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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
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どしゃ降りの雨




ーーーーー




「ったく…… 何で私は今こんなところにいるんだかっ…… 」



心の声が駄々漏れだった。

息吹は自分が独り言を呟いていることにハッと気づいたが、時は既に遅し。隣で作業をする先輩局員が、こちらを怪訝な顔で見ている視線を感じた。



「んん…… 山辺? 何か言った?原因わかった? 」


「いやっ…… 何もッ…… 」



息吹は慌てて先輩局員に詫びを入れると、アハハと適当な作り笑いを浮かべ、道路にしゃがみこんだ。

息吹は作業着姿に雨ガッパ、そしてビニール傘とゆう何とも怪しい出で立ちで、独り言をブツクサブツクサ呟きながら、かれこれ数十分タブレットを片手に例の漏水箇所をジーと眺めていた。

仕事に集中しなくてはと思うのに、彼の手の温もりはまだ残っている。思い出しただけでドキドキしてきて、アラサーなのにいちいち胸が苦しくなる。こんな気持ちは久し振りで、いい年をして乙女モードに入っている自分自身に恥ずかしくて仕方がない。


息吹は深呼吸をして気持ちを落ち着けると瞳を一度閉じて、また道路に向き合った。

既に辺りには雨が滲んでしまい確証は得られないのだが、漏水が怪しまれる箇所は設計図によると菅と菅の継ぎ目で脆弱性が高い場所と一致していた。それに記録によるとこの辺りの水道管は80年代後期に工事されたとの記録からも、継ぎ目はボルトで締められているから、雰囲気的には漏水で間違いはなさそうだ。

さらに息吹は道路を確認するため、人混みを掻き分けながら地面を注視した。設計図との誤差を前提に、マンホールや記号を探すと、再びタブレットに目線を通す。元々は手書きの設計図を電子化しているから画素数は粗く見辛くもあるのだが、地中は簡単には掘り返せないから、こうして地道に情報を収集する他ない。

やはり実際の道路上のガス管のマークを確認しても、どうやら配水管からあまり離れていない。地中化されている電線は後から敷設したこともあり1~2メーターの距離があるからこちらには猶予がありそうだが、この300径の水道管の漏水で既に道路まで水が突き上げてきているような規模ならば、早急な対応が必要なことは容易に想像ができた。



「どうだ、山辺? 」


「雨の日の漏水チェックなんで、あんまり確証は得られないんですが…… 」


辺りは完全に日も落ちて薄暗くなっていたう、雨は次第に強さを増している。


問題の箇所は何となく、本当に勘の領域ではあるのだが、水溜まりが他より大きく広がっているような気もする。



うーん…… やっぱ漏れてそうだな…… 


息吹はタブレットで天気予報を検索し、この後の細かな天候の移り変わりを確認した。日付変わって0時過ぎには雨は止むようだ。それまではまだ若干の猶予はあるし、断水まではしなくても一度開いて管の様子を確認する価値は十分にあるように感じた。それに応急処置だけでも、しないよりはマシだろう。



「そうですね…… 開いてみなきゃわかりませんけど、漏水している可能性は高いですね。この辺りが300ミリ管で、電線が地中化していることを考えると、早い方が良さそうですね。ガス管も……割と接近してますし 」



息吹はタブレットを使いながら、先輩局員に事情を説明した。先輩は自分よりも水道業務には長く従事していてはいるのだが、急遽別の部門から来てくれた助っ人なので、息吹がこの現場の指揮権を持っているといっても過言ではない状況だった。


「そうだな…… わかった。歩道だし今夜開いちゃうか? 漏れてるなら、応急処置は早い方がよさそうだしな 」


「はい。お願いします…… 」


息吹の返事を聞いた先輩社員は、オッケーと一言返事すると、その場で敷設部長に連絡を取り始めた。息吹はその間にも端末と現場付近のにらめっこを継続する。

漏水ならば応急措置がうまくいこうと敵わなかろうと、いずれは断水をして大規模な工事をする可能性も高い。繁華街なら人々の生活に極力影響が少ない深夜の作業にはなるが、どれくらいの規模になるのか今からあたりをつけておいても決して無駄にはならないハズだ。


自分と同世代の女子たちは、キレイ目な服装をして雨が降る中、颯爽と街を歩いている。休日の新宿は若者もミドルもグランド世代も足取りが軽い。いつもの自分ならばこんな状況で、自分だけ色気も何もない作業着姿で地面を這いつくばるのは、本当に気持ちが萎える。だが今日の自分には先程までの貯金がある。そしてこの先もワクワクする展開があるような気がして、何だか今日は頑張れるような気がしてくる。息吹はレインコートの意味がもはやないくらい激しい動きで、歩行者を縫うように作業を継続していた。


そろそろ部長にも連絡がつく頃だろうか……

よし一旦車に戻って状況を建て直すか。それに道路を開くのならば、業者の手配やらもしなくてはならない。

息吹は思い立つと同時にその場で立ち上がると、ふっと少しだけ息をついた。するとその瞬間、息吹は通行人と衝突し勢い余って一歩二歩と後退した。


「あのっ、すみません…… 大丈夫ですか? 」


公人としての作業中に、一般人とぶつかってしまうなんて、焦る以外の感情しか沸かない。 息吹は慌ててその通行人を振り返り、すぐさま声をかけた。

衝突した通行人はその場でずぶ濡れ状態で、俯きながら立ち尽くしていた。



女の人……? 


とゆうか、この人、傘はどうしたんだ……?


よくよく見るとその人はのトップスからはキャミソールが透けて見えているし、鞄からは水が滴り落ちている。

顔は下を向いているからよくわからない。が、背丈は同じくらいで年齢は自分と同じくらいってところか……



「あの……大丈夫ですか? 」


「…… 」


あっちゃー、やっぱり応答はないか……

仕事中にこうゆうの出くわすのは勘弁してよ……


息吹の意識は通行人とぶつかったことへの心配でなく、雨に打たれたまま街を徘徊しているその人の精神状態に向いていた。業務中の公務員として出来る最善の策は、取り敢えず彼女を保護して交番に連れていくことしかない。


「あの……、このままだと風邪引いちゃいますからね。取り敢えず屋根があるところ行きましょうか…… 」


「…… 」


「ちょっと、ごめんなさいね。肩ちょっと触らせていただきますね 」


息吹は応答がないその人の肩を後ろから支えると、歩道沿いの大型商業施設の僅かな雨避けスペースへと誘導した。目は開いてはいるが焦点は合っていないし、これはかなりマズイことになりそうだ。長い髪の毛は無造作に束ねられてはいるが水を吸ってかなり乱れている。何だか耳には軟骨やらいろんな箇所に無数のピアスホールも空いてるし、この人ちょっとヤバい人なんじゃないか?



借金……

痴話喧嘩……

メンヘラ……


いずれにしても自分が庇いきれる範疇には収まってくれそうもない。


息吹はあーあー、と思いながら改めて彼女の表情を確認しようと顔を覗き込んだ。



先程までは雨で濡れていて気づかなかった。




彼女は目を真っ赤にして、水滴に混じって涙を流していた。


そしてその涙に気づいたと同時に、息吹は声を失った……






「もしかして、あなた…… 桜……ねぇ……なの? 」


















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