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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
長い長い夜明け
13/111

君は僕の命題




吉岡は飛び乗った電車のドア付近のポジションをキープすると、ゆっくりと週刊誌を広げた。幾つかの目玉スクープをすっ飛ばし、中盤付近の白黒のゴシップ記事欄ををパラパラとめくる。

記事は半ページほどの大きなものではなかったが、明らかに隠し撮りされた茜の姿が載っていた。眼鏡もマスクも装着せずに、朝から紹興酒空けて徘徊してたら、撮ってくれと言っているようなものじゃないか。

吉岡は職業柄…… とゆうか以前の部署にいた頃からの習慣で、電車の中吊り広告は必ずチェックはしている。だから御堂茜の記事が週刊秋冬に載っていることも、昨日の時点で知ってはいた。ただまさか御堂茜の記事と朱美がリンクするなんて、それは全くの想定外、まさに青天の霹靂だった。

吉岡は物凄い勢いで吉岡は電車の中であることも忘れて文字を追っていた。記事の最後の方に不鮮明ではあるが確かに朱美らしき人物が女性を支えながらタクシーを降りる様子が載っていて、吉岡は思わず肩を落とした。幸い朱美が有名漫画家である等の記述はなかったが、朱美のマンションのモザイクが薄いことと、何より朱美の顔に殆ど処理がされていないのは痛かった。中央区某所で撮影などと書かれたら、一日もあればマスコミ各社は、すぐに現場を見つけ出すことができてしまう。

御堂はともかく朱美は限りなく一般人なんだから、もっと慎重にいくべきだろう。もう少し配慮をしてくれればと思いながら、吉岡は記事を書いた記者の名前を確認した。


そこには知った名前……  小暮 美和子の名前があった。


吉岡は電車の中であることを忘れて週刊誌を握りしめると、やりようのない怒りをぶつけた。



毎日のように訪れる神宮寺宅の最寄り駅までは、結局一時間くらい掛かってしまった。吉岡はコンビニでカモフラージュのために買った少年誌と週刊秋冬をビニールに詰めると、マンションの裏手へと向かった。

正面玄関口からインターフォンを押して、朱美の声を聞かれるのは厄介だし、それに【アイツ】に鉢合わせる可能性もある。こんなところでアイツに会えば、いろんな意味でダメージが大きい。それに自社でも週刊誌は抱えているから、見知った仲間がいるとそれはそれで後々面倒なことになるのは目に見えている。


吉岡は慣れた足取りで裏の門扉の側の屏に足を掛けると、向こう側へと着地した。不法侵入で訴えられたら間違いなく敗訴だな。吉岡はそんなことを考えながら階段を低い姿勢で昇りはじめた。朱美の部屋はなかなかの高層階なので、到着する頃には吉岡の息はすっかりあがっていた。



ーーーーーーー



「神寺さん、神寺さん……、来ましたよ 」


吉岡は朱美の部屋の前のインターフォンを鳴らすと、声を潜めて話し始めた。いつも朱美をペンネームの神宮寺先生と呼ぶのに、今日は本名で呼ぶのだからなかなか粋なことをしてくれる。

朱美は恐る恐るドアスコープを覗き、本当に吉岡であることを確認するとゆっくりとドアを開いた。そこにはいつもと服装がカジュアルダウンはしていたが間違いなく彼の姿があった。



「よーしーおーかーっッ。怖かったっ!」


「ちょっ、先生っ!?あのっ…」


朱美はドアが閉まりきるのも待たずに、吉岡に半ば飛び付くように抱きつくと、そのまま顔を彼のシャツに埋めた。朱美の着衣や髪の毛は少し乱れていて、マスコミに揉みくちゃにされた様子が手に取るように伝わってくる。吉岡は手のやり場に困りつつも、取り敢えずその場に立ち尽くすしかない。


「もう、怖すぎたっッ。何か、囲まれるし、九割方聞いてくる内容間違ってるし。なんなのッ。恐怖越えて畏怖だからねっ 」


「あのー、先生?いったい……、何があったか、もう一回詳しく言えます? 」


吉岡は息を整えながら朱美の逆ギレモードをすべて包み込むように、優しく問いかけた。


「何も、へったくれもないから。週刊秋冬の…… 他にもよくわからない、芸能レポーターみたいなのがマンションに押し掛けてきて…… とてもじゃないけど、外出歩けない。なんかもう軽く逮捕間近な、犯罪者扱いだったからっッ 」


ドアが完全に閉まりきるとと、辺りはほぼ真っ暗になった。

朱美の表情を伺うことは出来ない。だが彼女の体温だけは伝わってきて、何だか担当編集と漫画家の距離感じゃないな……と冷静な自分もいた。


「先生、あの…… 僕が言うのも説得力ないんですけど……、もう大丈夫です。僕が…… 先生のことは弊社が守りますから…… 」


「なっ、何それッ。また、うちの大事な商品に傷がついたら、大変だからー、とかそうゆうノリでしょ!? 」


「いまは、そんな冗談いってる場合じゃないでしょ 」


もはや反射の領域だった。気づいたときには吉岡は言葉を言い切りもせずに、鞄と雑誌を持っていない方の腕で朱美の体を抱き締めていた。


朱美も素直にその腕に甘えると、ずっと堪えていたものが溢れだしていた。


「なっ、何で吉岡が謝るのっ!?吉岡はなにも悪くないし、むしろ私が…… 」


最後の方は、もう言葉が出なかった。これ以上話したらバレてしまう。

するとその朱美の様子を察した吉岡が、朱美の耳元で優しく囁いた。


「……先生、……もう大丈夫ですから。だから…… 」


「っっ…… 」






「そんなふうに……泣かないで下さい  」






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