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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
番外編 夜勤ガールズのお花見
52/111

櫻花ラプソディー






御堂茜(関東放送アナウンサー)

数年前の春のある日の仕事のお話






「東京の桜は今週末が見頃のピークを迎えます。このお時間は千鳥ヶ淵から、お天気をお送りいたしました。 」


この日の茜は珍しくスタジオを飛び出し、外ロケでお天気コーナーを担当していた。


「はーい、お疲れ様でした!御堂ちゃんOKだよー 」


「ありがとうございます 」


茜は満面の笑みでスタッフに声を掛けると、少しだけホッとした表情を浮かべた。早朝から振り袖を着るのは大変だったが、取り敢えず中継が無事に終わったのは何よりだった。


「じゃあ御堂ちゃん、先に局に帰ってて。いま、タクシー呼ぶから 」


現場のディレクターとして参戦していた里岡はADを呼び止めると、タクシーの手配を指示した。だがそのADは両手一杯に何やら荷物を抱えており、茜にはとても忙しそうに見えた。


「あの、すみません 私だけ先に帰っちゃって…… タクシーは自分で呼びますから 」


「あっ、そう?それなら助かる。悪いね。近くの中継だから、人手が少なくて…… 」


里岡は財布からタクシー券を取り出し茜に手渡すと、またそそくさと現場に戻り撤収作業を進めた。遠くの出先であればスタッフを待って一緒に戻るのだが、今日は着物で身動きも取りづらい。 本音を言えば満開の桜と振り袖姿とゆうシチュエーションはなかなか体験できないので少し名残押しい気持ちもあっが、 茜は鞄の中からスマホを取り出すとスタッフから少し離れて局御用達のタクシー会社の電話番号を検索した。



「我第一次看到一個女人穿著和服  請一起拍照片! 」


「えっ、えっとあの……  」


自分に話しかけられたような気がして、茜は頭をあげた。そこには数人の中華圏からと思われる外国人がカメラを片手にこちらに近づいてきていた。団体の観光旅行なのか、みな胸元にはお揃いのバッチをつけている。熱い視線とゆうのはこうゆうことをいうのかと思ってしまうくらい、全員と目線が合う勢いで皆こちらを見ていた。


彼らは何を……言っているのだろうか……?


「 怎麼了?  」


「……? 」


団体客の後ろから大きな声を上げて来たのは、自分と同世代くらいのスーツを着た男性だった。中国語を発したから外国人なのかもしれないが日本人にも見えなくもない。彼はツアーの旗を右手に握りしめていて、もはや目印の体を成していなかった。気のせいかもしれないが、少し焦っているようにも見える。 


「すみません…… こちらは台湾からの観光のお客さんなんですが、テレビの収録も着物の方を見るのも珍しいみたいで。芸能人の方なら是非一緒に写真を撮ってほしいと…… 」


「写真……? 」


「あっ、いえ、大丈夫ですっ、お仕事中ですもんね。彼ら……テレビの収録にも、テンションがあがっちゃったみたいで。今、ちゃんと説明します。すみません…… 」


彼は自然な日本語で茜に話しかけると、彼らに中国語で何かを伝えた。それを聞いた観光客たちは皆残念そうな表情を浮かべて、また各々花見に戻っていった。別に自分は悪いことなどしていないのだが、なんだか申し訳ない気持ちにもならなくはない。自分は芸能人ではないが、茜はその場を離れていく団体客に小走りで近づくと、ガイドを捕まえてこう声を掛けた。


「あの…… 」


「えっ、御堂アナ……? 」


「名前……私の名前、知ってくださってるんですか?ありがとうございます  」


「ええ…… はい……」


「大丈夫ですよ、写真、一緒に撮りましょう 」


「えっ?」


「SNSとかに上げるのは局に叱られちゃうので遠慮していただきたいですけど…… みんなで桜と一緒に写真撮りましょう 」


「ありがとう……ございます…… 」


ガイドの男性はびっくりした表情を浮かべて茜を見ていた。

別に写真の一枚や二枚、大したことはない……せっかく日本に旅行に来てくれたお客さんなのだ。ひとつでも思い出は重ねて帰っていってもらいたい。



「じゃあ、写真撮りますね。イーアーサン チーズ! 」


「チーズ! 」


ガイドの男性は代わる代わるカメラを持ちかえ、シャッターを切り続けていた。結局茜は台湾からの観光客と、数十枚の写真を撮影した。言葉はよくわからなかったが皆嬉しそうな表情を浮かべてくれて、テーマパークのキャラクターになったような高揚感がかった。


「すみません……お忙しいのに、ありがとうございました。お客さんたちも、いい記念になりました 」


「いいえ、皆さんに少しでも楽しんでいただけたら私も嬉しいです 」


茜はガイドの男性と会話を交わすと、またスマホを手に取った。そろそろタクシーを呼び、局に帰らなくてはならない。

すると客の数人がガイドの手を引き、何やら台湾語で話しかけていた。


「我一起拍照 你是她的粉絲吧? 」


その言葉を聞いたガイドは、シーシーと大きなリアクションを取り顔を赤くした。

茜はその様子を見てポカンとしたが、どんな内容の話題なのか純粋に興味が湧いた。


「皆さんは……なんて言ってるんですか? 」


「あの……、彼らは僕にもせっかくだから御堂さんと写真を撮ってもらえば?と、言ってます…… すみません、翻訳するのも申し訳ないのですが…… 」


「ええ、添乗員さんが嫌でなければ是非…… 」


茜はあっさり快諾すると、ガイドの隣に並んで笑みを浮かべた。その様子を見た客たちはニヤニヤしながらこちらにスマホを向けていた 。

大したことでないのにガイドが何故あれほど恥ずかしそうな表情を浮かべたのか疑問もあったが、あまり気にしないことにした。





「あの、いつも天気予報見てます…… これからも頑張ってください 」


「……ありがとうございます。添乗員さんもお仕事頑張ってください 」


ガイドは頭を下げて礼をすると、観光客と一緒にバス乗り場に向かって歩き出した。

ガイドさんは日本に在住している人なのだろうか……。少なくとも自分みたいな若手アナウンサーを認識してくれているのは有難い。気づくと茜も無意識で思わずお辞儀をしていた。





ーーーーー




あれから数年の月日が経った。

今でも日本の桜を見ると、あのときの光景が目に浮かぶようだった。


林はスマホを取り出すと、ロック画面を開いた。そこには笑顔の彼女と緊張した面持ちの自分、そして満開の桜が広がっていた。

もう何年も前のことなのに、あのときの光景は今も鮮明にあたまに焼き付いていて、未だに思い出の境地には達してはいなかった。

林はスマホを操作すると、名残惜しそうに画面を初期設定のスクリーンセーバーに切り替えた。


「你像櫻花一樣美麗……  」



林はそう小さく呟くと、目に留まった壁時計をちらりと確認した。そろそろ飛行機は到着して、彼女たちはこちらへやってくる。


彼女はあのときのイメージ通りの人なのだろうか……

台湾に戻り芸能人の旅行番組のコーディネーター業をするようになら、テレビの裏側を知り衝撃を受けることも少なくはない。 


彼女のあの明るさや爽やかなイメージが作られたものだとしたら、きっと自分は幻滅してしまうかもしれない。だからこそ彼女のファンという肩書きは、いまここで終了させなくてはいけないのだ。


林は一抹の不安と緊張、そしてちょっとだけ期待を胸に、空港の到着ロビーを目指して噛み締めるように歩き出した。






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