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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
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偶然の偶然は必然②

■■■



吉岡は時間を気にしながら丸の内にそびえ立つ大きなビルの一角にある、とあるカフェを目指していた。気が進まない呼び出しとはまさにこれから向かう場所そのもので、許されるならば今からでもドタキャンしたいくらい気が乗らない案件だった。ヤツと会うのは()()()以来だから、一ヶ月ぶりくらいだろうか……。どちらにせよ、こんなに頻繁に会うことになるとはそのときには思っていもみなかった。


そのカフェは記者時代によく利用した店ではあったが、最近は仕事は社屋か神宮寺アケミ邸で行うことばかりで、最近はめっきり訪れることはなかった。今日は想定よりもオーディションが難航して時間が押したのが思わぬ誤算だった。雨に気づいていれば地下から回ってきたのだが、なにも知らずに地上に上がってしまったものだから少し服が濡れていた。


吉岡は入り口で連れがいる旨を伝えると、慣れた様子で席へと向かった。

アイツが先にここにいるのならば、座る席の相場は決まっていた。



「……… 」


「吉岡くん、遅かったわね。15分も遅刻よ 」


「すみませんね。俺も、いろいろ忙しいから。君たちみたいなフリーの記者さんと違って、ただの会社員だからね。融通とかは効かないもんで 」


吉岡は遅刻した癖に開き直ると、アイスコーヒーを注文し席に着いた。小暮は既にカクテルとピンチョスを片手に、一人で一杯始めているところだった。相変わらず胸元の緩い服は健在だったが、吉岡にとってはエロスとゆう感覚は越えていた。


「で、本題は何? 」


吉岡はそんな小暮の様子に構うことなく、単刀直入に彼女に要件を確認した。


「本題なんて、そんなのないわ。久し振りに吉岡くんと話したかっただけだから 」


小暮は不適な笑みを浮かべながらシガレットケースから馴れた手つきで電子タバコを取り出すと、ふっと口元に運んだ。


いや、用事がないなんて絶対に嘘だ。


こんな合理主義な女が、要件もなく昔の同僚兼遊び相手を呼び出すわけがない。それはいくらなんでも、吉岡には十分理解できる。後はそれが何なのかをさっさと引き出し、話が拗れる前に退却する他ない。

何せ、こちらには大きな弱味を握られている。彼女の存在を知られている以上、呼び出しすら無下に扱うことができないのは、なかなか苦しい関係性だ。


「吉岡くんは、最近どう?仕事は順調? 」


「あぁ……お陰さまで。充実させてもらってるよ 」


吉岡は、はぁ……こいつ何言ってるんだ?と言いたかったが、その気持ちをグッと抑え、水をゴクゴクと飲み干した。小暮のことは気を引きたい相手でもないし、気も使いたくもない。ある意味嫌な相手だからこそ、形振りを構わないで済むとゆう不思議な関係性だと思う。とゆうかそれ以前に、順調であるハズもなかった。あんたが投下した記事でこっちは暫くてんてこ舞だったし、スパンキーの自爆まではこちらも気が気でない日々が続いたのだ。



「でもやっぱり漫画の編集者なんて何が楽しいのか、私には理解できないわ……。漫画家にヘコヘコして、原稿もらっての繰り返しでしょ。我が儘なヤツもいるだろうし、そんなのを新訳公論最強新人記者で名を馳せた吉岡くんがやってるなんて、未だに理解できないわ。自分で記事書いた方が絶対にエキサイティングだし 」


あんたには、絶対無理だろうね。

編集者は……


と吉岡は心のなかで呟きながら、小暮の言った内容を堂々と無視した。彼女のペースに捲き込まれるのはごめん被りたかった。


「小暮さんは……? スパンキーパクられたし、もう満足だろ。いい加減、ゴシップやら揚げ足取りみたいな記事ばっかじゃなくて、社会に有益な情報を探したらどうだ? 」


「バカねぇ……吉岡くん。私は社会にとって意味がある記事しか書いてないわ。人の不幸は蜜の味。世間はそうゆうのが好きなのよ。私は極上のリアルなエンターテイメントを提供しているってわけ。あなたの今の仕事みたいに、ピンポイントな読者にしか還元できない媒体とはちょっと違うのよ 」


小暮はタバコのフィルターを変えると、また少し煙を吹かし余韻を楽しんだ。

この女はおかしい、常識が通じない、てゆうか昔からこんなんだったっけか?


吉岡はため息を堪えつつ窓の外を眺めた。朱美は雨に濡れずに自宅まで帰れただろうか。迷子になっていなければギリギリ間に合ったくらいか?何だか無駄に大荷物のが多少気がかりではあったが、取り敢えず連絡はなかったから駅にはたどり着いたのだろう。吉岡は運ばれてきたアイスコーヒーをグイっと飲みつつ、小暮の方に向き直った。


「じゃあ特に用事はないんだったら、俺は帰る。まだ仕事残ってるから 」


吉岡は出来るだけ機械的にそう言い放つと、荷物を手に取った。相変わらずよくわからない女だったが、今となっては何故彼女に依存せざるを得ない自分がいたのかが不思議なくらいだ。

すると彼女はふふっっと笑いを堪えるような仕草を見せると、


「吉岡くん、まぁそんなに邪険にしないでよ。ただ()()()()()()()に会うためだけに、私もわざわざあなたを呼んだりしないし、繋ぎ止めたりもしないんだから 」


と口を開いた。そして小暮は軽く咳払いをしながら鞄からクリアファイルを取り出すと、それを吉岡に見せた。



「今度ね私、自分主催のフリー記者の団体を作ろうと思ってて 」


「そう。それは…… 頑張るね…… 」


吉岡はちらりとその書類をちらりと目をやったが、もはや無意識であまり直視はしないようにしていた。小暮の目的は吉岡の想定を軽く越えていた。


「吉岡くんさぁ…… 記者に未練はないわけ? 」


吉岡は小暮が発した言葉に、微かにビクリと体を動かした。


「未練も何も…… 僕は元々記者志望じゃないし。それに向いてもない 」


「あら、あんな日本を震撼させた大スクープ上げといて、今さら向いてないとかあるのかしら? それに記者になりたくてダブルスクールしてたの、吉岡くんじゃなかったっけ? 」


小暮はタバコをフーッと吹くと、相変わらずな態度で吉岡を見つめた。新卒の集合研修で初めて会ったときは、あんなに清純で正義感に強くてすぐに悔し泣きをするような女性だった。今となっては彼女が世界の汚い部分を知りすぎて変わってしまったのか、それとも本来の彼女がこちらの姿だっはたのか、吉岡には解りかねる問題だった。


「確かに……そんなこともあったかもね。けど僕は今の会社を辞めるつもりもないし、編集者の仕事も気に入ってるから 」


吉岡は可能な限りの言葉を選んで小暮にこう告げると、千円札を一枚テーブルに置き席を立った。この言葉に嘘偽りはひとつもない。だからこそ彼女とこれ以上の話をするのは避けるべきだと本能が叫んでいる気がした。



「……やっぱり、()()が大切なのね? 」



小暮はテーブルに肘をつきながら、上目遣いで吉岡にこう呟いた。

その何気ない仕草にすら、吉岡は思わず固まった。



「……?はっ、彼女ってなんのことだよ…… 」


「彼女といえば、一人しかいないじゃない。あの彼女よ 」



吉岡は込み上げる感情をグイっと抑え、今一度小暮の方を振り直った。圧倒的に小暮のペースに巻き込まれている。流石に現役の記者には簡単には太刀打ちできない。


「でも、こっちも今後の記者人生かかってるから。私は吉岡くんを諦めない……。あなたは日本を正しく導く救世主だから。 どんな手段を使ってでも、あなたの頭脳は()()()()にあるべきだと思ってる……。それは本心よ 」



吉岡ら思わず息を飲んだ。

殺し文句に次ぐ殺し文句は流石に嬉しいとか照れるとか、そうゆう次元を通り越して純粋に恐怖を感じるレベルではないか。


しかし吉岡は瞬時に感情を立て直すと、間髪いれずに小暮にこう返答した。



「何度でも俺の答えは変わらない。どんな手で来ようと答えはノーだ 」



吉岡は小暮の反応を見ることなく振り返ると、足早に歩き出し店を後にした。

その一部始終を目の当たりにした小暮は、思わず吹き出しそうになり寸前のところで堪えていた。


「……吉岡くんってば、ほんとに面白い。やっぱりあの娘に彼の才能を独占させるのは勿体ないなぁ…… 」


小暮は小さく呟くと、残りのカクテルをグイット煽り小さく荷物をまとめ始めた。




ーーーーー



吉岡は汗をぬぐいながら、地下街を歩いていた。



別に()()のために編集者を続けている訳じゃない。

確かに彼女は現状隔週キャンディの一番の稼ぎ頭だし、そんなトップ作家の担当を任されていること自体は誇りに思う。

確かに職務上、一緒にいることは多いし、彼女の場合は監視作業も必要だから時間を共にすることも多い。あと自分が多少過保護になっている部分があるのは認める。

だけどこれは漫画家と編集者としての関係性であって、彼女個人に対してどうこうというのはないし、彼女自身も自分に対して仕事仲間という感情以外は抱いてはいない。

だからもし彼女を自分の弱味として小暮が何かしてくるのであれば、俺は断固として負けたりはしない。



ああは言ってはいたが、小暮は多少俺のことを過小評価している。


僕は欲しいものは力ずくで手にいれたりはしない。

だいたい記事だってネタだってそうだろう。

自分から狙いに行ったら、その時点で記者失格なんだよ。

そして他者の良さを知ろうとしない君には、いずれ限界が来るはずだ。

俺だって編集者の醍醐味を自分はまだ知らない。

けれども彼女はいずれ僕にそれを教えてくれる気がする。

何だかんだで、僕は彼女を信じてる。



吉岡は悶々としながら、社を目指し歩いていた。相変わらず湿気が堪えて、汗が滴り落ちてくる。



今日は神宮寺邸にいく用事もないから、このモヤモヤを忘れることは出来なさそうだ。確かにちょっと会いたくなるくらいには、もしかしたら自分は彼女の存在に依存している部分はあるのかもしれない。



自分の天職は編集者だと言いきる自信はないが、一つだけ確実に言えることはある。





やっぱり自分には記者は向いていないとゆうことだ。 











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