13 寮での3人のあれこれ
「お邪魔しまーす。ゆう居る?寮に帰ってていいってメールしたから居るよね?」
「あの、まだ心の準備が出来てないんですけど!」
寮の部屋のドアを開け、千夏は嫌がる伊波を引っ張ってゆうと伊波の部屋に入って来た。部屋の中は電気がついていなくて暗く、何の音もしていなかった。耳を澄ましてみると、誰かの泣き声が聞こえた。2人は家の中を歩き回り、音の出所を探した。
「ここにも居ない……うーん、寝室かな?お姉さん、ついてきてください。」と、伊波は呟きながら寝室のドアを開けた、すると丸まったゆうがベッドに寝転がって泣いていた。
「ゆう、どうして泣いてるの?もしかしてずっと泣いてたの?」
2人はベッドに近づいていった。
「……お姉ちゃん。僕が女の子だったら良かったのに……どうして僕は男の子なんだろう」
「えーっと……ゆう、いきなり何の話をしてるのかな」
千夏と伊波は困惑した顔でゆうを見つめている。
ゆうは起き上がってベッドの上に座って、赤く腫らした目で千夏と伊波を見てゆっくりと口を開いた。
「かなさんのことこんなにも好きなのに、ここは女子校だし、かなさんは男嫌いだし、だから僕が女の子だったら良かったのにって思って。そうしたらずっと幸せだったのに」
「……ゆうって私のこと好きなの?知らなかった」
うんとうなづくゆう。もじもじしながらゆうは伊波への想いを口にした。
「お姉ちゃんの下着姿見たり、一緒に寝たり、手を繋いだりしてもこんなに胸が苦しくなったことは無かったのに。かなさんと初めて会ったときよく分からないけど胸が苦しくなって、一緒の部屋って知ったときはすごく嬉しくて。一目惚れだったんだと思います……」
ニコッと笑って、ゆうは言葉を続けた。
「でも、かなさんと一緒の部屋に住んで、買い物行ったり、ゲームセンターに遊びに行ったりして、かなさんの事をもっと好きになって……かなさんが男嫌いって知って苦しくなって……」
徐々にゆうの顔が暗くなっていった。
「……ずるいよ」
伊波の言葉がゆうの言葉を遮った。少しずつゆうから離れていき。しばらくの静寂の後、伊波が口を開いた。
「そんなこと言うのはずるいよ……ゆうが男って知ってから体の震えが止まらなかったんだよ。男と同じ部屋で寝てたり、男に裸見られてたり、男に触れられてたりどれだけ怖いのかゆうにはわからないよね。ゆうと別の部屋にしてもらおうってお姉さんに会うまで思ってたんだよ。……でも、そんなこと言われたら騙してたの許すしかなくなるじゃん。ゆうが男って所以外ゆうの全部が好きなんだから……本当にゆうはずるいよ」
伊波の言葉はそこで止まった。もう目に迷いは無い。
「かなちゃん、どうするか完全に決めたんだね」
千夏が伊波の頭を優しくぽんぽんとしながら伊波に話しかけた。しばらくして伊波はゆっくりと首を縦に振った。
「ゆう、私が男に慣れる為に私と付き合ってください。期限は私が男に触れられても大丈夫になるまで」
伊波はニコッと笑った。
その言葉を聞いた瞬間、ゆうの顔に笑顔が戻って来た。ゆうはベッドから降り伊波の前に立った。
「はい!これからもよろしくお願いします」と、ゆうは満開の笑顔で伊波の告白に答えた。
「ということでゆう、とりあえずあたしのことはかなって呼ぶように、敬語もなしね。ほら、もう泣かないで。今までよりも距離を近づけて、早くゆう(男)に慣れちまおう作戦。スタート!」
「す、スタート!」
ゆうは気付かなかった。ニッコリ笑顔になる前、一瞬、悲しそうな辛そうな顔を伊波がしていたことに……
落ち着いたゆうと伊波はそれぞれのベッドに腰掛け、話を始めた。千夏はゆうの隣にニコニコ顔で座っている。
「かな!」
「なーに、ゆう」
「大好き!」
「私もだよ!」
男って所以外……と伊波は付け加える。
ねえと千夏が2人の会話に口を挟んだ。
「お2人とも盛り上がってるところ悪いんだけどさ。もう夜だし、早く寝ない?お姉ちゃんもう眠たいんだよ。あ、でもその前にお風呂入らないといけないか」
その場で服のボタンを1つずつ開け、脱ぎ始めた千夏。ゆうはちょっと、お姉ちゃん!と叫び、伊波はゆうの目を塞ごうとしては躊躇し、塞ごうとしては躊躇してを繰り返していた。
「はいはい、ちゃんと脱衣所で脱いでお風呂入ってくるから、2人は好きなだけイチャイチャし続けてて良いよ」
「「しないよ!!」」
2人の息がぴったりと合った。思わず2人は顔を見合わせて笑った。
それからしばらくして千夏が帰ってきた。
「ただいまー。あれ?2人ともなんで見つめ合ってニヤけてるの?」
千夏がお風呂に入っている間、2人はずっと無言で見つめ合っていた。二人は千夏の帰還に気づいた。じゃあ次は私がお風呂入るー、と言って伊波は部屋から出て行ってしまった。
「ねえ、お姉ちゃん、本当に僕が男の子じゃなかったら良かったのにって思うんだけど。そうしたら、普通にかなと恋人同士になれたのにな」
「それなら、タイでも行く?……いや、冗談だよ!ゆう、本気にしないで!」
などと謎の会話をしているうちに伊波がお風呂から出てきた。
「かな、次、僕がお風呂入って良いかな?」
「別に良いけど」
「じゃあいってきます」と言いながら、ゆうはお風呂に歩いて行った。
しばらくしてゆうが帰ってきた。
「ゆうって男なのに髪きれいだなー、男なのに。羨ましいなー。触るのはまだちょっと遠慮したいけど」
「ゆうがちっちゃい頃から私がちゃんとお手入れしてあげてたからね」
「お姉ちゃんの髪もきれいだよ。長くて良いなあ」
「ゆうのパジャマ姿良い……写真撮っても良いかな」
「かなちゃんのショートカットも似合ってるよ。可愛い」
伊波はゆうの写真を何枚か撮って、ゆうは千夏の髪を触って、千夏は伊波の髪をわしゃわしゃしている三角関係が完成した。
その後、3人は晩ご飯を食べるために寮の食堂に行った。3人が食堂に着いた時寮生全員が食堂で食べていた。
3人は食べながら話し始めた。
「そういえばお姉ちゃん、今日はどこに泊まるの?近くにホテルとか無いけど」
「姫乃ちゃんにお願いして、ゆう達の部屋に泊まらせてもらうことになりました。だから今日は久しぶりに一緒に寝られるけど、かなちゃん今日はゆうと同じベッドで寝る?2つしかベッド無いし」
「今は絶対に嫌です。そういうのは私の男嫌いが治ってからにします」
「じゃあ、私がゆうと一緒に寝ーる♪あ、このとんかつ美味しい」
3人が話していると寮の食堂のおばちゃんがゆっくりと近づいてきた。
「もしかして、あんたがゆうちゃんのお姉さんの千夏ちゃんかい?藍原先生が電話で言ってた。」
「はいそうです。ゆうがお世話になってます。今日と明日はお世話になります」
「そんなにかしこまらなくても良いんだよ。この寮の皆は私の子供だと思ってるからね。ゆうちゃんも良いお姉さんをもてて幸せだね」
ゆうは、ふへへと笑って照れている。
「はい、幸せです」
「それは良かった。それはそうと、かなちゃんどうしたんだい?今日はやけに大人しいじゃないか。いつもなら食事中でもゆうちゃんに抱きついたりするのに」
「それは……まあ、ほらいろいろあって……ね、お姉さん!」
焦っている伊波に対して千夏は冷静に答えた。
「今日は私がいるから照れてるのかもしれないですね。しばらくしたら元に戻りますよきっと」
「それもそうね。あぁ!ごめんなさい、ちょっと話しすぎちゃったみたいね。ゆっくり食べてて良いからね」
そんな言葉を残して、おばちゃんは厨房に帰っていった。
周りを見てみると、ほとんどの人が部屋に戻ってしまっていて食堂に居るのは僅かである。
「「ごちそうさまでした」」
ゆうと千夏がほとんど同時に言った。
「かな、どうしたの?まだ結構残ってるけど」
「なんか食欲がなくて……ゆう、食べてくれる?お願い」
はい、と伊波が食べかけのとんかつが載った皿と箸をゆうに渡した。
伊波のお願いを断り切れないゆうは受け取ってしまった。
「僕が食べてもいいの?かなの箸使って」
「ゆうのもお姉さんのも食堂のおばちゃんに渡したでしょ。箸が無いと食べられないし、ゆうなら使われてもまだギリギリ我慢できるし。だから良いよ」
それなら……と、ゆうはとんかつを食べようとする。すると伊波はニヤリとして一言言った。
「間接キスだな」
途端にゆうの顔が赤くなって、口に運んでいた箸が止まった。
「か、間接キス……かなと……」
「かなちゃんって割とSだね。でも、かなちゃん的には間接キスはセーフなの?」
「ゆうになら多少は慣れてるんで、間接キス位なら大丈夫です。我慢できます。ほーら、ゆう、早く食べないとおばちゃんが困っちゃうよ?」
ゆうは意を決して、パクっと食べた。口の中で肉汁が広がる。
「どう?わたしの味は」
その言葉を聞いてゆうは咽せた。
ゆうは伊波をちらっと見た。伊波の顔には貼り付けたような笑顔があった。
「かな、無理してない?なんか辛そうだけど」
「大丈夫、大丈夫、大丈夫だから気にしないで」
分かった……とゆうはとりあえず納得した。
「ゆう、かなちゃん、食べ終わったなら早く部屋に戻ろうよ。お姉ちゃんもう眠たい」
部屋に戻ってきた3人、1時間程とりとめも無い話をして、11時になった。
「ゆうおいでー」
ヘッドにいきなりダイブした千夏がゆうを呼ぶ。
「お姉ちゃん、寝る前に髪まとめないと痛むよ。僕がやってあげるから、ベッドに座って」
ゆうは千夏の髪をトップでゆるくひとまとめにして、シュシュを使って軽くお団子にしてアップにした。
「さすがゆう、手慣れてるね。それじゃあ、かなちゃんお休みなさーい」
千夏はゆうをベッドに引っ張り込んで抱き枕にした。2人で寝ると少し狭く、2人の距離は自然と近くなった。
「お姉ちゃん近いよ……」とゆう。
「ゆう、大好きだよ……」と早くも夢の中の千夏はぽつりと呟いた。もう、ゆうの声は届いていない。
ぎゅっと、千夏はゆうを抱きしめた。ゆうは顔に当たる千夏の吐息のせいで遅くまで眠れなかった。
翌朝、千夏は家に帰り、伊波とゆうは2人だけの秘密を抱えながら楽しい楽しい学園生活を送ったのであった。




