないものな。」


不良、笑い方気持ち悪いなぁ。


「違います....」


否定する意味ある?...それが真実じゃん。


「いいんだぜ、さっさと吐けば。そしたらあの女、捨ててきてやるよ。どうせあの女は嘘つきでクズでゴミ箱に放った方がいいんだからよお。」


ああ、無理しないの。空振るよ、そんなの。


「...っ」


あなたがムキになったから、さらに暴力はひどくなったし。


ばらせばいいだけの話じゃん。



ばか。




「私の彼氏さ、いじめたよねー。」



「あっと、あー、はいはい。転がってて。」



「かっこわる。ほら、手。」



「あーもう、ボロボロじゃん。本当にかっこ悪いよ。」






「...好きです。彼氏になってください。」







「....気絶してるし...今度は私を守れるくらい強くなってね。」

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