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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
長い長い夜明け
9/111

運命のお誘い

◼◼◼



「お疲れ様ですー」


息吹は首筋の汗をタオルで拭きながら、事務所フロアーにある女子ロッカーに向かっていた。夜間の事務所は省エネのためにエアコンや照明を落としているから、とにかく蒸し暑くて仕方ない。しかも作業着は危険防止のために夏場でも長袖だから、いくら夜間の立ち会いと言えども、この時期になると暑さとの戦いだ。


息吹はロッカールームに入るなりスマホを取り出すと、電話を掛け始めた。三時頃に朱美から仕事が終わったら電話が欲しいと連絡が入っていたからだ。


「もしもし…?」


3コールくらいしたところで、朱美の声が聞こえた。


「あっ、もしもし、息吹? 」


「……朝っぱらから、何の用? 今日はあたしは飲みには行けないよ。現場3件ハシゴしてもう汗ダクダクっ…… 」


息吹は誰もいない女子更衣室で、薄緑の作業着を脱ぎながらスマホに応答していた。首筋からは、まだ汗がドッと流れている。


「ごめん…… 残念ながら、用事は今日じゃないんだー。あたしももう寝るし…… 」


「そう、それなら何の用? あたし今着替え中なんだけど…… 」


息吹は面倒臭そうな表情を浮かべると、徐に制汗スプレーを手に取った。下着一枚身につけただけの姿だったが、どうせ他の女子はここにはこない。


「まぁ、そんなに説明に時間は取らないから…… 息吹さぁ、来週の土曜日の夜、暇? 」


「来週の……土曜日? 」


息吹はスプレーする手を一瞬とめて、記憶を辿り始めた。

さて土日の予定はどうだっただろうか…… ?


「夕方に足ツボの予約入れてた気がするけど…… 」


「それって、キャンセルできる? 」


「はぁ……まぁ、優待券の期限来月までだった気がするから、それも出来なくはないけど…… 」


「じゃあさ、悪いけど足ツボはまた今度にして、合コン行かない? 」


「……へっ、合コンっッ! 」


息吹は思わず大きな声を上げてしまい、慌てて身を丸くした。いま女子ロッカーにいるのは自分一人だが、隣の男子ロッカーは薄い壁一枚隣だし、ピンポイントで合コンとゆう単語が叫び声に近い状態で聞かれたら…… なかなか恥ずかしいものがある。


「わかった。で、相手どんな人たちなの? 」


息吹は急に声を潜め出して、朱美に質問した。


「まだ、私も詳細はわかんないんだけど、うちの担当の知り合い 」


「ちょっ、それって噂の吉岡って人のこと?確か彼、K大だよねっッ? 」


息吹は下着姿のまま椅子に腰掛けて、長電話モードに入っていた。朱美が持ってきた話にしては、何か裏があるのではないかと思うくらい奇跡に近いレベルの美味しい話だ。これを逃しちゃいけない気がするのは女の勘の領域だった。


「もちろんっ…… 参加させてもらうわ…… 来るものの拒まないのが、B型女子の長所だからね 」


「じゃあ、息吹、きてくれるの? あー、寝ないで電話待ってた甲斐があったー 」


電話越しに朱美が布団をガサガサし始め、就寝モードに入っている音が聞こえた。大方、昼間から夜通しで仕事をしていたのだろう。しかもこの甘ったるい話し方は、いくらか酒が入っている。そんな口調だった。


「朱美も、どうせまた完徹したんでしょ。あんま無理しちゃだめだよ 」


「なんだか……息吹 急に優しくなってない……? さすが息吹は私の一番の友達だね。ありがと 」


「……そりゃ、いい話振ってもらって、ど突く必要はないからね。ありがとう、はこっちのセリフだよ。楽しみにしてる 」


息吹はそう言うと、話を短くまとめて電話を切った。合コンならば、髪も染め直してエステにも行ってしまおうか。

息吹はウキウキしながら、スマホでスケジュールを確認した。合コンなんて久しぶりだ。何だか青春っぽいではないか。息吹は着てきた私服に素早く身に付けると、残務処理のためにオフィスに向かった。




ーーーーー



このときには、まだ息吹も朱美も、知らないし予測もしていなかった。


この合コンがいろんな意味で、自分たちの人生にとって大きな出来事になることに。











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― 新着の感想 ―
[良い点] 不穏なような、そうでもないような、どちらとも採れる締めだ…… ドキドキ。
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