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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
フォーエバーフォールインラブ
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衝動の反動②

ーーーーーー




吉岡はタクシーを捕まえると、すぐさまスマホを取り出した。渋谷から社屋までタクシー移動となると、正直痛い出費だったが今は時間を買うことを優先する。


吉岡は着信履歴から登録していない番号を見つけ出すと、すぐさま通話ボタンを押した。発信ボタンを押すと同時くらいに、相手はすぐに電話に出た。その辺りあいつはやっぱり抜かりがない。


吉岡にはもう迷いはなかった。



「もしもし…… 」


「吉岡くん…… 決意は固まった? 」


電話の相手は相変わらず、ねっとりとした話し方をしていた。昔の彼女はこんなのではなかったが、もはやそれは過去のことだ。小暮のリアクションは あらかた予想はしていたが、吉岡は一息つくと冷静に対処した。 


「……ああ。時間掛かったけどね。何とかね 」


「そう……それじゃ、いつ退職届出す感じになりそう?こっちとしてはいつでもいいんだけど…… 」


電話の向こうから、小暮が氷をカラカラもて遊ぶ音が聞こえた。



「俺は……会社は辞めないし、記者にもならない」


「……何ですって? 」


小暮の声色に少しだけ変化がある。氷を弄る音もパタリと止んだ。余程自信があったのだろうか、



「もしあの写真を世に出すなら、俺としても弊社としても君を法的手段に訴える 」


「また、そんなに強気にでちゃって…… 大丈夫なの? 」


「大丈夫もクソもない。そもそも交際の事実はないんだから 」


「…… 」


「うちの先生は、中野さんに絵を教えていただけだそうだ。もはや友人とゆうより、知人に近いレベルの付き合いだそうだ 」


小暮には余程自信があったのだろうか。

だけどそのわりには裏取りも何もかもが雑だった。

すると小暮は一拍タイミングを置いて、こう切り返してきた。



「……それがどうしたの? 」


「……へっ? 」


「それが事実か否かは、それほど重要じゃない。真実とゆうのは作るものよ 」


「はい? 」


吉岡は小暮の発言を、思わず疑った。そしてあの言葉が本気だったのかと肝が冷える。

真実を作るって……言っていることが理解できない。

ゴシップであろうと何であろうと、そこには正しいことを正確に伝える、マスコミ従事者としての義務がある。彼女の発言は、ただの本末転倒としか言い様がなかった。


「つまり、出してしまえばこっちのもんってこと。世の中に記事が出回れば、嘘だってまことしやかに本物になる。私はそうやって導いてきた。つまり最初から吉岡くんに勝算はないのよ 」


小暮は勝ち誇ったように、吉岡に自信たっぷりに言ってのけた。

だいたい漫画家と若手声優のロマンスに世界を引っくり返すほどの需要があるとも思えない。疑いが確信に変わる。最初から狙いは俺とゆうことか…… 


吉岡はスマホを握りしめる力を強めると、一息ついて小暮にこう告げた。


「……出したければ出せばいい。その代わり、きっちりとこの分は裁判で争わせてもらう。中野にも、うちの神宮寺にも名誉毀損を訴えるに十分な理由はある。それに君の会話は全部録音させてもらってる。それでも記事を週刊秋冬に売り込むなら、君から恐喝されてることも含めて、全部世間に晒してまとめて訴える。こちらが勝つのがわかっているのなら、君の信用はガタ落ちまっしぐらだ。俺だって、元々は記者をしてたんだ。それくらい造作にないことくらいわかっているだろう。君は僕を見くびりすぎだ 」


「……なっ 」


「君のことは大事な同期だと思ってたし、僕がボロボロになったとき助けてくれたことには感謝はしてる。だけど流石にこれはやり過ぎだ。完全に君は僕の逆鱗に触れている。強行するなら容赦はしない 」


「ちょっ、まっ…… 」


吉岡は小暮に相槌も弁明の余地も与えなかった。吉岡は一方的に電話を切ると、ハァーとため息をついた。

果たして小暮に言葉は届いてくれるのだろうか。ここまで言って小暮が戦いを挑んでくるのならば、そのときは正々堂々法廷で勝負をする。

タクシーの運転手は少しだけ苦笑いを浮かべているのがバックミラー越しに見てとれたが、吉岡は気に止めないことにした。






言いたいことをハッキリいえて、吉岡の心中は霧が晴れていくように穏やかだった。

絵を教えてもらっていた……か……

紛らわしい他、この上ない。


朱美のスキャンダルが出ることも、小暮に屈して記者になることも、それは正直些細な問題だった。


それよりも彼女が誰のものでもないとゆう確信が、何よりも知りたかった。



俺はどうかしている。


決して彼女のことは自分が独占できない。立場上もある。特別な感情を抱いてはいけないと思えば思うほど、彼女が愛しくて仕方がない。



吉岡は衝動と理性の狭間に揺れていた。






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