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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
ネクストワールドⅢ
58/111

動揺……台湾

■■■■■





朝……か……


お日様が昇ってから起きるなんて何か月ぶりだろうか……

茜は時計を確認すると辺りを見回した。少し遅れてここが台北のホテルの一室であることを認識すると、息をつくまもなくバスルームへと直行した。



昨日はあれから大爆睡だった。


帰りの車でも眠りこけて、ホテルについた瞬間にメイクも落とさずベッドに雪崩れ込んだ。何だかみっともない初日になってしまったが、体力の回復をするには十分だった。

予算もない番組なのでヘアメイクは自分でしなくてはならない。茜はそこそこにシャワーを完了すると、肌荒れを隠すように気持ち厚めにファンデーションを塗り髪型をセットした。





「おはようございますー 」


集合時間の10分前にロビーに降りたにも関わらず、そこには里岡と峯岸、そして林が既にスタンバイをしていた。


「おっ、御堂ちゃん、おはよう。よく眠れた? 」


「ええ、昨日は直ぐに爆睡でしたー 」


茜はニコリと笑みを浮かべると、朝の挨拶を交わした。そして少し離れた場所に待機していた林にも声をかけた。


「林さん、おはようございます 」


「おはようございます 」


林は一瞬だけ茜と目を合わせると、業務的な挨拶をした。

彼は愛想はあるとは言えない……けれども昨日から彼には助けてもらってばかりだった。


「では少し早いですが、朝食にご案内します。いま車を呼びますから 」


林はそういってスマホを取り出すと、どこかに電話をし始めた。台湾語を話す彼の姿に、茜は何処と無く疎外感を感じた。


車窓から見る台湾の風景は、本なネットの観光案内ではノスタルジーという単語が羅列されている傾向がある。茜は高度成長期もバブルも知らない世代だ。だけどなんとなくその表現がマッチするのは肌で感じていて、何処と無く懐かしくて温かみのある街並みが広がっているような印象を受けた。

車で数分ほど移動し車を降りると、既に外の暑さは尋常ではなく、南国独特のジメジメした空気が広がっていた。この辺りの一角にはたくさんの食堂が並んでいて、朝から多くの人で賑わっていた。



「うわー、これはいったい何……? 」


立ち並ぶ店先では麺類やお粥など、さまざま食事が活気だって売られていた。人々は路上にはみ出た丸テーブルで相席をし、忙しそうに朝食を口に運んでいく。店頭では大きめのプレートでメニューが貼り出されていたが、漢字だけでは見当がつかなかった……


「この店は永和豆漿大王といって、ふわふわのおぼろ豆腐のような塩味の豆乳のスープ“鹹豆漿”がメインの店です。その上に肉髭ロウソンと呼ばれる豚肉を繊維状にしたものをトッピングしています。見た目以上に味がしっかりして、女性好みの味だと思います 」


林はそう解説しながら茜たち一行を案内した。茜は興味津々な表情を浮かべながら、すぐさま林に疑問を質問した。


「ねぇ、リンリン…… みんな、一緒に食べてる、あの茶色いのは何? 」


「 ああ、あれは揚げパンです。スープに浸して食うとウマイです 」


林は簡単に解説すると、店のおばちゃんに親しげに会話をして早速二人分を注文してくれた。後で分けやすいように取り皿も頼んでくれて、そのやり取りは何だか取材であることを忘れてしまいそうだった。


暫くすると料理が手元に届くと、一行は初めて見る台湾グルメに興味津々で熱い眼差しを送った。


「御堂ちゃん、味見しなくていいの? 」


「ええ、熱いのは苦手じゃないですし。それに初めて食べた印象は大事にしたいから 」


「よっ、さすがチャレンジャー!度胸あるね 」


「度胸って、そんなオーバーな……  普通に見た目も香りも間違いなさそうだから、いけるだけですよ 」


茜はそう里岡に話すと箸を手に取った。

生放送ならば話は別だ。しかし収録ならば直感を大事にリポートをしたいとゆう茜の数少ない拘りの一つだった。



「じゃあカメラ回してくよー サンニイチ ハイ! 」


茜は熱々の永和豆漿大王を目の前にし、スープを一口蓮華ですくい味を確かめた。豆腐……豆乳……?とも違う、コクがある。これはロウソンの旨味のせいかしら。

茜は数秒だけ味の余韻に浸ると、感じたままの言葉を述べ始めた。


「おいしー!初めて食べた感覚ですね…… このロウソンと呼ばれる豚肉の食感と味がしっかりついていてスープにパンチが加わっています。それに揚げパンのさくさくした食感がとても合います! 」


茜は感想を言い終えた後も暫くカメラを見つめていた。やはりカメラがあると人々の視線は気になるものだが、皆朝の忙しい時間帯とゆうこともあってか、あまり興味を示す人はいないようだった。


「はい、オッケー 御堂ちゃん、食レポのコメント安定してきたね 」


「いやー、そんなことは…… 」


里岡が収録したVTRを確認してあっさりとOKを出すと茜の出番は終了し、あっという間に暇になった。彼らはシズルやら外観のブツ撮りに勤しみ、茜と林が二人でテーブルに取り残された。


「林さんも食べませんか? 」


茜は無理やり会話をしようと、林に話しかけた。 林は仕事が立て込んでいるのか、ここでも相変わらずタブレットで何か作業を行っていた。


「僕は大丈夫です。朝は食べてきたから 」


「そう 」


辺りには客が大勢いる。辺りは十分賑やかなのに、茜にとって今のこの状況は、息苦しいくて世界が制止しているくらいの気まずさがあった。


「あの…… リンリン、昨日はありがとう…… お礼言えてなかったから 」


「……どれのことですか? 」


「どれって……  」


なっ、人が下手に出てるのにクライアントに向かってちょっと意地悪じゃないかっッ?

茜は少し唖然とした表情で、林を見つめていた。すると林は視線に気づいたのか、タブレットから目を離して茜の顔を見つめこう話を続けた。


「別に僕は何もしてません。それに嘘をついた訳でもないです 」


林は面倒臭そうな表情を浮かべていた。こちらだって社交辞令として、今一度声を掛けたようなものだ。それなのにこんなあしらわれ方をされるのは正直少し癪だった。

どちらにせよこんな微妙な空気は迷惑千万だ。茜はため息をこらえながら今一度林の様子を伺うと、話題を変えてこう切り出した。


「……あの 」


「……何? 」


林は再びタブレットから目を離すと、茜の方に顔を向けた。

少し迷惑そう…… だけどその目は冷たいだけではないような気がした。


「台湾の人は三食外食することが多いから朝ごはん食べる場所も充実してるってガイドブックにあるんだけど……実際本当にそうなの? 」


「……うーん、それはどうなんだろう…… うちはけっこう家でも飯食ってたから。 一般的な感じはあんまりよくわからない 」 


「へー。朝ごはんは、やっぱりお粥が多いの? 」


「うん、一般的にはそうじゃないかな。うちは母親が日本人だから朝はおにぎりとか食ってたけど…… 」


林はそう呟きながらハンカチを取り出すと、首筋をぬぐい始めた。林の発言は茜には想定しない展開で、何だか意外な感じがした。


「えっ、リンリンってハーフなの? 」


「うん、まぁ…… っていっても、殆ど台湾で育ちだから 」


「殆ど? 」


「大学は留学してそのまま就職もしたから、6年くらいは日本で暮らしてたけど 」


「そうなんだ! 」


茜は目を丸くすると少し身を乗り出して林の話に傾聴した。それならまだまだ話題があるではないか。そんな茜の反応に林は一瞬息を飲むような素振りをみせたが、そして小さくため息をつくと静かに話を続けた。


「そんなに意外?まぁ、確かに顔立ちじゃ、判断はできないだろうけど 」


「そんなことはない……けどリンリンが日本で生活してる姿は、あんまり想像してなかったとゆうか、何とゆうか…… 」


「……まぁ、普通に学校を卒業して社会人できるくらいには日本の生活は楽しかったよ。君のことだって…… 」


「私……? 」


「……あっ、いや、何でもない 」


「えっ……? 」



林は何かを言いかけていた。

だが林はすぐにハッとした表情を浮かべると、目を反らして口をつぐんだ。


私のことって一体なんのこと……?

雑踏が遠退いた。

何で私は彼の発する一語一句がこんなにも気になるのだろう……


茜は林を見つめていた。

だが次の瞬間、その緊張は里岡によって一気に解き放たれた。


「林さんー、ちょっと通訳してくんない?おばちゃんに笑顔笑顔ってジェスチャーじゃ通じなくて」


「あぁ、里岡さん、すみません。了解です 」


「あれ……?林さんも御堂ちゃんも、二人して固まって……? 虫でもいたの? 」


「いえ……特には何も 」



林は何事にもなかった体で席を立つと、すぐに里岡の後についていった。


リンリンが言いかけていた、あの言葉は一体何だったのだろう……

出会って2日しか経っていない人と解り合えないのは当然なのに、何でいちいちこんなに胸を突かれるのだろう……

そのリンリンの後ろ姿は、何だかやっぱり遠くの異国の背中だった。





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