送別会の憂鬱
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あの日から、織原とは殆ど会話をしなかった。正確に言えば業務に関するやりとりのみで、世間話だとか普通の話をしなくなった。そんなぎこちない日々を送っているうちに一ヶ月はあっという間に過ぎてしまい、微妙な距離感のまま彼はバイトを辞めていった。その影響もあり深夜にシフトには入れるのは社員ばかりとなり、毎日の仕事がより窮屈になったような気もする。
この一ヶ月は桜にとって人生で一番濃密な時間だったかもしれない。
ずっと引きずっていた叶わぬ恋はやっと終わった。今までは自分で思っていた以上に、なかなか気持ち整理は付かなかった。彼の優柔不断な態度も、流されて押しに負けそうになる自分も、何もかもが悔しかった。万由利にも会いに行けたのは、自分としては成長だった。綺麗には纏まらなかったけれど、これはこれで納得できたと思う。浴衣は決意も込めて万由利に直接返却した。愛郁と美羽にさよならと言えなかったのは心残りではあるが、手紙と細やかなプレゼントを送った。
これでいい。
彼らにはもう会わない……
それで何もかも終わったはずだった。
でも違った。
あんなに悩んでいたはずなのに、いつのまにか今の自分を占める要素は彼らではなくなった。
青天の霹靂だった。
あれから一番の悩みの種は……
織原究だった。
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桜はスマホのバイブで目を覚ますと、重い瞼を擦った。日の入りはだんだん早まってきてはいるが、まだこの時期は西日が部屋にガッツリと差し込んでくる。時計を見ると、さすがに起きなくてはいけない頃合いを指していた。
桜はゆっくりと布団から這い上がると、ゆっくりとカーテンを開けた。朱く染まる空は目を突き刺すように眩しくて、時折目下がブラックアウトするような感覚に陥った。桜はボーッとしながらも、ほぼ手探り状態でタバコを手に取った。口に含み、少しづつ煙を吐いた。起き抜けに吸う煙は頭にガツンと響き渡る。いつもならばこんな強行手段には出ないのだが、今日に限ってはそうでもしないと心が落ち着かなかった。
桜は簡単に身支度を整えると、小ぶりの鞄を手に取った。意識しないようにすればするほど、どうも調子が上がらない。いつもイライラする最寄り駅までの道のりが、とにかく近く感じる。
顔を出すだけだから…… 桜は自分自身に言い聞かせ、ただただ無心になることを意識して職場に向かっていた。だけどこの一ヶ月の悩みの種は、そう簡単に桜の脳裏からは離れない。
彼とは一週間ぶりの会う。
けれどそもう会うこともない。
私は流されやすい。
そもそも優しくされることに慣れていない。あの晩は完全に酔いと甘い言葉で押されてしまった。どうかしていたのだ。
自分は彼の気持ちに答えられる人間ではないし、人を幸せにできる素質も持ち合わせてはいない。
人に好いてもらったとゆう気持ちは素直に嬉かった。だからこそ甘えられない。
どのような言葉を選べば、彼を傷つけずに離れることができるだろうか。
桜はずっとそのことばかりを考えていた。




