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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
ネクストワールドⅢ
64/111

バイバイ!台湾!

ーーーーー





二人はその後も他愛のない会話をしながら、車窓から束の間の台北散策を楽しんでいた。林は徴兵時代には海軍に所属していたとか、東京に住んでた頃は池袋で遊んでいたとか、そんな話ばかりしていた。その間にも様々な観光地を通る度に、林はその説明を惜しまなかった。時間はあっと言う間だった。

いつの間にか車は少し小高い山の上まで登っていて、その路肩にある駐車場に到着した。




「ここは……? 」


「象山ってゆうんだ。いわゆる台北の絶景ポイント。ここからは台北101も見える 」


林はこっちこっちと手招きすると、景色の見えるポイントに茜を案内した。少し足場の悪い傾斜面に茜は思わず躊躇したが、林は大丈夫だからと言い切った。少しぬかるんだ地面からは、土と雨が混ざりあったような臭いがした。そしてそのポイントに到着しあたりを見回したとき、そこにはどんな絵画よりも写真よりも美しい街と山と空の風景が広がっていた。



「街がキレイ…… 空も遠いい 」


「珍しいと思う。雨季の台北でこんなに晴れるなんてさ。空がこんなに水色なこともあんまりないし 」



林はそう言いながら腕をあげると、グイッと少しストレッチをした。その様子を見た茜も思わず深呼吸をする。不思議と肺の奥深くまで、この土地の空気を行き渡らせたいと感じていた。目下に広がる街並みはまるでジオラマのように、一つ一つが小さく見える。そしてその街のあいだから突如として君臨する台北101の迫力。そして快晴と天気予報でお墨付きをあげたいくらいの水色が広がる空は、新旧の融合と相まって独特の世界観を織り成していた。



「そっか…… じゃあ私はラッキーだったね。普段はお天気ばっかりじゃないってことでしょ? 」


「まぁ、そうだろうね…… お客さんは普段はここにはあんまり案内しないから、正確にはわからないけど…… 」



そう言いながら林は一瞬のチラリと腕時計を気にすると、茜の方を振り向いた。その気配を茜も察すると、思わず林の方を向き直った。林が発する一語一句のニュアンスが気になって仕方がない。でもその答えを急ぐ勇気も、今の自分には持ち合わせてはいなかった。

茜はニコリと笑顔を作ると、こう答えた。



「また次のロケも宜しくお願いします 」


「次……? 」


「うん、多分暫く林さんところには、また近いうちにお世話になると思うから…… 」


「そうだね…… また機会があればね 」


「えっ……? 」


林も珍しく少しだけ笑みを浮かべると、また遠くの方を眺め始めた。真夏の日中の炎天下で、わざわざ太陽に近づきにいく人間は多くはない。辺りにはセミの鳴き声が響き渡っていたが、それは静寂にも感じた。


「ツアコンってさ、基本は一期一会だから。何回もツアーで同じ場所を巡る人はほぼいないし、それに同じ旅行会社とも限らない。もちろん自分が担当する確率も低い…… 」


「確かに…… 」


「ましてはここは君にとってはただの異国だ。次にいつここに来るかなんて保証はない。だから今日、君に、この景色を案内したいと思ったんだ 」


「…… 」


茜は言葉がすぐに浮かばなかった。林の言う通りだった。ここは自分にとっては外国だ。言葉も通じないし文化も違う。みんな優しくてフレンドリーだからあまり感じることもなかったけれど、ここは海を越えなくては来ることができない。気軽に再訪できる保証など何処にもないのに、あまり実感はなかった。

茜は再び口を開くと、率直な気持ちを林に伝えた。 


「……なんかこの二日間台北はとても居心地が良かったから、あんまり異国って感じもしてなかったかな 」


「そっか…… ここは楽しかった?  」


「うん、とっても…… 仕事ってこと忘れちゃうくらいには 」


「また、おいで。取材じゃなくても御堂さんならタダで案内するよ 」


「えっ……? 」


「今回は駆け足だったけど、まだまだここには君に共有したい楽しい場所や、見せたいものがいっぱいあるんだ 」


林は笑っていた。それはビジネス笑顔なのかもしれない。だけどその表情は何だか目に焼き付けておきたいような気もした。

茜は込み上げる感情を殺しながら、少しずつ声を絞りだしこう答えた。


「次、来たときは…… 美味しいお酒のお店を教えて欲しい。今回は一人時差ボケもあったし、食べてばっかりであんまりお酒飲まなかったから 」


「……そうだね、今度は台北のウマイ酒出す店も考えとくよ。じゃあ、戻るか 」


「……うん 」


林はそう茜に告げると、また車へとゆっくりと歩き出した。茜はスマホを取り出すと象山からの景色をピシャリと収め、そしてそのレンズを林の背中に向けた。



茜は深く考えすぎていただけなのかもしれない。彼はきちんと二度と会えないかもしれないことを、しっかりと理解している。だから彼は時折優しかっただけなのかもしれない。

だからこそ、いつも最高な状態で、またねと言って別れなくてはいけないのだ。そしてそれを意識すればする程、とてつもなく別れが辛くなる。



何だ、こいつ?って何回も思った。

でもそれと同じくらい親切にしてもらったし、優しさにも触れた気がした。


確かに観光は殆どしなかった。

食べてばっかりいた。


だけど……

忘れられそうにない

胸がギュッとなるような思い出はたくさんできたような気がした。





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