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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
如何なるときも全力で!
104/111

不意討ち!吉岡のご自宅にご宿泊①

■■■■



「おっ、神宮寺先生! この度は 最優秀少女漫画賞受賞おめでとう 」


「あっ、この度は ありがとうございました。編集長や吉岡さん、編集部の皆さんが いつも助けてくださるから頂けた賞です。本当に ありがとうございます 」


「いやいや、私たちは 何にもしてないよ。先生の実力が全てなんだから 」


 忘年パーティも宴もたけなわとなり、客はすっかりまばらになっていた。

 忘年パーティには軽い気持ちで参加したつもりだった。それなのに思いがけず 本年度の最優秀少女漫画賞を受賞したり、ビンゴ大会で三等を取ったりと、朱美はすっかりその場に主役になっていた。


「神宮寺先生、荷物持ちには 吉岡を付けますから 」


「あっ、いえ。私は一人で帰れますからっ。それに吉岡さんは撤収作業とか 仕事が残ってるでしょうし 」


 朱美は体の前に手を出すと、やんわりと編集長の申し出を断った。目線をスライドして吉岡をチラリと確認すると、彼は黙りを決め込んでいる。


「なーに。神宮寺先生の心配には及びませんよ。撤収だけなら、若いヤツにも出来ますから 」


「はあ…… 」


「じゃあ、吉岡。全身全霊を込めて神宮寺先生を送り届けるように 」


「はい。了解しました 」


「いいか、お前は荷物を置いたら、即帰るんだぞ。打ち合わせじゃないんだから、無駄に上がり込むなよ? 」


「わかってますよ 」


 吉岡はそう言うと、編集長に頭を下げる。その様子を見た朱美も また何となく編集長にお辞儀をした。



◆◆◆



「神宮寺先生、荷物はこれで全部ですか? 」


「うん。多分これで全部…… なハズ…… 」


 朱美と吉岡は 両手一杯に荷物を抱えて、ガランとしたホテルの館内を練り歩いていた。

 ビンゴの景品はコーヒーメーカーとカートリッジ半年分、漫画賞の賞品には スーツケースに 万年筆に ダイヤモンドネックレスに カトラリーセット一式と、どこかのクイズ番組並の羽振りのよさだった。


「景品で頂いたのは有り難いんだけど、私はコーヒーは飲まないんだよね。スーツケースも暫くは出番がなさそうだし 」


「コーヒーメーカーはカートリッジを変えたら、紅茶とかジャスミン茶も入れられるみたいですよ。確かにスーツケースはすぐには使わないかもしれませんけど、あれば便利ですよ。来年はキャンディの周年記念もありますから、地方都市でのサイン会も予定してますし、出番はたくさんあるんじゃないですか 」


「へー。そんなの初耳なんだけど? サイン会に呼ばれたら嬉しいけど、読者の方と直接会うのは緊張しちゃうよね。神宮寺アケミの現物を見てガッカリされたら、 立ち直れないなー 」


「あはは。それは朱美先生が心配しなくても 大丈夫だと思いますけどね 」


 朱美と吉岡は ゆっくりとホテルの正面玄関を目指していた。都内の一等地にあるこのホテルは 増築改築が繰り返されていて、まるで迷路のように複雑だ。朱美は時折毛足の深いフカフカな絨毯に足を取られる度に、吉岡の腕を掴んでは離すという微妙なやり取りを繰り返していた。


「朱美先生 」


「どうかした? 」


「雪も本降りになってきたし、今日は無理に帰らなくてもいいんじゃないですか? 」


「えっ? 雪が本降りとか、見て分かるものなの? 」


「それくらい、見ればわかりますよ。一応、編集部でホテルの客室も何部屋か押さえてあるんです。遠方から出席して頂いてる先生方のために。多分まだ空室はあると思いますから、無理に足元が悪い中帰らなくてもいいんじゃないかと思いまして 」


「ありがとう。でも大丈夫。私は今日は帰らないと 」


「費用は編集部持ちですよ? 」


「違うの 」


「えっ? 」


「そういう問題じゃないの。原稿を進めたいから、家に帰りたいだけ 」


「はいっ? 」


「何よ、その反応 」


「朱美先生。いつから、そんな常識人になったんですか? 」


「んっあ? 私は至っていつも通りだけど? うちは少数精鋭だし、私はそもそも作画のスピードは早くないから。進行には あんまり余裕がないの 」


「あはは、確かにそうでしたね。それは失礼しました 」


 夜も深い時間になると、ホテルとか宿とかの照明は暗くなる。ガラス張りの通路からは、植木の隙間から少し雪が覗いていて、時折光の屈折か何かでキラキラと光っていた。


「あの、吉岡? 」


「何ですか? 」


「吉岡は、その…… 編集長には言わないの? 」


「何をです? 」


「だから、その…… 」


 朱美は口を濁しながら、悟ってくれと言わんばかりに吉岡に目配せした。


「そんなの言うわけないでしょ? バレた瞬間、僕は僕を抹殺しなくちゃならないんだから 」


「はい? 抹殺? って、何それ 」


「朱美先生は編集長ことよく知らないから、そんな悠長に構えてられるんですよ。あの方は朱美先生が思っている以上に、作家さんを大切に思ってますから。編集長が本気になったら、僕のクビはいくつあっても足りません 」


「……? 」


 朱美にはそんな編集長の裏の顔はピンとこないのか、頭を大きく捻っている。どんなに着飾っても、朱美の仕草は普段となにも変わらない。そんな取り繕うことのない朱美の所作は、今日の吉岡には毒にも薬にも感じられるのだった。



「でもまあ、僕はそのうち編集長に()()()()をするつもりでいますけどね 」


「んんっ? 」


「えっ? 僕、なにか変なこといいました? 」


「いや、何かそれって…… 」


「…… 」


 朱美は立ち止まって、吉岡を見上げていた。

 朱美は無言だった。

 だけど呼吸し体が微かに揺れる度に、イヤリングやネックレスが暗がりで鈍く瞬いている。


 しまった。

 完全に無意識だった。

 かなり飛躍した物言いをしてしまった。

 さすがの朱美もこんなことを突然言われたら、立ち止まるだろうし驚きもするだろう。当たり前だ。時間は巻き戻らないのはわかっている。だけど訂正するつもりもさらさらなかった。


「あのさ、吉岡 」


 鼓動が早くなっていた。

 まさかと思うが 拒否をされようものなら、ショックはデカイし、立ち直れないかもしれない。

 吉岡は一息呼吸を落ち着かせると、慎重に声を出した。


「何ですか? 」


「あのさ、それって…… 」


「…… 」


「今までの話と矛盾してない? 」


「はいっ? 」


 吉岡は朱美のあまりの察しの悪さに、体が一瞬凍りつくような感覚がした。


「もしかして、朱美先生。今の僕の発言の意味がわからないの? 」


「えっ? 何のこと? えっ? えっッ? なんか、意味があったの!? 」


「……マジか 」


「はあ? ちょっと、待って!吉岡、もう一回さっきの言葉いって! 」


「絶対、イヤですっッ 」


「はー!? なになに、そんな風に言われたら、メチャクチャ気になるじゃんっッ! 」


「ハア 」



 鈍感にも限度があるだろっッ。限度がっッ!

 吉岡は盛大な溜め息を付きながら、その場でガクリと膝を落とすと、項垂れるように頭を抱えるのだった。





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