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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
如何なるときも全力で!
105/111

不意討ち!吉岡のご自宅にご宿泊②

■■■



 雪を甘く見てはいけない。


 都心で十センチの積雪があろうものなら、それだけで街は一瞬でパニックに陥る。

 公共交通機関は麻痺するし、車も走れないし、何より地面が滑る。雪国で暮らす人からすれば、きっと開いた口が塞がらない。それくらい 都心の街は 雪という自然の脅威に脆弱なのだ。


「お客さん、申し訳ないね。水天宮(朱美の自宅)まではだいぶかかるよ 」


「そうですか。かなり本格的に降ってきてますし、都内では珍しいですよね。それにしてもこの辺りは水っぽい雪ですよね。最初に見たときは、ビックリしました 」


「ああ、そうなんだよね。お兄ちゃん、雪国出身なの? 俺も田舎は盛岡なんだよ 」


「僕も田舎は雪国っちゃ雪国ですね。僕は北陸の方ですけど 」


「ああ、あの辺りは雪が深そうだよね。黒部ダムとか、毎年凄いイメージだよな。まあ、雪に慣れてる人間からしたら、これくらいは大したことないんだけどねー。都心だと、これは大雪だよ。この車はスタッドレスだけど、他はそうとも限らないし。ほら、その路側帯の車なんか立ち往生しちゃってる。これじゃあ危なくて、スピードなんか出せなやしない 」


「そうですね。あの、運転手さん、僕らは急いでないんでゆっくりで構いませんから 」


 朱美と吉岡は 既に数十分くらいタクシーに揺られていたが、一向に目的地に辿り着く気配はない。トランクがぎゅうぎゅうになるくらい荷物は積んだけれど、それでも入りきらなくて後部座席も景品やら副賞が溢れている。

 狭いスペースでひしめくように タクシーに揺られるのは、少しずつ体力を消耗する。朱美は運転手さんと吉岡の会話に参戦するようなパワーはなく、ずっと聞き耳だけを立てていた。


 それにしても吉岡が北陸出身だなんて、初めて聞いた気がする……


「あっちゃ、ここからは首都高は封鎖だって。お兄ちゃん、次の出口で降りちゃうね。全然進めなかったなー 」


「あっ、はい、わかりました…… 」


「ごめんな。お二人さんとも、今日は結婚式の帰りかなにかだろ? とんだ帰宅になっちゃったな 」


「いえい。雪なのは 運転手さんのせいではないですから。今日は 会社の祝賀会兼忘年会みたいな場所に出席したので、少しよそ行きな服装なだけなんです。景品がいっぱい当たっちゃって、こんな大荷物になっちゃったんですけどね 」


「へー ご夫婦で同じところにお勤めで? 」


「夫婦!? 」


 朱美は夫婦という単語に反応して、思わず状態を起こした。

 しかし吉岡もすぐにその朱美のただならぬ気配を察したのか、その口元に手を力強く当てがうと、すぐさまその声をかき消した。


「あはは()()夫婦じゃないですけどね。僕たち、同じ職場の同僚みたいな感じなので 」


「んっ…… んっッ 」


 どんなに攻めた発言をしても、朱美に自分の真剣な気持ちは伝わらない。

 吉岡は鷹をくくって、そんな言い回しをしたつもりだった。


 しかし…… 今回は案外そうでもなかったようだ。

 朱美はいつの間にか吉岡の腕の中で、顔を真っ赤にしていた。


◆◆◆



 首都高を降りても、渋滞は相変わらずだった。

 目の前はホワイトアウト寸前だし、前の車のハザードしか頼りになる目標物もない。何より辺りは真っ暗だ。暖房を強くするとフロントガラスが曇るから、車内はかなり冷え込んでいる。さすがに小一時間タクシーに揺られていると、寒さも倍増する。

 これ以上進むと、運転手も車庫に戻れなくなる。吉岡の頭にはそんな心配も過り始めていた。


「朱美 」


「何? 」


「今日は家に帰るのは無理かも。それでも大丈夫ですか? 」


「えっ? 別にそれは構わないけど 」


 さっきのホテルに引き返すつもりかな?

 まあ、吉岡が何を考えているかは良くわからないけど、ここは全面的に彼に任せておくのが懸命だろう。お酒は殆ど口にしなかったから酔ってはないけど、朱美も今日はそこそこ疲れていた。


「うーん、困った。どこもかしこも満室だ 」


「ん? 泊まるところを探してるの? 」


「うん、この辺り…… 新宿近辺で。朱美先生も探せたりする? 俺は今じゃらんで検索してるから、それ以外とかで 」


「うん、わかった 」


 朱美は鞄からスマホを取り出すと、吉岡と同様に空室検索を始めた。夜十時を回ってしまったとなると、空いてる部屋はそうそうない。しかも今日は金曜日で雪なのだ。

 朱美はサイトを立ち上げると、検索範囲の設定を始める。新宿、新宿と唱えながらタブを探す。うーん、都内は街の名前が多すぎる。朱美は少し目がチカチカする感覚に襲われつつも様々な地名を探していると、ふと神楽坂という三つの漢字が目に飛び込んできた。



「運転手さん 」


「はい、何か? 」


 朱美に話しかけられて、運転手は少し驚いたように返事をした。


「あの、神楽坂って行けますか?  」


「ああ神楽坂なら、ここからでも近いですよ 」


「じゃあ行き先変更で。神楽坂に行ってください 」


「えっ? 」


 朱美の提案にすかさず異論を唱えたのは吉岡だった。


「あのぉー、朱美さん? 」


「なに? 」


「朱美が知ってるかどうかはわからないけど、神楽坂ってほぼ住宅地だから、ホテルみたいに泊まれるようなところは殆どないけど? 」


「別にホテルに拘らなくていいでしょ? 要は寝る場所があればいいんだから 」


「あの、まさかだけど、俺の家に泊まるとか言わないよね? 」


「他に何があるの? 」


「いや、普通に考えて駄目でしょ 」


「なんで? 」


「うちはかなり狭いしボロいし、学生メインの共同アパートだから、人を呼べるような環境なんかじゃないのっ 」


「でも仕方ないじゃん!? 雪だし緊急事態なんだから! それともどうしてもイヤなら、ラブホにでも行くっッ!? 」


「ちょっと、朱美っッ!? 人前でラブホとかセンシティブな単語を言うんじゃないっッ…… 」


「だ か ら 吉岡は今夜は強制的に私を家に泊めるの!! それとも何? なんか私を部屋に入れられないヤマシイ理由でもあるのっッ!? 」


「疚しい事なんてあるわけないだろ!? あんたのせいでお陰様で他の女に手を出す時間どころか、一般女性と話をする時間すらほぼないんだからっッ。単純にアパートがボロくて、普通に部屋が散らかってるのを人様に見せたくないだけだよっッ 」


「あのお…… お客さんたち? 」



 タクシーの運転手はしばらくの間、くだらない痴話喧嘩に付き合わされる羽目になった。


 しかし数分後、話がまとまったのかはよくわからないが、次の目的地は無事に神楽坂の赤城神社の裏通りに変更されることになった。






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