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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
はじまりの一歩
97/111

君が煽るのが悪い⑤

■■■





「進展がない? 」


「うん…… 」


「ちょっと私には話が読めてこないんだけど…… 」


 息吹はそう言うと、熱々のデカフェのコーヒーを口に運びながら小難しい表情を浮かべた。

 深夜三時くらいに 急に朱美から「相談がある! 」と泣き脅しのような電話がきて、夜勤明けに八重洲のコーヒーショップに集合する羽目になったものの、まあ言うなればただのノロケ話に付き合わされているというのが現在の状況だった。


「で、好きとは言われたの? 」


「多分…… 」


「多分って、どういうことぉ? 」


「だって、わかんないんだもん。はっきり言われた訳じゃないし 」


 息吹は一応朱美に質問をするのだが、その返事はどうも歯切れが悪い。正直言ってガラス張りの店内に差し込む寒空の朝日はモグラ生活にはかなり堪えるのだが、そこは十年来の友人ということで我慢してやるしかない。


「ねえ、息吹…… 」


「なによ?  」


「あのさ、野上さんと最初どういう感じだった? 」


「えっ? はい? 」


 息吹は朱美の唐突な質問に声を裏返す。あまりのダイレクトな物言いに、息吹は思わずフリーズした。


「だからムードとか…… 雰囲気とかさあ…… 」


「何で そんな詳細を朱美に話さなきゃいけないのよ? 」


「だって他に聞ける人なんていないもん。桜ねぇに聞いたら殺されそうだし、茜はちょっとねえ…… 」


「そんなの私だって良くわからないよ。っていうか、私はされるがままだし 」


「何それ。なんか普通に羨ましいんだけど 」


 朱美はそう言うと、頭をガックリと落としてテーブルに肘をつく。

 何にもされないし、何も起きてない。

 昨晩だって一緒にテレビを見ていたと思ったら、いつの間にか吉岡は帰ってしまっていた。部屋中にワインの匂いがしていて 一本空いていたから 寝落ちしたことは謝るけど、一般的に男性はそこで帰っちゃうもんなのだろうか?


「あのさ息吹、タイミングというか、どれくらいでそんな感じになった? 」


「なっ、私、そんなことまで話さなきゃいけないの!? そんなの秘密だよ、ヒミツっ! 」


「……息吹のケチ 」


 自分たちの感覚は今は夜の七時だが、現在の時刻は朝の七時だ。まわりの客層を考えたら、さすがに声に出していいことといけないことは忖度しなくてはならない。息吹はモーニング中のビジネスマンに聞かれないように声は潜めつつ、しかしながらしっかりと朱美にこう続けた。


「朱美、気持ちはわかるけど、そんなに焦ることはないと思うよ。先走ると、朱美なんかやらかしそうだし 」


「やらかす? そんな訳ないじゃん。っていうか、そもそも何も起きてないんだから 」


「そう…… なの? 」


 野上経由で聞いていた話と若干食い違う点があるような気もするが、余計なことを言うと話がもっと拗れそうなので、息吹は黙っておくことにした。


「息吹は順調だから、そんなこと言えるんだよ。野上さんは普通っぽいし…… それに若いじゃん? 」


「まあ、それはそうだけど…… 若いって関係あるの? 」


「ある、絶対ある 」


 朱美は謎の確信を持ってそう断言すると、トーストをかじる。そしてコーヒーを一口含むと、こう続けた。


「確かに私は胸もないし、顔も良くないし、見た目の魅力は低いと思うよ? けどさあ、そういうのって男の人からすれば色眼鏡でなんとかしてくれると思ってたのっッ 」


「はい? 」


 息吹はもはやツッコむことすら放棄して言葉を失っていた。そもそも朱美は華奢ではあるがスタイルは悪くないし、目鼻立ちもくっきりして顔も可愛いらしい部類だろう。それなのに彼女は自分自身の実力をまるでわかってない。まあ、周りにいるのが現役のアナウンサーとか、ナイスバディの総長とかだから、必然的にそうなるのかもしれないけれど、それにしても自分を卑下し過ぎではなかろうか。


「朱美、なんかさっきから妄想が一人歩きしてない? 」


「妄想? そんなわけないじゃん。私は真剣に悩んでるの。ってゆうか、吉岡ってもしかしたら●●なのかな? それなら今までの経緯にも全部辻褄が合うんだよね 」


「ブッッ…… 」 


 息吹は朱美から発せられたアルファベット二文字の単語を聞くなり、反射でコーヒーを吹き出しかけて、それを無理矢理ハンカチで押さえ込んだ。

 何故、ここまで一気に突き抜けるんだい?

 駄目だこりゃ…… 

 これではいつまでも埒が明かない。


「ちょっ、息吹、何で吹き出すのっ! ちょっとっ 」


「ごめんっッ…… っていうか、朱美は飛躍し過ぎでしょ? つーか真面目な顔して、そういうデリケートな単語言わないでよ。まだ一ヶ月二ヶ月でしょ? 普通だよ。確認もしてないのにそこまで話が壮大になったら、さすがに吉岡さんが気の毒だよ 」


「普通、そういうもん……なの……? 」


「うん。朱美こそ乙女漫画の読み過ぎだって。現実はそんなにテンポよく進まないから。ましてや朱美と吉岡さんは元々は仕事の相棒じゃん。最初から男女の関係を前提として出会った私とみっちゃんとは事情は違うでしょ 」


「そうなの……かな…… 」


「だって、朱美も口ではギャーギャー言ってるけど、いざそうなったら恥ずかしいでしょ? 」


「そりゃまあ…… 確かに…… 」


「朱美と吉岡さんの場合は、今までの築き上げてきたものがあるでしょ。キスまでは、まあ……何とかなるなもしれない。でもそれ以上に踏み込んだら確実に仕事のパートナーだけだった頃には戻れなくなるよ? 朱美はいいかもしれないけど、吉岡さんは立場もあるだろうし 」


「それは…… 」


 さっきまでの威勢はどうしたのか、朱美はウーンと小さく唸る。


「ねえ、息吹…… もしかしたらさあ…… 」


「……もしかしたらって、何? 」


向こう(吉岡)は私がワガママで、扱いずらくて、仕事ちゃんとしないから、うまく丸め込むために仕方なくそういう設定にした…… この可能性も否定はできないよね? 」


「はあ? 」


「それなら、全部納得がいく説明がつくもん 」


「あんたねえ…… 」


 そんな面倒しかない女を 仕事のために手元に置いてく男がいるわけないだろっッ。なんなんだ、この新手のイチャコラ攻撃の数々はっッ……

 息吹はあからさまに落胆の表情を浮かべると、それ以上宥めるのを放棄した。一応朱美の様子を確認すると、まだまだ隣でウダウダ言っていてその話が止まりそうな気配はまだ微塵もない。



 吉岡さん……

 あなたが大事に思ってくれている神寺朱美はいま凄く面倒臭くなってます。

 すぐにウジウジするし、無駄に想像力が豊かで、今も真顔でブッ飛んだこと発言を連呼してます。

 今すぐにでも朱美をこんなふうにバカで可愛いやつにした責任を取ってください、と息吹は吉岡に一言言ってやりたい気持ちでいっぱいになっていた。





◆◆◆






「……ってことがあった 」


『へー 』


「みっちゃん、反応あっさりだね? 」


『うん、まあ意外ではないかな…… 』


「えっ? 吉岡さんって、奥手なの? 」


『いや。多分、そういう訳じゃないと思うんだけど 』


 野上は息吹の愚痴にも近い報告を聞くと、案外 冷静な反応をした。こんなコントみたいなやり取りに息吹はだいぶ疲弊していたのだが、どうやら野上にはある程度の免疫があるようだった。


「みっちゃん、それって一体どういうこと? 」


『うーん。これは…… あくまでも自分の憶測だけど、吉岡さんって多分今までちゃんと人を好きになったことがないんだよ 』


「はあ? 何それ? 」


『押しに押されてヤっちゃったとか、そんな話しか聞いたことがない。エリートだからモテるし、一応経験もそれなりにあるみたいだけど、恋愛は超初心者。灰色の青春だったらしいよ。まあ、ほぼうちの大学はほぼ男子大みたいな環境だしね。だから吉岡さんも何をどこから始めていいかわからないんじゃないかな? 』


「そうなんだ。ハイスペック男子にも弱点ってあるんだね。吉岡さんは朱美のどこらへんがいいんだろうね 」


『さあ、どうなんだろう。俺もそこまでは聞いたことないからなー でもまあ、この前会ったときの照れ具合と動揺っぷりを見てたら、本当に大事なんだろうなて思ったよ。本気で神宮寺先生に惚れてるんだよ。だから二人は完全にすれ違っちゃってるよね。神宮寺先生がそんなに気にしてるなら、俺が会って先輩の気持ちを代弁してあげたいくらいだよ 』


 野上はそういいながら、少し声を上げて笑っている。本当は直接会って話ができればいいのにと思うけれど、やっぱり時差恋愛をしていると電話が最大限の譲歩になるのは毎度のことだった。


「朱美と吉岡さん、うまくいくといいね 」


『まあ、大丈夫じゃないの? 本人たちは全く噛み合ってないけど、同じ方を向いてるみたいだし。っていうか、僕らは的にも()()にはちゃんとくっついてもらわなきゃ困るしね 』


「そうだね…… 」


『おっと、いけなねー。俺、ぼちぼちスタジオ戻らないと 』


「あっ、ごめん。 急に変な電話して 」


『あはは、別に変じゃないよ。僕にとっても一大事だから。じゃあね、息吹、おやすみ 』


「うん、みっちゃんも仕事頑張ってね 」


『はいはーい、じゃーねー 』




……………… 



 息吹は電話を切るとスマホのディスプレイを確認する。

 カーテンを閉めきった空間では、その光は目に刺さるように明るい。


 時計を見ると、時刻はまだお昼前だった。

 それなのに彼は当たり前のように息吹におやすみと声を掛けてくれる。

 五分にも満たない、ちょっとした会話。

 でもそのひとときが、ほっとして安心する。

 息吹にはこれから先、自分のことをこんなに理解して甘やかしてくれる人には出会えないという根拠のない妙な確信があった。 


 朱美……

 さっきはちょっとツンケンした態度を取っちゃってごめんね。

 でも本音では、朱美にも心満たされる瞬間の主役になって欲しいって思ってるんだよ。


 朱美がいなければ、彼に出会うこともこんな感情を知ることもなかった。

 本当は朱美たちに凄く感謝してるんだ。



 だからね……

 実は私は朱美のこと

 かなり、けっこう、しっかりと心の底から心配してるんだよ。




 




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