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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
フォーエバーフォールインラブ
76/111

衝動の反動①

ーーーーーー



やってしまった……


昨日は一睡もできなかった。

吉岡は唇を押さえながら、デスクで突っ伏していた。まだ昨晩の余韻が、口内に甘く残っているような錯覚さえしてくる。思い出しただけで胸が締め付けられて、まるで乙女のような醜態に虫酸が走る。同僚の視線がやけに注がれている気がしたが、それは気づかぬ振りをして無視するしかない。


昨夜はどう考えても自分は冷静じゃなかった。どうかしていたとさえ思う。


朱美には訳のわからないことを言われるし、小暮の圧力も中野と彼女の関係にもモヤモヤしていた。

だからとはいえ、いくら朱美にわからせたかったからと言って、キスはないだろキスはっっ。

いきなり同意もなく、なんであんな暴挙に出たのかは自分でもわからない。

彼女から拒絶はされなかったけれど、彼女はとても驚いていた。しかも一度込み上げた気持ちはすぐには止まらなかった。彼女を押し倒さずに、なんとか踏み留まったことだけは自分を誉めてやってもいいかもしれない。もちろん自分だって冷静を装い逃げるように部屋を後にしたが、心臓はバクバクだった。


吉岡は盛大なため息をつくと、仕事に手をつける。昨日の自分の精神状態では、彼女とあれ以上話すとどんどんボロがでそうだった。勢いに任せて枚数を減らすと一方的に通告したが、穴埋めの企画を考えなくてはならないし、朱美の稿料は減ってしまう。朱美クラスの作家ならば枚数が減ったところで、大きなダメージと言うのはないのかもしれないが、勝手にこちらで決めていいことでもない。


今日は午後から収録の立ち会いもあるし、スケージュールはパツパツだ。

吉岡はクマのできた目を擦りながらも、ゆっくりとノートパソコンを開くと、取り敢えず隙間を埋める企画を探した。



ーーーーーー



えっと、住所的にはこの辺りか……


吉岡はスマホを片手に、渋屋の裏路地を徘徊していた。方向感覚は悪くはないハズだが、渋谷の辺りはあまり縁がなくて土地勘もない。編集長に久し振りに雷を落とされたが、減ったページに関しては周りの協力もあって事なきを得た。だが午前中は想定していた以上に手間取ってしまい、余裕を持っては目的地にはたどり着けそうにもなかった。今日は恋リセのティザーPVの収録に立ち会う。本来ならば原作者の朱美も同席するべきなのだろうが、あいにく彼女は雲隠れしている。吉岡は全く気乗りがしなくてならなかったが、仕事なので致し方がない。



理由はただひとつ

中野葵だった。



収録自体は、滞りなく淡々と進められた。彼の声でひとしきりヒロインの海蘊がキュンキュンワードで攻められる一連のフレーズをひたすら聞き続ける。数えられないリテイクを浴びると、このリフレインは永遠に続くような気もしてくる。


吉岡はブースの向こうの中野葵の背中をチラリと横見した。

長身で細身で程よく筋肉のついた中野は、後ろ姿ですら様になる。 

男性の自分であっても、あの耽美な声で口説かれて、落ちない女性がこの世にいるのだろうかと思えてくるのだ。

吉岡は落胆の表情を浮かべそうな気持ちを寸前のところでひたすら堪えていた。



現実を突きつけられる拷問の時間は、思いの外押していた。

中野葵は天上人の如くオーラがあり、異質なくらい何かを放っている。こんなやつと張り合う気持ちは、毛頭沸いては来なかった。今日は夕方から会議があるし、小暮の盗撮写真の対策も考えなくてはならない。とゆうか本人が目の前にいるのだから万が一の可能性にかけて真相を訊ねればいいのに、こうゆうときには無駄な勇気は発揮できない。


吉岡はとにかく冷静を装いながら、荷物をまとめた。中野はまだブースの中で共演者たちと談笑している。心情としては今すぐにでもこの場からいなくなりたかったが、いくらなんでも出演者に挨拶もなくその場を後に出来るわけもない。

吉岡はしぶしぶスタジオに顔を出すと、演者とスタッフに一礼して声をかけた。


「あの、それでは私はこの辺りで…… 」


使い慣れない言葉を発し、一同に挨拶をしたときだった。奥の方で話し込んでいた中野が、吉岡の方へと小走りで駆け寄ってきたのだった。


来るな…… こっちに来るなっッ……


吉岡は急に自分の鼓動が早くなるのを感じていた。さすがに面と向かって中野と話をするのは昨日の暴挙の手前、一方的な感情ではあるが申し訳ないとゆうか気まずくて仕方がなかった。 


「あっ、神宮寺先生の担当の……吉岡さんですか? 」


「ああ、はい、まぁ…… 」


「あの、神宮寺先生は、今日は…… 」


「今日は……原稿の作業をしてもらってます。締め切りが迫っているもので 」


吉岡は端的に応えると、中野の様子を伺った。

この二人、連絡のやり取りはしていないんだろうか……

まぁ、互いに忙しければ頻繁にはやり取りはしないのかもしれない。



「そうですか…… 近く神宮寺先生とお会いしたりはされますか? 」


「へっ……? 」


思わず気の抜けた返事をしてしまった。

中野は、ちょっとすみませんと一言断りを入れると自分の鞄から一通の封筒を取り出した。


「先日、食事に行ったんですけど、互いに万冊しか持ってなくて。今日、返却する予定だったんですけど、先生がいらっしゃらないようだったら預かって貰っても宜しいですか。いつまでも借金してるのも申し訳なくて。連絡はしておきますので 」


「……はぁ 」


どうゆうことだ?

交際が前提の仲ならば、次回会うときにでも金の帳尻を合わせればいい。そもそも男が奢るくらいの気前があっても良さそうだ。


「あの…… 失礼ですが…… 」


「何か? 」


中野は目をパチクリさせながら、吉岡を見ていた。

そして吉岡は慎重かつ大胆に、中野にいきなり核心を突いた質問をした。



「うちの神宮寺とは、どのようなご関係で? 」





ーーーーーー



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