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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
真夜中を駆け回れ
87/111

機上の睡美人

■■■



 午後六時か……

 一報を受けてからは既に半日以上が経過している。羽田便は到着したはずなのに、何故彼女は姿を現さない?


 林は腕時計とスマホを交互に見ると、電光掲示板を確認した。茜の搭乗した便はとっくに到着マークが点灯していて、乗客と思われる日本人や台湾人が続々と外へと出てきている。飛行機に乗るときに連絡はもらった。だから乗り遅れたりはしていないはずだが、電話をしても反応はない。

 自分でも驚くくらい深い溜め息がでる。自分の範囲にないものにこんなにヤキモキする感覚は、久し振りのように感じた。


「あっ 」


 林は思わず独り言を呟くと振動するスマホのディスプレイを確認した。

 やっと連絡がついた……と一瞬安堵したのも束の間、そこには予想外の人物の名前が表示されていた。


「志明!隔了好久!(志明!久し振り)  」


以豪(イーハオ)? 」


 友人の陳以豪(チンイーハオ)は威勢よく林に話し掛けた。久し振りに声を聞いたが、今は彼女が気になってあまり話をする気にもならない。


「吵鬧 在哪裡?(騒がしいな…… いま何処にいる?)  」


「松山機上…… (松山空港…… )」


 林はそう答えると再び到着出口の方を確認する。以豪が何用で連絡をして来たのかは分からないが、内容は全然頭には入ってこなかった。


「(……じゃあビンゴかもな) 」


「(はあ?) 」


 林の所在地を聞いた以豪は、電話の向こうでハアと大きな息をついている。林には訳がわからなかったが、同時に妙に嫌な予感がした。


「(もしかして、客が出てくるの待ってる?) 」


「(ああ) 」


「(その客って女性?) 」


「(ああ) 」


「(しかも美人だろ?) 」


「(まあ、そうだと思うけど……) 」


 誘導尋問のようなやりとりに、林は口調が辿々しくなる。でも電話の先の以豪は容赦はしなかった。


「(……志明のとこのタグ付けた女の子が、バゲージクレームで寝てんだよ。 ちょっと気になったから電話したんだけど) 」


「(それは……) 」


 まあ、驚かない……というか、意外ではない。

 後で茜に説教するのは確定だけど、とりあえず所在がわかって安堵する自分もいる。


「(……ちなみにその女性の髪って、肩につくかつかないかくらい?) 」


「(そうだね…… なんか結んでるみたいだけど、長くはないみたいだね) 」


 茜の朝のテレビの出演映像を見たときは、珍しく髪を結っていた。そのままの髪型で来たのだとしたら眠り姫の姿にも合点がいく。


「(ああ、ありがとう…… 恩に着るよ。それ、多分俺んとこの客だ) 」


「(どういたしまして。で、どうする?連れて行こうか?) 」


「(ああ、悪いな。手間をかけて……) 」


 林は電話を切ると、ジャケットを脱いで 茜と以豪を待つ。この扉の向こうには、自分には入ることが出来ない大きな壁がある。

 そして数分後、以豪とその妻に手を引かれて茜は林の前に現れた。


「(以豪…… ありがとう。助かったよ) 」


「(あんなとこで寝てたら、税関にパクられかねないからね) 」


「(ああ……) 」


「(僕たちが日本語で話しかけたら一瞬目を覚ましたんだけど、まだ夢の中みたい。かなり疲れてんだろうね) 」


「(そうだろうな。後で厳重注意しないと) 」


 以豪とその妻は日本旅行から帰ってきたところで、たまたま茜を見つけたらしい。林は持っていたジャケットで茜を包み込むように受けとると、目元にかかった髪の毛に手をかけた。その様子を見た以豪とその妻は思わず顔を見合わせたが、林はそんな二人に構うことなく茜の様子を伺っていた。


「(この人、旅行客?) 」


「(いや、コーディネーター業務の方の客) 」


「(はー、どおりで可愛いと思ったわ。芸能人なんだ……) 」


「(まあ、多分そういう括りだと思う) 」


「(起こさないのか?) 」


「(……俺は起こせない) 」


 林はそう言うと茜をギュッと抱え込む。茜は気持ち良さそうに林にしがみついて静かに寝息を立てていた。


「(お前がそんなに困ってるとこは、初めてみたよ) 」


「(そうか……?) 」


「(まあ、頑張れよ) 」


「(ああ、これは力仕事になりそうだからな) 」


 林は言うと、反対の手でスーツケースを抱えた。


「(おい、志明…… 俺が言いたかったのは そういう意味じゃないぞ?) 」


「(……わかってる。 ありがとう)  」


 林はそう言って以豪夫妻に一礼すると、 茜を抱えるようにしてスーツケースを引き始めた。

 彼女に台湾語が通じないことだけが、今は唯一の救いのように感じた。





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