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 新しい朝が来た。希望の朝だ。まったくうすい望みと書いて希望なんだから、そんなもんに期待すんなってことなんだろうよ。さて起きますか。なんかいい匂いがする。吉野君が先に起きててトーストを焼いてくれていた。カップスープにお湯を注いで、いただきます。ゾンビが来てからいろんな種類の食いもん食ってんなー朝食なんて贅沢、何ヵ月ぶりやら。布団もマットレスつきでフッカフカだったし、こんな贅沢な暮らしに慣れたら、もとの貧乏生活に耐えられなくなりそうだな。ずっとゾンビにいて欲しいかも。

 焼いたトーストってこんなにサクサクしてんだ、と感心しながら朝食を食いつつ、

「さて、今日はどうすっか」

「それなんですけどね」

 吉野君はテーブルの上に双眼鏡と望遠鏡を置いた。

「昨日はこれを取りに行ってたんですよ。むやみに歩き回るよりこれで街の様子を探ってみませんか?」

 思わず拍手。吉野君ナイス。あんた賢い。


 マンションは五階建て、その屋上。フェンスがしっかりついている、自殺志願者には不親切な安全設計。吉野君が双眼鏡で俺、望遠鏡。さてさて、街はどうなってるかな。

 ざっと見たところ、道路にはチラホラとゾンビがうろうろ。逃げようとして上手くいかなかったのか自動車が何台か電柱にぶつかってたり家に突っ込んでたり。住宅街の狭い道路が玉突きした自動車がふさいでる。移動のために車1台拾ってくるつもりが、これじゃあんまり役に立ちそうに無いな。

 火事で焼けた家もあるけど、周りに延焼して大火災ってのは無いみたいだな。死体もちらほらと見える。ゾンビにならずに死んだままなのか、ゾンビになったあと動かなくなるまでタコ殴りにされたかは、判別不能。

「あ、飛行機」

「え、どこどこ?」

 吉野君が指差した方向、かなり遠くに飛行機が飛んでる。

「無事な飛行場があるんですかね」

「飛行機が飛んでるだけじゃわかんねーなー」

 しばらく見てたら、だんだん小さくなって見えなくなった。

「なんか……日本全土がダメになって国外脱出、とかですかね」

「それだと、あの飛行機に乗ってるのは主人公と助けられたヒロインとかになるわけだな」

「今はゲームクリアでスタッフロールが流れてる最中ですか?」

「人気が出たら続編に続くから、あの飛行機の着陸先でもゾンビパニックが起きる」

 二人で顔を見合わせる。

「他になにか見つかりましたか?」

「特にこれ、といったものは無いなー」

 双眼鏡と望遠鏡を交換して、探索続行。うん、望遠鏡は倍率高過ぎて逆に使いづらい。しばらく見てると、学校発見。校庭にゾンビが群れになっている。ゾンビの運動会?吉野君を呼んで二人で見てみる。


「三階に人がいますね。まだゾンビになってないみたいです」

「二階には誰もいないかな、一階はゾンビがうろうろしている。一階と二階の階段を塞いで守ってる、てとこか」

「避難場所としては、学校か公民館かといったとこだから、付近の避難してきた人が集まってんですかね」

「それを追いかけてゾンビも集まってるのかー」

 救助が来るまでゾンビに襲われなきゃいいけど。三階にいる人々を見ると、誰も彼もが疲れている様子。そりゃそうか、あ、ケンカしてるのがいる。

「小山さん、ひとつ聞いていいですか?」

「ん、なに?」

「小学校か中学校か高校か、どれでもいいんですけど学校って非常食、どれぐらい準備してあるものなんですか?」

「…………知らない、気にしたことも無い」

 もう一回顔を見合わせる。

「吉野君、このマンション水道止まってるよね。それってこのマンションだけ?この辺り一帯?」

「…………ぜんぜん分かりません」

「どうしよう?」

「どうしましょう?」


 あの学校の状況見たら、学校内から外に出て水と食料とって戻って来るのは不可能。この辺りの水道が全部止まってたら、水も無い。俺は見たこと無いけど、学校内に避難物資ってあるもんなの?

 だけどここにゾンビに襲われない男が二人います。でもなー、この二人が半端ゾンビなんだよなぁ。どーすっかなぁ。

「吉野君、どーするよ?」

「いやまぁ、見てしまうと助けようかな、とは思いますけどね。僕らが彼らを襲うかもしれないわけなんで、どーしたもんですかねー」

「そこなんだよなぁ、助けるつもりがあっても…………ん?そこのところを確認するには、都合がいいのか?」

「どういうことですか?」

「吉野君、この距離で望遠鏡で見て、彼らに食欲は感じるかい?」

「えっとー、いや、ぜんぜん」

「おれも、今のとこはないなー。と、なると近づいたら喰いたくなるのか?それとも匂いか?なにがトリガーになって視界が赤くなるんだろーなー」

「それを、彼らで試すってことですか?」

「目的はあくまで彼らに水と食料を持っていくこと、そのついでに彼らには今の俺らの状態を確認するリトマス試験紙になってもらうということで」

「さらっと酷いこと考えますね」

「近づいて襲いそうになったら、すぐ引き返そう。で、助けられるものなら助けてやろーかね。俺らがこの先、人間にどのくらい近づいてもいいのかってのも知っておきたいし。この距離で見る分には、むやみやたらに殺して喰いたいとも思わないんだよなぁ」

「そうなんですよねー、うがーってなりませんねこの距離だと。それにあんな人達がいること知っててほっとくのもなんか気分悪いですよねー」

「じゃ、そういうことで準備するか」

「りょーかいです」

 人助けなんて、柄じゃないんだけどなー。他にすることも、思いつかないし。最悪、俺ら二人があの人達にトドメさすことになるかも知れないけど、それはなるべく回避する方向で、いっちょやってみっかー。

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