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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
キラキラした世界
23/111

ツンデレ地帯②




「あのさぁ…、吉岡…… これ…… 」


どさくさに紛れて朱美はコップのすぐ横にその紙を置くと、先程とはうって変わりソファーに体育座りをして頭を下げた。

吉岡がそれらに目をやる。

するとそこには広告や書き損じの原稿の裏紙が混ざっていた。


「あのっ、先生、もしかして、これ…… 」


「ネーム…… 一応、昨日のうちに出来てたの。ごめん、ちょっと嘘つくようなこと言っちゃって…… 」


「はぁ…… ちょっと拍子抜けですが…… では…… 拝見します…… 」


吉岡は一体あの茶番は何だったんだ?と思ったが、すぐさま仕事モードに目付きを切り替えるとネームに目を通し始めた。鉛筆で殴り書きされたネームは、鉛筆の擦れた跡や消しゴムの掛けすぎで紙が薄くなっいるのが、はっきりとわかる状態だった。


それにしても相変わらず吉岡の速読力は目を見張るものがある。

まるで卒業アルバムに載せる写真でも選別するかのように、吉岡は20ページに渡るネームを淡々と捲っていく。そしてその表情は終盤に向かうほど険しいものになっていった。


一分経ったかどうかくらいのタイミングで、吉岡はネームから目を離して朱美に見返った。



「あのっ、神宮寺センセィ……? 」


「なに……? 苦情ならお断りだからね。それでも私なりには、紆余曲折だったんだから…… 」


「海蘊と奏介…… キスするんですか? ってゆうか、プロット……と違くないっすか!? 」


吉岡はネームを持つ手を震わせながら朱美に向かい直った。

心なしか吉岡の目は若干血走っても見える。



「うん…… だから言ったじゃん。私に恋愛漫画は無理なんだって。どんどんピュアラブから離れていく一方だもん。だから自分がイヤになっちゃったわけ。私の発想があまりにも闇展開で…… 」


「確かに誰だって…… そのリア充のそうゆうくっつくくっつかないな、焦れったい駆け引き的な話を聞いたらそう思いますよ。だからって海蘊(ヒロイン)をそっちの世界に走らせるのは大胆とゆうか…… なんとゆうか…… 」


「……言っとくけどこれ書いたの、今日息吹に会う前だからね。いくらなんでも急にその発想にはならないから…… 」


朱美はサイドテーブルにあった煎餅の封を切ると、バリバリと口に運び始めた。


「仕方ないじゃん。やっぱり私も十二人のイケメン編集者に『君の物語を僕も一緒に紡ぎたい』とか言われたらいいな、とか思ったの。やっぱ主人公には刺激が必要だと思って 」


「まぁ、僕みたいなのが、あと十一人もいたら、先生マジで息できなくなると思いますけどね…… 」


吉岡は呆れながら麦茶を口に運ぶと、そのままサイドテーブルにあった煎餅にも手を伸ばした。


「言っとくけど、吉岡のツンポジ&姑ポジションは一人でいいの。下手したらいらないっッ。私が欲しいのは刺激的で甘甘エロスな王子様だから 」


「いっ、いらないって……、それ結構いま僕グサッって来たんですけどっッ!? 」


吉岡は思わず立ち上がって朱美に抗議を入れたが、朱美は物ともせず真顔でこう返した。


「はぁ、だって本当のことだから。まぁ、そんなのはどうでもいいわ。けどそのまま十二人発生したんじゃ某ゲームのパクリだし、今更あと十一人もイケメンキャラとか無理だから、取り敢えず奏介くっつけてみよっかなって思ったの 」


「はぁ…… じゃあ…… 結構感覚的にやっちゃった感じですか? 」


吉岡は朱美の言葉を聞いて、髪の毛を少し書き上げると安堵したようにまたソファーに腰かけた。


冗談の間合いかどうかが分かるくらいの信頼関係なら、二人の間にはもう確立されている。


「あの…… 先生が次の展開に悩んでいるならは、たまには編集者として僭越ながらアドバイスをさせていただいても宜しいでしょうか…… 」


「……別に イイけど…… 」


「僕は思うんですけど…… プロセスはすべて経験になります。

そしてそのプロセスは、人間一人一人違います。僕たち創作活動に従事するものがエンターテイメントで一番重要視するべきは、おそらく結果です。だから海蘊が色んな経験をしても、最終的にちゃんと答えを出すことが大切なんだと思います 」


「…… 」


「別にまっすぐの道を進むだけが、幸せになる方法な訳ではありません。迷子になったり、崖を越えて進んだっていいんです。彼女は物語の主人公なんだから一番荒波に揉まれて幸せになる権利があると僕は思います 」


「吉岡…… そうだね。私もそう思う 」


「ちょっ、先生ここツッコむとこですよ。僕、ちょっと恥ずかしいんですけどっ…… 」


吉岡は想定外の朱美のリアクションに思わず動揺した。

本当に行き詰まってこう展開を変えたのか、それとも天性の才能で本能の赴くままに方向性を変えたのか、一年間一緒に作品を作ってきた経験を考慮しても、吉岡には朱美が良くわからくなっていた。


ただこれは素の朱美の反応なのではないかと吉岡はそう思った。

そして吉岡は、はぁー、とため息をつくと、朱美にこう切り出した。


「野上の方もかなり本気で、彼女に入れ込んでるみたいなんで二人はうまく行くんじゃないですかねぇ 」


「へっ…… 吉岡? もしかして、野上さんが息吹にアタックしてるの、知ってたの?」


「えぇ…… まぁ…… 合コンの日に、一応問題がなかったか連絡を取ったので…… その時に、まぁ、気になる人がいると報告を受けましたから…… 」


吉岡は緩めたネクタイを外しながら、こう朱美に話した。

朱美はビックリしたのか、相変わらず化粧っけのない目玉をまん丸くして体全身で吉岡に向き直った。


「はぁー!? いつの間にっッ!? ってゆうか吉岡、あの日はずっとココにいたじゃんっ! 」


「まぁ、先生がショックを受けてたんで、ある程度はタイミングを計って、わからないように外部発信しましたから…… 」


「キッーッ!よーしーおーかぁーっッ!!」


朱美はその吉岡の飄々とした態度に、苛立ちを隠せなかった。

朱美は勢いよく立ち上がると、ソファーのクッションを吉岡に投げつける。しかし吉岡はあっさりとその攻撃を避けた。



「だから、まぁ…… 野上と息吹さんの件を聞いたら、先生が少し壊れるとゆうか…… 創作意欲が削がれるのは、ある程度は想定はしてたんですが…… 」


「へっ、何それっ!?その言い方っッ!?俺、おまえのことなら、何でも知ってますから、みたいなっッ!? 」


「まさか。僕は、そんなに万能じゃないです。先生の担当として、最低限の義務を全うしているだけですから。先生はわが社の宝です。大切な商品を、全力で守らない編集者がどこの世界にいるって言うんですか…… 」


なんだか無性に腹が立ってきた。

いつの間にか自分は吉岡のまな板の鯉状態ではないか。

朱美は吉岡の手の中にあるネームを奪うように引ったくると、もう一度ネームを見直し始めた。


「…… 吉岡はどう思う? 海蘊はこれでいいのかな…… 正直、息吹に会うまでは、これが私なりの正解だったから…… 」


朱美はボソボソと話しながら、紙をペラペラと捲っていた。


「この後の展開…… 次第ですね。奏介とキスしちゃったら、海蘊と豊の関係は多分もう戻ってこれなくなります。特に高校生ならそうゆう関係って一回知ってしまうと填まってしまうのが世の常ですから…… 」


「なに……? その吉岡の言い種……? なんだか、まるで吉岡が修羅場を経験してきたみたいな物言いじゃん…… 」


「あっ、いゃ…… 僕に、そんな…… ある訳ないですよ。大体、僕は灰色の青春を送ってましたから 」


吉岡は完全に油断していた……


吉岡は言いつつ麦茶をイッキ飲みすると、ふと目線を下に反らした。

都合の悪いことは、飲み込んでしまうに限る。

       

「ふーん。何か……吉岡、怪しいよ……? 」


「……そんなことありません。さっきの言葉は、あくまで一般論です。僕も一応編集者ですから、文字面上の正解は色々知ってるんですよ 」


苦し紛れの言い訳なことは、自分自身が一番のよくわかっていた。

朱美はそんな自分の様子を凝視している。

普段はあんな調子だが、彼女は今日本列島でノリに乗っている漫画二十人には選ばれる創作家なのだ。

普通に心理戦を繰り広げたら、自分に勝ち目はない。


「……まぁ、いいや。 一応、奏介とは三ヶ月分くらい、そうゆう関係だけ続けるつもり。で、やっぱり違うって目が覚める。在り来たりかもしれないけど、かわいい子には旅をさせてみようと思う…… 」


「まぁ、そうですね。この急展開は賭けですけど、先生の新境地の開拓かもしれないですね…… 」


「じゃあ…… ネーム通してくれるの!? 」


朱美はいきなり立ち上がると、吉岡の隣のソファーにどしりと腰を下ろした。


「ちょっ、っまっ…… 先生、いきなり距離近くないですかっッ!?」


「……これも作戦だから。多少攻めないと欲しいものが手に入らないこともあるからね。サービスだと思って有り難く受け取りなさいッ…… 」


「はぁァ……?そんなことでネームが簡単に通るなら、僕ら編集者なんか要らないじゃないですか…… 」


これでは、もはやツン要素のない、ただのデレ攻めだけではないかっッ!?


吉岡は顔から火を吹きそうな衝動を必死に堪えて、慌てて表面上冷静さを取り繕うとと軽くため息をついた。


内心、吉岡は穏やかではなかった。

つい最近、消したい過去に半ば仕組まれたように再会したばかりだったし、朱美に嘘を付いているような形になるのも後ろめたい。だからこそ純情な朱美に、この物語のケリをつけることができるのか、一抹の吉岡には不安が残っていた。


「先生、ちゃんと、修正できます? 海蘊のこと…… 」


「もちろんよ…… 私、プロだから 」



いいつつ朱美は、またソファーにダイブすると、またグダグダし始めた。

吉岡はそんな朱美の様子を見ると、はぁ……、と再びため息を溢した。





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