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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
フォーエバーフォールインラブ
73/111

手紙

■■■■■



……恐喝、恫喝、この場合はどれで攻めていくのがいいのだろうか。


吉岡は読み慣れない六法全書を広げ、険しい顔をしながらデスクで暫くにらめっこをしていた。

ここ最近は珍しく社屋で仕事をしているか思えば毎日この様だ。周りからは好奇な視線が向けられているのは気のせいでもないだろう。理由も告げずにいきなりデスクワークをするようになったと思えば、デスクの上には法律関係の本が山積みなのだ。もはや不審者以外の何者でもないのは自分が一番よくわかっている。 


彼女……朱美は近くて遠いい。

自分のものには決してならない存在であることは理解しているつもりだった。 

だけどいざ手に入らないのだと突きつけられるのは、想像以上に痛みを覚えた。


もちろん小暮の提案に乗るつもりも、朱美の恋路も世間に出す選択肢も最初から持ち合わせてはいない。だが穏便に事を済ませる策もない。だからこそあの日から数日はずっとこんな調子なのだ。朱美の遅筆は相変わらずだが、対抗策を練りながら彼女を監視するわけにもいかない。だけどスケジュール的に逆算すると、明日には朱美宅を訪れネームを完成させないと脱稿は難しいだろう。


いろんな締め切りが迫ってくる。

この命が尽きるまで、時が止まることはない。



吉岡は冷えきったコーヒーを一口飲むと、天を仰いだ。

あの二人の微妙な態度は、まだ深い仲とゆうわけではなさそうだった。だけどその持ちつ持たれつな距離感は、こちらが動揺してしまうくらいにはお似合いにみえた。そして朱美が普段見せない表情をみるのは単純に堪えた。



「あの…… 吉岡さん? 」


「へっ……?あっッ…… 」


吉岡は不意に後方から掛けられた呼び掛けに、思わず間抜けな返事をしてしまった。


不味い……完全に油断していた。


吉岡は慌てて体裁を整え、おほんと咳払いをした。声をかけてきたのは編集部のアルバイトの女子大生で、両手に一つずつ大きな紙袋を抱えていた。


「吉岡さん、これ神宮寺アケミ先生宛のファンレターなんですけど…… 」


「あぁ、すみません…… 」


「一応、全部封を切って、中身は確認済みです。今回も誹謗中傷案件はありませんでしたが、卑猥な文面と手厳しい意見はこちらに束ねてあります 」


「ありがとうございます。預かります…… 」


吉岡は女子大生から紙袋を受けとると、その中身をざっと見回した。紙袋には手紙だけでなく、プレゼントなども入っている。この量で一週間分なのだから、朱美の人気はまだまだ陰るところか上昇気流真っ只中だ。

吉岡は少しばかり考えてから手紙をいくつか取り出すと、静かに目を通し始めた。 あまりに挙動がおかしいもの以外は、どんな手紙でも朱美に渡すことになっている。内容によってはメンタルを考えて時期を見計らうこともあるが、だからこそ編集者として内容の把握には務めてきた。作者本人よりも先に目を通すことになるのはいつも気が引けるが、読者の感想は今後の作品作りの上で極めて重要な要素だ。



……ヒロインのピンチに立ち向かう姿勢に心を打たれます。恋も仕事も学校も頑張って欲しいです。応援してます! 

……今月はマラソン大会がユウウツだけど、来月『恋リセ』読めるのを楽しみに頑張ります。




吉岡は速読技術を駆使して、静かに黙々と千通近い手紙の束にしっかりと目を通していた。

そこには読者からの労いの言葉や喜びの声が、ただただ記されている。丁寧な文字で震える文字で、日本全国の年頃女子の期待の言葉が溢れている。決して自分に向けられたものではないのに、吉岡はいつの間にか胸が熱くなっていた。 


自分が望んだ出版の世界は、時に残酷で、でも捕らえた真実は社会を動かすこと大きな力を持っていた。

でも世界は時に正しいことだけが、みんなを幸せにできる訳じゃない苦しみを知った。ジレンマだった。正義だけが世界を明るくできる訳じゃない。そろ十分に承知していたはずなのに、自分は順応できなかった。



自分はただの歯車に過ぎない。

だけど彼女を通してならば、自分も少しだけ他者に希望を与える手伝いが出来ているような気がする。


彼女が自分にこれっぽっちも興味を抱いていないことは重々承知している。




だけど自分は……

まだ彼女に見せてもらった温かい世界に、何一つ恩を返せていない。


見返りはいらない。

自分は編集者として彼女を守るだけだ。





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