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ガールズ!ナイトデューティー  作者: 高城 蓉理
長い長い夜明け
10/111

適切な距離感 ヤツにご用心

■■■





『この連絡を見たら、至急社に出社せよ』って、どうゆうことっッ!?


茜は焦っていた。


取り敢えずバスタオルを巻いただけの状態で、ロッカーの中に頭を突っ込んで留守電の内容を確認すると、そのまま素早く着替えを再開した。こうゆう女子だけのしかも露出過多な空間でスマホを手にしたことを心で詫びつつも、ロッカーに頭を突っ込んで使用した努力を持って故意でないことは認めてほしいと心の中で唱える。まだ体の滴は完全に拭いきれていないが、そんなことに構っている暇はなかった。



今日は優雅な休日になる筈だった。


朝はスムージショップでフレッシュジュースを片手に読書、昼は一人で趣味の美術館に向かいお昼からホットヨガで汗を流す……

まさに女子アナらしい、リア充を意識した休日のスケジューリングだった。


土曜日だとゆうのに、至急局に来るように留守電が入っていたのは、ちょうど茜がホットヨガを始めたくらいの時間だった。用件はよくわからなかったが、非番の自分が呼ばれるとあらば何か緊急な対応が必要なのかもしれない。

茜は化粧もせずに慌てて飛び出しタクシーを拾い行き先を告げると、鞄の中からポーチを取り出して取り敢えず顔に粉をはたき眉を描いた。半乾きの髪はタオルで今一度水分を抑えるしかできない。こういうときボブヘアーとゆうのは、ちょっとだけ不便だ。ラジオ部門に出向中の身であるから、画面に登板することはないだろうが、あまり見苦しい状態で出社するわけにもいかない。茜は六本木のホットヨガスタジオから局までの僅かな移動時間をフルに有効活用して、とにかく体裁を整えることに注力した。


タクシーで局に到着するなり、茜は釣りも受け取らずに慌てて降車し入り口へと向かった。急いでいるときに限って、エレベーターは高層階にいて、到着を待つちょっとした時間さえ鬱陶しさを感じる。エレベーターの扉が開くなり茜はアナウンスルームにダッシュで向かうと、そこには暫く顔を会わせていなかった迫田アナウンス部長が一人で仏頂面で座っていた。


「お疲れさまです……」


茜はマスクを外し迫田の前に向かった。迫田も急遽出社したのか、ポロシャツ姿のラフなスタイルで、週刊誌を読んでいた。今のこの迫田の服装を夕方のニュースの印象しか知らない視聴者が見たら、きっと凄く驚くだろう……と思うくらい、彼もまた休日仕様の出で立ちだった。


「久しぶりだな、御堂。元気にやってるみたいだな 」


「はい…… まぁ…… 」


迫田は読んでいた週刊誌を閉じると、ため息をついて口を開いた。その様子を見た茜は、この呼び出しは緊急事態の対応ではないが、何かしら自分にとって不利益がもたらされる嫌な予感がした。


「ちょっと、こっちにこい。確認したいことがある 」


迫田は席を立って茜を手招きすると、同じ階にあるミーティングルームに茜を連行した。



ーーーーー




「御堂、二週間前の…… 六月の一週の水曜日の朝、どこにいた? 」


「二週間前…… 水曜日ですか……? 」


迫田は腕組みをし少し椅子を反らせるように座っている。空調の音がやけに響く小部屋で、時計の秒針が聞こえるくらい部屋には静けさがあった。

茜は手を強く膝の上で結ぶと、何でもないありきたりな日の出来事を頭に思い浮かべた。酔いすぎていて四人と合流してからの記憶は殆どなかったが、その日は久しぶりに仕事終わりに、完徹同盟で集まった日ではなかっただろうか……



「その日は…… オンエア終わりに、友人と食事をしました 」


茜は言葉を慎重に選びながら迫田へ報告した。相手は上司かつ、今尚現役で生放送番組を仕切っている報道アナだ。ここで対応を間違えると、今度こそ日の目を見ることができなくなるのは明白だ。そんな茜の都合を知ってか知らずか、迫田は短い言葉で質問を続けた。


「場所は? 」


「八重洲です 」


「そこまで、何で向かった?交通手段は? 」


「えっと…… 地下鉄ですけど…… 」


迫田は相変わらず不機嫌そうな表情で茜を尋問し始めた。そして片手には相変わらず週刊誌を持っている。これはつまり、そうゆうことかもしれないと、茜も少し覚悟を決め始めていた。おそらく自分が朝から飲んだくれていた姿を撮られたのだ。


「御堂…… その…… 地下鉄に乗る前に、どこかで一杯一人で酒を飲んだりしたか? 」


「……はぁ。確か少しお腹が空いていたので、駅の側の大猫飯店でレバニラ定食と中生を食べてから向かったかと 」


すると迫田は大きなため息をついて、じゃあ、これは本当なんだな、と言って、週刊誌を茜に見せた。


「……!?なっ、なっ……、これって…… 」



茜は絶句した。


そこには一頁まるまる使った記事で、デカデカと

『スパンキー須藤、最後の要 御堂アナと確執か!?御堂アナストレス泥酔の朝飲み』と見出しがあった。

これは…… 想定を大きく凌駕する載り方ではないかっッ。茜は硬直して、慌てて記事に目を通す。


「御堂、お前、大猫飯店で注文したのは、なんだったか? 」


「……中生です。あと、レバニラ…… 」


茜は小さく返答しながら記事に目を通す。

しかし迫田はあきれた顔をして話を続けた。


「この小暮ってヤツの記事によると、お前ここで中生以外に紹興酒一本あけてるよな? 」


「そっ、それは…… 」


記憶にございません、とはとても言える空気ではなかった。本当に記憶にないのだが、白黒写真の中の自分を見ると、確かに紹興酒を空けている様子が一部始終写っている。

どうやら一人で入った大猫飯店から、何者かにつけられていたらしい。茜は穴があったら入りたい気持ちで一杯だった。


「しかもその後、千鳥足で満員電車の千代田線から乗り換えて、東京駅八重洲地下街に移動しさらに深酒。これも間違いないな? 」


「いや…… あの…… その…… 」


もうこの辺りから、茜には全くの記憶がなかった。大猫飯店を出てからの次の記憶は残念ながら朱美宅で目が覚めてミルク粥を食べるところまで約十二時間、すっぱりと抜け落ちていた。いったい自分はどんな状態で、どのように無事に八重洲まで移動できたのだろうか…… 茜は泥酔時の潜在能力の恐ろしさを、感じずにはいられなかった。


「大体、お前も一応アナウンサーなんだから、泥酔状態で地下鉄に乗るな。タクシー使え 」


「はい、申し訳ありません…… 」


茜は迫田に頭をさげる。どこからスパンキー須藤との確執の話が出てきたかはわからないが、もしかしたら何か口走ってしまったのだろうか?茜は慌てて記事を読み進めるが、ガールズ四人の会話内容は書かれていないので、スパンキーとの云々の辺りは記者が憶測で書いたのだろう…… と思うしかない。


だが週刊誌の次のページを捲った瞬間、茜は思わず目を疑った。


「なっ、こっ、これって……!? 」


次のページには茜が一番恐れていた事態が繰り広げられていた。

血の気が引くとは、こう言うことを言うのだろう。


茜は迫田に、ちょっとすみませんと声をかけると、鞄を片手に思わず部屋を飛び出した。












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