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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
番外編 ファイナルディスタンス
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君の声を聞かせて

山辺息吹(水道局漏水修繕夜勤明け)年上彼女

×

野上道也(音響効果見習い)年下彼氏


の最近の日常





「はぁ…… 今日もヘットヘトだよ…… 」


世間がピンチであろうと、何であろうと漏水は容赦なく襲いかかってくる。水道管の取り替え作業は急ピッチで進んでいるが、それでも悲鳴をあげる水道管の漏水は待ってはくれないのだ。


息吹は今日も変わることなく、緊急の補修工事に立ち会っていた。結局作業はもつれにもつれ、工事が完了する頃にはすっかりお日様は昇りきっていた。


今日もクッタクタに疲れた。もう何もしないで、今すぐ部屋でゆっくり寝たい。

いつもならば軽く途中でモーニングを食べて自宅に帰ればいいのだが、今はご時世的にそれも叶わない。食事を作るのは面倒なのに、コンビニご飯にも飽き飽きしている。

一食くらい抜いても死にはしない……

息吹はそんなことを考えながら駅までのらりくらりと歩いていた。牛乳でも飲んでおけば死にはしない。そんな下らないことを考えていたとき、息吹はスマホがブーブー鳴っていることに気が付いた。



「もしもし、みっちゃん?どうしたの?こんな時間に…… 」


「ああ、ごめん、今仕事中だよね? 」


「ううん、仕事は終わったけど…… こんな朝早くに……何かあった? 」


「それは…… その…… 」


「……? どうかしたの? 」


野上の様子は明らかに変だった。

電話越しなのに、何だか彼はモジモジしているのが手に取るように伝わってくる。昨日話したときとは別人のようだ。いつも無駄に強気なS気質な癖に、それを微塵も感じさせないくらい今日の彼はシュンとしているように思えた。


「あのさ息吹は…… 次はいつ休み? 」


「休みは……一応、今日は休みだけど。交代制で勤務日数減らしてるから 」


「そう…… 」


「……? みっちゃん?どうかしたの? 」


彼は何を言おうとしているのだろう? 

事情はさっぱりわからなかったが、息吹は少しだけ声のトーンを強め、野上に今一度理由を聞いた。

すると電話の向こうから、彼が深く息を吸う音がした。そして彼はゆっくりと口を開くと、こう息吹に相談を持ちかけた。



「あのさ、息吹…… その一つ相談があるんだけど…… 」



「……? 」



ーーーーー









「……ったく、超恥ずかしかったんだから!絶対に私の名前出さないでね! 」


「ありがとう、息吹っッ!このご恩は一生忘れませんっッ! 」


「はぁ…… 」



野上のお願い……

それは昔話の朗読とゆう不思議なものだった。


確かに依頼を躊躇いたくもなるハズだ。なんでも所属している音響効果の団体で、ボランティアで一人一本昔話の読み聞かせ動画を投稿することになったらしい。だが歴の浅い野上には気軽に声をかけられる役者に心当たりがなかったらしく、苦肉の策で息吹にお願いすることを思い付いたらしい。


「全く……、私が断ったらどうするつもりだったの? 」


「そしたら機械音声駆使してハイブリッド昔話にしようと思ってたよ。息ちゃん、本当にありがとう 」


「ハイブリッド昔話って…… それはそれでバズりそうではあるけど…… 」



息吹は吹き出しそうになりながら電話を切ると、ベッドに勢いよくダイブした。

息吹は一応中高の教員資格を持っているので、まぁ何とか成し遂げられた無理やりなリクエストだったが、とにかく恥ずかしかった。自分の声を録音して聞くなんて、本当になんの罰ゲーム状態だと思う。今更だけど茜を紹介した方が、よっぽどクオリティの高いものが出来そうだ。

息吹はスマホのボイスメモのアプリを開くと、すべてのデータを消去した。黒歴史は素早く闇に葬り去るに限る。息吹はスマホを今一度確認すると、今の出来事を忘れんばかりに夢の中へと堕ちていった。



ーーーーー



「神様、息吹様、本当に感謝いたします…… 」


野上は手を合わせてパソコンに向かって感謝の言葉を口にすると、息吹から送られてきた音声ファイルをダブルクリックした。

程なくするとパソコンのスピーカーから声が聞こえてきた。


えっ……?


野上は思わず停止ボタンを押すと、ヘッドフォンを取り出した。


これは息吹が喋ってるんだよね……?


彼女の声は一音一音が美しく、実に艶やかだった。 想定以上に、自分は彼女の声に魅せられている。野上は思わず目を閉じると、噛み締めるように彼女の語りに傾聴した。



『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。ある日のことおじいさんが竹を切りにいくと…… 竹の中からは可愛らしい女の子が出てきたではありませんか 』


息吹の語り口調は、日常の彼女からは想像もできないくらい穏やかなものだった。まるで母親がグズる子どもに読み聞かせをするような、そんな優しさを彷彿とさせる内容だった。





もし彼女が母親になったら……

脳裏にそんな飛躍した妄想が浮かび、野上は思わず力強く頭を左右に振った。


……ってゆうか、こんな息吹の声。

世の中に出したくない。今更だけど自分だけで独占したくなってしまう。

そんな邪な感情が野上の胸のなかで疼くような気がした。




野上は大きなため息をつきながら、息吹の声のサンプリング作業を進めた。

今だけはこんな幼稚な発想に至っている自分を、素直に許してやろうと思った。この気持ちは自分が彼女に対して特別な感情を抱いているからなのか、それとも世間一般がそう思うのか、もはやよくわからなかった。





ーーーーー




後日、音響効果の団体シリーズの読み聞かせはインターネットで好評を博した。なんでも効果音にユーモアやリアリティーがあり、口コミで人気が広がったらしい。



そんな中、一番の話題に上がったのは何を隠そう『かぐや姫』だった。

この謎の声の読み聞かせがSNSでトレンド入りしたとかしないとかは……


彼らしか事情を知らないまた別のお話。








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