6 これが日常!
授業が始まってから五日ほど経ち、今日は十八日、六原さんが大好きな百合雑誌の発売日です。
もちろん僕はもう買いにいきません。なんか伊波さんに申し訳ない気持ちになるから……
六原さんは朝からとても嬉しそうだった。
「六原さん、すごく嬉しそうですね。そんなに読むの楽しみなんですか?」
「うん、楽しみ」
すると六原さんが不思議そうな顔をして僕を見ている。
「ん?相模さん……もしかしてあなたも百合の世界に入ってきてくれるの?」
「もっと六原さんとも仲良くしたいなって思って、調べただけです。べ、別に百合にはまったとかそういうのじゃなくて」
「相模さん、可愛い……伊波さんが惚れるのもわかるな」
「そういえば、六原さんは女の子のことが好きとかじゃないんですか?」
「私は見てるだけで幸せだから良いの。あの子には絶対届かないから……」
一瞬悲しそうな顔をしてすぐに笑顔になった。
僕の後ろから、ものすごい速さで足音が近づいてくる。その足音の主は僕の名前を連呼しながらこっちに向かってきている。
「ゆう、ゆう、ゆう、ゆうー!」
「い、伊波さんどうしたんですか…?」
「さっきの可愛かったからもう一回お願い。ね?一回だけお願い!」
「どこから走って来たんですか、盗み聞きは止めてください」
「そこ、イチャイチャしない!」
今日は藍原先生が出張でいないので、なぜか代わりに佐藤先生が僕たちのクラスに来ています。
先生、B組はどうしたんですか……
「藍原先生が困っていたからな、B組は放っておいて来た。あっちは副担任の山之口先生に頼んできたから、心配しなくていいぞ」
佐藤先生、藍原先生のためなら自分のクラスを放っておくんですか……先生も変な人が多いのかな。
「って先生、来るの早くないですか。ホームルームまでまだまだ時間ありますけど」
「この際だから、C組の生徒たちとも話しておきたいとおもってな。ほら、私の教科体育だから、無駄話できないだろ」
「佐藤先生の名前って何ですか?」
伊波さんが割り込んできた。どうやら伊波さんは、佐藤先生もあだ名で呼ぼうとしているらしい。
「陽菜だ」
「ひな……ですか。可愛い名前ですね。んー、ひなちゃん先生って呼んでいいですか?」
「別にいいぞ。好きなように呼んでくれ」
「じゃあ、ひなちゃん先生、姫っち先生のことが好きなんですか?もしかして、さっき注意したのって私たちに嫉妬したからとかですか?」
伊波さんがいきなりものすごい質問をした。一瞬時間が止まったような気がした。
佐藤先生は、何かを考えているような顔をしている。何か気になることでもあったのだろうか。
「……あぁ、好きだぞ。子どもにしか見えないけど、すごい尊敬できる先生なんだ。」
普通はそっちで考えますよね。以前の僕だったら、そっちの意味で考えてました。
「そういうことじゃなくて、たぶん伊波さんは姫乃先生に恋愛感情を持ってるか、って聞いてるんだと思います」
今まで黙っていた六原さんがキラキラした目で話に入ってきた。伊波さんと六原さんに挟まれて佐藤先生、かわいそうに……もう逃げられませんよ。
「教師が教師に恋愛感情を持つのは、良くないだろ、同性だし……だから、私は藍原先生の近くにいれるだけで幸せなんだ。変なことして藍原先生に嫌われたくないし……」
「佐藤先生は、藍原先生のことが好きなんですね」
「い、いや、好きってわけじゃ……ただ、一緒にいるだけで幸せっていうか……」
この学園、女子校だからこういうのが多いのかな、先生も全員女性だし出会いがないからなのか、もともとそんな人が多いのか……性別って何だろう……
「さっきの注意は嫉妬とかじゃ別にないぞ。……ただなんか羨ましい先生、なぁと思ってな」
それは嫉妬だと思います。話を聞いていたクラス全員がそう思った。
「先生、ホームルームが始まる時間です。六原さんたちも先生いじるのやめて、席についてください」
他の人に比べると普通な朝野さん、学級委員として頑張ってます。
「じゃ、ホームルームを始める。みんなも知ってると思うが、今日は藍原先生は出張でいない。何かあったら私のところに来るように。以上だ」
佐藤先生がニコニコしながら教室から出ていった。1時限目は数学、今日は藍原先生がいないので自習です。
「ゆうー、暇だし話ししようぜ」
「自習ですよ、ちゃんと勉強してください。テスト近いんですよ」
再来週はテストがある。教科は国語、数学、英語の3教科だ。
「ちょっとくらいいいじゃん。ゆう、愛してるぜ!」
「ちょっ、雑談感覚で告白しないでくださいよ。六原さんが聞いてたらどうするん……」
ふと、後ろを見るとニヤニヤしている六原さんがこっちを見ていた。面倒なことになりそうな気がする。
「ろ、六原さん、何か用ですか……」
「相模さん、伊波さん、もっとイチャイチャしてもいいんだよ。そのままキスとかしちゃおうか」
「いや、しませんから。伊波さん、顔を近づけないでください。恥ずかしいです……」
今気づいたがこのクラス誰も自習してない。それぞれ、近くの人たちと話している。普段は真面目な朝野さんも近くの中村さんたちと話している。早乙女さんは席が遠いので話に入っていない。どことなくイライラしているように見える。
結局誰も自習することなく、数学の時間が終わってしまった。
次の授業は世界史です。
「みなさん初めまして。このクラスで世界史を教える、飯川です。気軽に飯川先生って呼んでくださいね」
世界史担当の飯川先生は20代前半くらいの若い先生。髪をポニーテールにしている。綺麗っていうより可愛い先生。ただ……
「飯川先生、服、前後逆です」
「え!本当に?あれーおかしいなー、ちゃんと着た気がしたんだけど。ちょっと待っててね、直してくるから」
そう言って飯川先生は教室から出ていこうとしたが、教室のドアのレールでつまずいてこけてしまった。
「いてて……あ、大丈夫ですから心配しないでくださいね」
飯川先生ってドジなのかな…
授業が終わり、飯川先生は教室から出ていった。今度はこけなかった。
「飯川先生って誰のことが好きなんだろう」
「六原さん、さすがにもう百合はないと思いますよ。飯川先生はたぶん普通の先生です」
「そうかなー。じゃあ、相模さんも百合の世界に少し近づいたんだし……相模さんも伊波さんと百合百合してよー」
「いやです。何がじゃあなんですか……」
残念ながら僕は男の子なので百合にはなりません。
それから、英語、日本史などなど……いろいろな授業があり、放課後になった。今日はそのまま寮に帰ります。
「ゆう、寮に帰って遊ぼうぜ」
「わかりました。六原さんは、付いてこないでくださいね」
「そんなに言わなくてもわかってるって」
六原さんは、僕と伊波さんが一緒にいるときはなぜかカメラを持って必ず近くにいます。六原さんがいつも持っているカメラにはハードなものからソフトなものまでたくさんの百合写真があるらしいとクラスで噂になってます。
「いやー今日の授業も疲れたー!ゆう!あーそーぼーぜー」
「いいですけど、課題終わらせてから遊びましょうね。明日出さないといけないんですから」
伊波さんは高速で課題を終わらせた。最近知ったが、伊波さんは結構頭が良いらしい。
「よし、終わった。遊ぼう!」
「なにして遊ぶんですか?」
「ツイスターゲーム」
「却下です」
「なら…ポッキーゲーm」
「却下です」
「じゃあ、着替えるの面倒だし制服のままゲーセン行こう。新しいゲームが入ったらしいからさ」
学園の近くにある、ゲームセンターに着いた。学園のすぐ近くだからか学園の生徒が多い。
「じゃあ、遊んでくるからゆうも適当に遊んできて。すぐ戻ってくるから」
「それなら僕、来なくてよかったんじゃ……」
結局、伊波さんは1人で格闘ゲームの島に行ってしまった。僕はなにをしようかなー。
「君、俺たちと遊ばないかい?」
1時間くらいクレーンゲームをしていると男子高校生3人組に絡まれてしまいました。
「友達を待ってるので……」
「いーじゃん、ほら、俺たちといる方がきっと楽しいよ。なんならその友達も入れてもいいけど。とにかく俺たちと遊ぼうぜ」
「やめてください……離してください……」
高校生の1人に腕を掴まれたままで逃げることができない。誰か助けて……
突然辺りが光り、気がついたら誰かに引っ張られて走っていた。助けてくれた人は……
小型の懐中電灯を持った伊波さんだった。
「……伊波さん、なんで懐中電灯……」
「いいから、走って!」
「おい!待て!」
高校生の1人が自分が飲んでいたジュースの空き缶を伊波さんに向かって投げた。
その空き缶は伊波さんの脚にクリーンヒットして、伊波さんがちょっとふらついた。
しばらく走り、寮に戻ってきた。僕と伊波さんは息を整えている。
「伊波さん、対戦してる途中だったんじゃ……」
「ゆうが困ってるのが見えたから助けたの。ゆうは可愛いんだからさ、ああいうのには気を付けないとダメだよ。ほら、立てる?」
伊波さんは座り込んでいる僕に手を伸ばした。その手には傷と血が……
「伊波さん!手、怪我してるじゃないですか。保健室に行きましょう。今ならまだ保険医さん残ってますし」
「大丈夫、大丈夫。血は出てるけど痛くはないからさ……イタッ」
伊波さんが突然しゃがみこんで足首を押さえている。
「もしかして足首くじいたんですか?なおさら保健室に行かないとダメですよ」
伊波さんは、何か良いことを思い付いた。って顔をした。伊波さんがあの顔のときは嫌な予感しかしません。
「ゆう、おんぶして。足首くじいたからうまく歩けなーい。保健室まで行けなーい」
「さっきまで歩き回っていたのはなんだったんですか……まぁ、いいですけど今回だけですよ。これ以降は絶対にしませんからね」
お願いしまーす、と言いながら伊波さんが僕の背中に乗ってきた。ものすごく体を密着させてくる。
「い、伊波さん……体、密着させすぎです。もうちょっと離れてください」
「やだ!せっかくゆうに思う存分くっつけるチャンスなんだから、楽しみたいもん」
子どもみたいな言い方で返してきた伊波さん。耳のすぐそばで伊波さんの声がする。
小さいけれど、確かにある2つの膨らみが背中に当たっていて、伊波さんも女の子なんだなーって思う。早く降ろさないと伊波さんの顔をまともに見れなくなるかもしれないよ……
保健室に着き、怪我の手当てや足首の手当てをして、寮に戻った。伊波さんは、本当に足首をくじいたのかな?って思うくらい普通に寮まで歩けていた。
「で、ゆうは怪我ないの?」
「ありませんけど……」
「ならよかった…ゆうが怪我してたら、あいつらどう落とし前つけさせてやろうかとか考えてたよ。いやー、ホントに怪我なくてよかったー!」
なんか物騒な言葉が聞こえたような気がするけど、伊波さんは僕のことを本気で心配してくれたらしい。
「伊波さん、僕を守ってくれてありがとうございます。お礼しないといけませんよね。何がいいですか?なんでもしますよ」
「今、何でもするって言った?言ったよね?」
「できる範囲でですけど……」
「………じゃあ、これから私のことを『かな』って呼んで。難しいなら『かなっち』とかでもいいけど……あと、敬語もダメね」
ゆうはしばらく口パクで『かな』と練習していたが、女の子を呼び捨てするのはは恥ずかしくなり顔を赤らめている。
「……か、かなさん……こ、これからもよろしく……です……」
恥ずかしくなって思わず顔を隠してしまった。顔が赤くなっているが自分でもわかる。
「かなさんかー……ちょっとまだ距離がある気がするけど……まぁ、可愛いから許す。ちょっとずつ呼び捨てに近づけていこうか。これからもよろしくね、ゆう」
ゆうとかながゲームセンターに行っていた頃、別の寮のある部屋ではあの2人がイチャイチャ?していた。
「佳那子さん、どうして今日は私と目を合わせてくださらなかったのですか?あんなにも私が佳那子さんのことを見ていたのに、佳那子さんはずっと伊波さんたちの方を見ているなんて…
あなたは私のことだけを見ていれば良いのですよ」
「……うん、わかったよ優子ちゃん。あなたには私が必要なんだよね。ずっと優子ちゃんの近くにいるよ」
少し困ったような笑顔をして、佳那子は優子に近づいていった。
「そうですわ、佳那子さんにプレゼントがあるんでしたの。ほら、これです。これからはこれを着けて生活してくださいね」
そう言って優子が鞄から取り出したのは、犬用の赤色の首輪だった。
「え?これからこれ着けるの?首に?なんで?」
?マークが3つも飛び出してしまうほど首輪の衝撃は大きかった。
「あなたが私のものだということを他の人にもわかってもらわないと、伊波さんみたいな方に狙われるかもしれませんし。佳那子さんはこういうのがお好きなんでしょ?」
「ひ、否定はあんまりできないかな……でもさすがに人前で首輪は……犬用のは首がかぶれるらしいし……」
「首輪?あぁ、間違えましたわ、これは別の時に使うものですの。本当はこっち、ブレスレットですわ」
「……あぁ、ありがとう優子ちゃん、嬉しいよ」
思わぬところで爆弾発言をしてしまったからか、声が震えてうまく出ない。
「それよりも、先ほど首輪を着けるのがお好きだと言ってましたけれど、佳那子さんは私に首輪を着けてほしいのですか?それならば私も喜んで協力いたしますわ」
「今は遠慮しておきます……」
「そうですか。次はそういうお店で買ってきますわね」
優子は首輪を鞄にしまいながら佳那子を見る。
「そういえば今日、数学の時間に佳那子さんずいぶんと楽しそうでしたよね。私抜きで。これはお仕置きが必要ですわね……」
優子は手慣れたようすでするすると佳那子を縄で縛り、指を佳那子の体の上で滑らせている。
「やめてっ!優子ちゃん、くすぐったいよ……ひゃあ!」
変な声が出てしまった。だが、優子はすぐにやめる気は無いらしい。
結局10分ほど続き、優子が飽きたところで今日のお仕置きは幕を閉じた。
「これに懲りたら二度と仲間はずれには……いえ、他の人と話すのはやめてください。私以外の人とまた話すことがあったら、これどころじゃすみませんわ」
「……うん、わかったから……」
これが優子と佳那子の日常である。
2人の寮の部屋には、日に日に変なものがたまっていくのであるが何に使うかは早乙女優子しか知らない……
「優子ちゃんどうしてあんな風になっちゃったんだろう……昔は普通の子だったのに……」
同じとき、同じ寮の別の部屋では朝野と六原が六原の部屋で読書をしていた。
「朝野さんなに読んでるの?」
「新しい官能小説。六原さんこそ、なに読んでるの?」
「最新号の百合の雑誌。朝野さんも読んでみる?」
「うん、読む。六原さんもこれ読む?」
「読みたい。私たち毎日こんなことしてるね。ねぇ、小学校行かない?」
「なんで!?」
唐突に出てきた小学校という単語に朝野は驚いてしまった。六原の目から本当に行きたいということが気持ちが伝わってくる。
「なら、1人で行ってきて。誘拐してきたらダメだよ。わかってる?」
「わかってるよ、同じ部屋の朝野さんのこと心配させたくないから。でも写真はいいよね?」
朝野はため息をつきながら一言。
「いいけど、捕まらないでね」
「いや、盗撮はしないからね。ちゃんとJSに許可とってから撮るよ」
そう言うと、立ち上がり、手に持っていた小説を机に置き、寮から出ていった。
「六原さんが小学校に行くのは入学してから何回目だろう……本当に捕まらないといいけど……あと、今日は女子小学生限定なんだ……」
朝野は、再び官能小説を読み始めた。
「はぁ、もっと、刺激が欲しいなぁー……」




