歓迎!台湾!①
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「御堂さん……御堂さん?着いたよ…… 」
「…… 」
着いた……?
どこに……?
ってゆうか、ここはどこだっけ?
とゆうかこの聞きなれない声の主は誰だっけ?そういえばさっき挨拶して、峯岸さんとか言ってた気がする……
茜はアイマスク外すと、ゆっくりと左右を見渡した。小さな窓からはいつも見慣れた空とは違う色が見えた。
そうだ、ここは……
「……おい、御堂!着いたぞ、起きろっッ 」
「ほぇ……? 」
「御堂さん、着いたよ。台湾に…… 」
はっ、そうだ!
私は……台湾に取材にきたのだ!
先日BSで9月から始まるとゆう、御堂茜の台湾グルメ紀行の話を聞いたのもつかの間、茜はさっそく台湾にロケに行くことになったのだ。だがまだ深夜のレギュラーはピンで続いていることもあり、取り敢えず当面の取材は土日を絡めて向かうことになっていた。そんな事情で無理矢理なスケジュール、かつ夜勤明けに寝ないで成田に直行したものだから、気分はほぼワープしたような気持ちに陥っていた。
茜は素早くて荷物をまとめると、飛行機を後にした。一歩タラップを降りると、そこは仄かに五香粉と八角の香りが広がっている気がして、異国情緒を感じる。アジアだからとゆうこともあり、空港内は一見自分とあまり変わらないような人たちばかりがいたが、話している言葉を聞くと海外に来たのだなという気持ちになった。
「いやー、すっかり機内食、食べ損ねちゃいましたー 残念です 」
「御堂さん、めっちゃよく寝てたから、起こすの可哀想で…… 」
「……あっ、そうですね、完全に自分のミスですねー あっはっはっッ 」
「でも、これからも台湾にはちょくちょく来るんでしょ。なら、また何回でもイヤって位食えるでしょ…… 」
「ええ、まぁ、それもそうですよねー 」
機内食が物珍しい訳じゃなくて、夜中から何も食べてなくてお腹空いてただけなんだけど……
茜は苦い顔をしながら、その声の主を振り返った。小さなスーツケースを転がしながら相づちを打ったのは、今回のロケの技術全てを担当するとゆう峯岸だった。何でも急な身内の不幸があったとかいうスタッフの代理で、このロケには数日前に参戦が決まったらしい。だが実力は折り紙つきで、あの人気旅番組を担当したりと、この道20年の海外ロケの達人らしい。
技術さんは職人気質が強すぎる事が多いのだが、こうゆう穏やかさを兼ね備えた人は貴重な存在だ。せっかくいいスタッフと巡りあって、今日はじめて仕事するのに第一印象をなかなかなものにしてしまった……
自業自得ではあるがついてないなーと思いつつ、茜は少しガッカリした表情を浮かべた。
すると峯岸の脇から、今回の旅のもう一人の同行者がすかさず割り込んだ。
「まぁ、無理させたのはこっちだからな。悪いとは思ってるよ 」
「あっ、いえ、そんなことはっッ!今回はこんなチャンスを頂けて、ほんと見に余る光栄で…… 」
「御堂って…… そんな感じだったっけ? まぁ、いいや。そんな気張らずいこうよ 」
今回のパーティーのボスは里岡ディレクターだった。彼は関連会社のディレクターではあるが、何故か茜たちアナウンサーにもざっくばらんな態度を取るのだ。茜は元来彼の方が年上だし、別に気にも留めていないのだが、先輩お局アナの間では評判はイマイチだった。別に本社でも関連会社でも、実力があれば同じ仕事なのだからリスペクトし合うのは当然だと思うのだが、一部の人間にはそうは問屋が卸さないらしい。
茜たちは入国審査を抜けて、荷物の受け取りに向かっていた。自分の荷物を預けたのは茜だけだったが、手荷物にできなかった一部の機材は精密扱いで別に貨物に預けていた。
「御堂さん、僕たち機材カルネの確認するんで…… 」
「了解です…… 」
峯岸と里岡はそう茜に伝えると、機材一式を持って税関に向かった。取り敢えず機材の破損はないし、あとは機材カルネ( 基本的にプロフェッショナル機材を他の国に持っていく時は、日本から輸出申請、到着地では輸入申請する)を通過するだけだ。
このドアの向こうは未知なる国の台湾……
果たして私に魅力は伝えられるのだろうか。
茜はスーツケースに体を乗せながら、スマホをいじっていた。といっても空港のWi-Fiで操作出来るのは、簡単なSNSに限られる。取材クルーは自分達くらいしか見当たらないのに、手続きにはえらく時間が掛かっていた。
遅くないか……?海外ロケってこんなもんだっけ?
茜が疑問を感じ始めたころ、里岡が小走りでこちらに向かって駆け寄ってきた。
「御堂、なんか元々の担当者の書類に不備があったみたいで…… ちょっと通過に時間かかりそうだ 」
「えっ、それは……困りましたね…… 」
「これコーディネーターさんの名前と番号。電話しといたから、先に合流してもらっていい? 」
「……えっ、先ってどうゆうことですか? 」
「君の深夜レギュラーがあるから、今回の弾丸スケジュールは一分一秒無駄な時間はないの はい、これ 」
「えっ……? 」
里岡は自分のリュックサックからハンディカムを取り出すと、朱美に裸のままボンと手渡した。
「台本と進行表通りにやればいいから。カメラは基本は茜の目線って感じで、適当に回しといて。ナレも最悪あとで被せるし。ガイドさんにもカメラは手伝ってもらって 」
「はぁー!? 」
「仕方ないだろ、君のスケジュールの都合なんだから。コーディネーターの名前は……林志明さん。背が高くてイケメンだからすぐわかるよ 」
里岡はあまり多くを語らずに茜にすべてを丸投げすると「じゃっ 」と言って、再び
峯岸の元へと戻った。
茜は呆気に取られていた。
もはや言葉も出ないとは、こうゆうことだ。
いや、ちょっと待って。
私、カメラ回したこととかないしッ。
異国の地、完全アウェーでまさかの展開……
冗談でしょっッッッ!!!




