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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
番外編 11月11日 ポッキーのエトセトラ
18/111

番外編③ 11月11日 ダースの恐怖

東京都中央区 とあるファミレスにて






「何、この大量の箱の山っッ……!? 」


桜は店の勝手口から出社するなり、劇狭のバックヤードに苦戦しながら事務所へ向かった。実質1.5日の公休中にすっかり昼間の生活に戻ってしまいダルい体に鞭をうちながらやってきたのに、初っぱなからこの仕打ちは波乱の5勤になる予感がする。



自分がやってしまったのか……

店長がやってしまったのか……

それとも同僚がやってしまったのか……


いずれにせよ暫くこの大量の箱とは共存しなくてはいけないのは、長年培ってきた勘で薄々理解はできる。


桜は相変わらず似合わない制服に手早く着替えると、取り敢えず事情を知っていそうな人間を探した。発注をかけたのは社員だろうから、ここはそれ以外で探すのがいいだろう。


取り敢えず話がしやすい裏方は……、とキッチンでキョロキョロしていると、ちょうど織原が調理の真っ最中だった。


「ねー、織原ー、あの箱の山、何か知ってる? 」


「ひぇっ、あっ、遠藤さんでしたか…… 」


織原は少しビクリとして桜を振り返った。その反動で手元のパスタの中身が少しヒュルリとフライパンの際を流れたが、織原はしっかりそれをキャッチした。


「いやー、まぁ、僕の口からは言いづらいといいますか、なんとゆうか…… 」


織原は手元もよく見ず、目線を泳がせながら桜に返事をした。織原も桜からは逃げられないことは承知しているのだろうが、一応知らぬ存ぜぬの構えをみせた。


「別に織原から聞いたとか言わないから教えてよ。あれ、あのまんまにしとく訳にはいかないでしょ 」


桜は一瞬、昔の顔を見せて織原に詰め寄った。織原は恐怖からかヒィと声をあげそうになったが寸前で堪えて覚悟を決めた。


「あれは…… 昨日届いたんですけど…… 」


織原はいいつつパスタを皿にあげ、ウェイターの呼び出しボタンを押しつつも周囲を確認する。

そして間髪入れずに、桜に素早く耳打ちした。


「どうやら店長が発注ミスしちゃったそうで…… 」


「えっ、店長が? 」


「ちょっッ…… !?遠藤さん、声デカイからっッ…… 」


桜は意外な情報に少し拍子抜けした。どうやら自分は潜在意識で、勝手に後輩のミスにしていたらしい。




半年前に異動してきた店長とは日勤と夜勤のすれ違いで、20日に一回くらいしか会わない。それにメールのやり取りばかりであまりゆっくり話すこともなかったが、そんな凡ミスをするのは意外だった。


「なんかパフェに差すポッキーの発注単位を勘違いしたらしくて。業務用のポッキー箱入りを1ダース注文しようとして、12個口発注したらしいんですよね 」


「12個口…… 」


「はい、発注単位が一個口で箱ポッキー1ダースだったみたいで。いま業務用のポッキーが144箱バックヤードにある感じ……みたい……です…… 」



144箱……


桜はその話を聞き愕然とした。

144×一箱に入っているポッキーおよそ500本弱…… 

いったい今、うちの店で何本のポッキーが眠っているのだろうか……

もはや計算するのもおぞましい量ではないか……


定番のパフェに差すポッキーの数は、2本とマニュアルで決まっている。全国チェーンのファミレスだから、自分の店だけポッキーを増量するわけにもいかない。もちろんパフェの激安セールもご法度だ。



「それは…… 永遠だね…… 」


「はい…… そうですね…… 」


桜はありがとうと織原に礼を告げると、また事務所に引っ込んだ。シフトを確認すると、店長は朝6時に出勤となっていた。

そこまでに何か打開策を考えなくては……


桜は関東地区のブロック連絡網を開くと、すぐさま同期で融通の効きそうな人間を探し始めた。そして程なくして桜は再びキッチンに戻ると、織原に一直線に駆け寄りこう声をかけた。


「ねぇ、織原…… 」


「はっ、はい……? 」


織原はまた体をブルブルっとして、若干声をひっくり返しぎみにその声の主の目を見た。


「深夜、少しだけ、頑張ってもらってもいいかなぁ…… 」







「おはようございま~す、って、ポッキーなくなってるぅ~!!」


「えー、ほんとだー!絶対、お菓子の家作れるレベルだったよねー 」


翌日ゴールデンタイムを支える大学生のバイト軍団が出社すると、バックヤードを占拠していた大量のポッキーは1/3まで減っていた。


「あぁ、ちょっと残念。一箱くらいパクっても絶対バレなかったよねー 」 


バイト女子たちが笑いながらポッキーの横を通り過ぎていく。そんな様子を織原は男子更衣室の中で、着替えながら聞き耳を立てていた。



あれから桜は夜通し同じく中途入社の同期に連絡をかけ、他店に引き取りの協力を依頼していた。平行して店の雑費をどこまで捻出できるか限界の数字を計算し、どうやって輸送費を確保しようかと頭を抱えていたようだった。お陰で深夜帯はほぼ織原のワンオペ気味ではあったが、無事に引き取り先が決まった分は朝に店長に引き継ぎを行い、早速発送に着手していた。自分は店長に会わない時間帯にあがったがきっと安堵したに違いない。





さてさて今日も、きっとワンオペ状態かもしれない。

けれどもあんな顔して懇願されたら嫌だとはいえなかった。

都合良く捉えたら誘惑にも取れる殺し文句だったが、桜はそんなことにも気づく余裕がないくらい追い詰められていたのかもしれない。



今日の桜の出社時間は、2時間後……

彼女は今朝は何時まで残っていたのだろうか……


織原はふっと少し深呼吸して肩を回すと、首を左右に振りながらゆっくりとキッチンに向かっていった。





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