10 伊波さんと男の娘
「ゆう、お姉ちゃんが昔着てた服があるんだけど捨てるのもったいないし、ゆうが着る?サイズは大丈夫だと思うよ。ゆう、細いし」
そう言って千夏が出してきたのは白いワンピース、汚れもなく、新品のように真っ白だった。
「ほらほら、早く着てみてよ。あ、着方がわからないか…じゃあお姉ちゃんが着せてあげるね」
「……お、お姉ちゃん恥ずかしいよ。僕、×の子だよ……なんかスースーするよ……」
「んーそっかぁ……いいと思ったんだけどなぁ」
千夏が次に袋から取り出したのは……
「ねぇ?お姉ちゃん…これ新品じゃない?お姉ちゃんが昔着てた服じゃないよね?だって、お姉ちゃんこういう服は着ないって前に言ってもん」
「ゆう!あのね、お姉ちゃんはね、かわいいゆうを見たいの!だからねゆうのために買ってきたんだ」千夏が焦りながら言った。
千夏がそう言った瞬間、突然、ぎゅーっと千夏に抱きつくゆう。ニコッと笑った。
「そうだったんだ。お姉ちゃん、僕のためにありがとう。お姉ちゃん大好き……ずっと大切にするね」
「わ、私もゆうのこと好きだよ!大好きだよ!」
なお一部改編あり。
「今思うと、これが僕が女装にはまったきっかけか……お姉ちゃんの今の服が着れるくらい背が伸びたから着てみたら、まさかその日に見つかるなんて思ってなかったんだけど……」
千夏の話を聞きながらぶつぶつと呟くゆう。そんなゆうを見て伊波は不思議そうな顔をしている。
「ゆう、何をぶつぶつ言ってるの?」
そう言いながら、伊波はゆうが言っている内容を聞こうとゆうに顔を近づける。
「かなさん!顔近いです。その……離れて欲しいです……」
しょうがないなー、とでも言いたそうな顔で伊波はゆうから顔を離した。と同時に千夏の耳に口を近づけて一言。
「ゆうとお姉さんって昔から仲が良かったんですね。羨ましいなぁ……私もゆうともっと仲良くなりたいな……」
なるほどねと言って、千夏も伊波の耳に顔を近づけて一言。
「ゆうはね、押されると弱いんだよ。だから、どんどん押したらその内折れてくれるよ。きっと」
その話を聞くと伊波の顔がパアッと明るくなり、千夏に丁寧にお辞儀をした。
「貴重な話をありがとうございます。お姉さん」
不思議そうな顔をしながら、2人の話に入れてなかったゆうが口を開く。
「今度は、かなさんの話も聞いてみたいな。ほら、僕ってかなさんのこと全然知らないし。知ったらもっと仲良くなれると思うから」
「そういえば、伊波さんってどうしてこの学校選んだのかな?ここ学費高いでしょ。うちは意外とお金があったからだけど」
千夏がそう言うと、伊波は少し考え込み。しばらくしてから口を開いた。
「実は私、男性恐怖症で……昔色々あって……だから、女子校のここを選んだんです。先生も全員女の人だから。学費はその、色々あったことが関係してて余裕で払うことができてるので……」
「伊波さんは大人の男の人が嫌いってこと?」
「大人だけじゃなくて、男の子も嫌いです……男という性別が嫌いです」
えっ……という言葉がゆうの口から出そうになった。
しかし、ゆうは驚いたような素振りを見せず、じっと何かに耐えていた。その手は震え、顔は今にも泣きそうだった。
それに気づいたのか千夏はゆうの背中に手をやり、ゆうの背中をさすっている。
「ごめん伊波さん、ちょっと急用思い出したからゆうを連れていくね。お代は払っておくから、じゃあまたね」
「あ、白いハンカチが落ちてる。ゆうのかな?ち…な…つ…あぁ、お姉さんのか。早く届けたらゆうのポイント稼げるよね」
伊波は2人が向かった方向に、食べ終わった後急いで走っていった。
伊波が2人の所に向かっていた頃、ゆうと千夏は近くの公園のブランコで話していた。
「落ち着いた?ゆう」
「……かなさんにそんな過去があったなんて。僕、かなさんに今まで隠してたこと全部言って、騙してたこと謝らないと……」
「それが良いかもね……でも、ゆうはそれでいいの?伊波さんに言ったらゆうは全部失うことになるんだよ。もしかしたらもう、この高校に通えないかもしれないんだよ」
千夏は真剣な顔でゆうに話しかける。しかし、ゆうの意思は固まっているようだ。
「ごめんお姉ちゃん。せっかくお姉ちゃんが通えるようにしてくれたのに、台無しにするようなことして」
「なら、お姉ちゃんも一緒に行くよ。私がこの学校選んだし。でも、伊波さんにショックを与えないように、タイミングを見計らって話そう。お姉ちゃんもフォローするから、大丈夫お姉ちゃんに任せ……」
千夏が言い終わらないうちに近くで何かがが動く音がした。
草むらが突然揺れ、中から現れたのは伊波。顔面は蒼白である。
「……ゆ、ゆう……今の話は本当なの?お姉さん……え?冗談ですよね……ゆうが男って。だって、私が通ってるのは女子校で……男なんているわけない。嘘だ……私を騙そうとしている……」
ウソだーーーーー!と叫んでどこかに走り去ってしまった。残されたゆうと千夏は顔を見合わせている。
「どうしてかなさんがここに……ん?何か落ちてる。かなさんが落としたのかな」
ゆうが拾ったのは白色のハンカチ。刺繍がされており、千夏とローマ字ではいっている。
「あ、私のだ。伊波さんわざわざ持ってきてくれたんだ~。じゃあ、私のせいか」
「お姉ちゃん、どうしよう……かなさんに僕の秘密がばれちゃったよ……一番ばれたらいけない人に」
千夏は少し考えて、ゆうに笑顔を向けた。
「とりあえず私は伊波さん探してくるから。ゆうはここで待ってて」
千夏は伊波が走り去っていった方向に走っていった。




