6
まずは挨拶「こんにちわー」さて反応は?「こ、こ、こんにちわ」どもりながらもフツーに挨拶が返ってきた。とりあえず、ここじゃなんだし取るもの取ってから落ちつけるところで話しをしないかい?と、提案。そうですね、それがいいですね、とあっさり了承。俺のアパートよりも彼のマンションのほうが近いということで、リュックとバッグに飲み物と食い物詰めて、彼のお宅に徒歩で移動。初対面の相手と話しすんのは苦手なんだが、歩きながら情報交換。彼の方から聞いてきたので楽は楽なんだが、
「自分は、吉野 喜一です、あなたのお名前は?」
「俺は、小山 祐輔、敬語じゃなくていいよー。吉野君は学生さん?回りがこんなんなって学生てのも無いだろうけどね、ははは」
「いやぁ、学校行ってれば高校生なんでしょうけどね。中退しちゃってるもので、あはは」
「へえ?真面目そうに見えるけど、なんかヤンチャしちゃったの?」
「まあー、いろいろありまして。小山さんは大学生ですか?あと荷物、重くないですか?」
俺はリュックの他にスポーツバッグを右手と左手にひとつずつ持っている。加えて、バットにバールも持ってるから重そうに見えるんかね。吉野君はデパートの手押しカートに荷物のっけてガラガラ音を立てて歩いている。
「大学生じゃないよー、歳は21だから通ってれば、大学生やね。フリーターで倉庫で荷物運ぶバイトしてたから、このぐらいの重量なら楽勝」
「それで二の腕の筋肉凄いんですねー」
そんな話をしながら、テクテク歩く。しかし、何だろうこの妙な親近感は。初めて顔を見たときにも、ゾンビか生きてる人間かの判別よりも先に、『あ、同族だ』と、感じた。理屈も理由もすっとばしてそう感覚に登ってきたのだから、仕方が無い。よく見れば吉野君の髪の毛も斑の白髪だし、さっきから何体かゾンビとすれ違っているのだが、俺と吉野君に襲ってくるヤツが1体もいない。
ただ、そのへんをいきなり突っ込んで聞くのもどーかなーと考えて、どうでもいい話を続けてる。吉野君もそう考えてんのかね。
「なんかスポーツやってるんですか?バット持ってるから野球やってたんですか?」
「これ、スポーツショップで拾ってきたんだよ。昔は剣道やってたけどねー。球技は全然ダメで、ボールを使った団体競技は大の苦手。ボールを使わない個人競技ならそこそこできるんだけどねー。吉野君はなんかスポーツとかやってんの?」
「いやまー、それが、諸事情で2年ほど引きこもり生活をしてまして、外に出て歩くのも、母以外の人と話すのも随分久しぶりのことなんですよ。運動不足にならないようにルームランナーとか使ってましたけど、スポーツなんて全然やってないですよ」
「インドア派なんだねー、俺も外で体動かすよりは、独りで部屋でマンガ読んだりゲームしたりが好きな方でね。でもゲームもバカにできないよね。今だって、昔のゲームの知識が役に立ってるし。知ってる?『絶対絶命村落』サバイバルゲームなんだけど」
「知ってますよー、あれおもしろかったですよね、しかもかなりリアルだったし。でも続編が何本か出たけど、1作目以外はうんこですよねー」
「最初の出来が良すぎたんじゃないの?」
「それもそうなんですけどね、コンセプト自体が何本も作るのに向いてなかったのに、無理に続けて失敗した感じですよねー」
そんなふうにゲームの話でけっこう盛り上がった。俺が持ってんのは古いハードなんだが、吉野君は古いゲームが好きなのか、お互いに知ってるタイトルがけっこうあった。あと、吉野君はつまらないゲームに対しての批評が辛辣だった。
「あ、着きました。ここですよ」
なかなか立派なマンション。吉野君はいいとこの坊っちゃんかね。四階まで階段で歩いて昇る。エレベーターは壊れてた。
「今は、ここに住んでます」
吉野君はポケットからカギを出して扉を開ける。表札には『高木』あれ?ちょっと吉野君?
「えーとですね。このマンションは親戚の持ち物でこのカギはマスターキーです。そこの親戚の家からもらってきました。隣がもともと住んでたところで」
隣を見れば表札は『吉野』なんでそっちに行かずに隣に?
「自分家には、母が、ゾンビになっているものでして……」
なるほど、納得。では高木さんちにおじゃましまーす。うん、広い。格差社会やね、金持ってるヤツは持ってるんだね。歩きづめで疲れた。リュックからぬるい缶ビールを取り出して開けて飲む。ぬるーいまずーい。
「あの、まだ電気は生きてるんで冷蔵庫で冷やせますよ?冷房入れますね」
「えー?先に言ってよー。うぉ、冷房涼しー!」
「昨日作ったシチューでよければ食べます?今からあっためるので」
ここは天国か?
「水道は止まってるのでお風呂は無理だけど、湯船に水は貯めてあるので行水くらいはできますよ」
ハイもう一回、ここは天国か?サバイバル楽勝、ゾンビ来る前よりアメニティが揃ったリッチな暮らしができそうじゃねーか。
「吉野君、料理できるんだ。俺も簡単な自炊ならできるけどね、料理は下手くそでねー」
キッチンに缶ビールとカップ日本酒を持っていく、吉野君は、たいしたことないですよ、と言いながらシチューをお玉でかき混ぜていた。うん、いい匂いだ。
「冷蔵庫借りるよー」
「どうぞー」
やっぱビールは冷えてた方がいい。日本酒もキンキンに冷して飲むか。冷蔵庫を開けると、見慣れない肉の塊が入ってた。冷蔵庫に入れるにはちと大きくないか?丸くて太い。透明なビニールの袋に入っているが、やたらと血が入っている。精肉加工に詳しく無いが、ちゃんと血抜きして無いんじゃないかこの肉。よく見てみれば、小さな指が、五本。
そこまで認識した瞬間、視界が赤く染まる。胸の奥から訳のわからん衝動が込み上げる。
「があっ!」
首を振って視界を冷蔵庫の中の肉から剥がす。両手で冷蔵庫の扉を叩きつけるように閉める。
はー、はー、はー、はー、
あーびっくりした。肉は肉でも、人の腕の肉だったんだな。しかし、人間の体のパーツってそこだけバラして置かれていると、普段は1体整形したものしか見慣れてないから、それがなんなのかって頭が認識して理解するまでけっこう時間がかかるもんなんだな。指と手のひらが小さかったから、小さい子どもの右手、指から肘ってところか。呼吸が落ち着いたところで顔を上げる。俺の様子を見てた吉野君と目が合ったので、思わず立ち上がり詰め寄る。
「おい、吉野君よ」
「ちょ、小山さん恐いです」
「冷蔵庫のお肉は?」
「……この部屋に住んでた、高木さんのお嬢さんです」
「シチューのお肉は?」
「……高木さんのお嬢さんの太ももです」
吉野君を睨み付ける、
「あれ、小山さんて『同族』ですよね?」
それを聞いて、一瞬冷静さが戻る。まてまて、俺はなにに怒ってる?なんで頭に来てる?吉野君に左手を開いて向けて、ちょっと待ってのサイン。右手を自分の額を掴むようにあてて天井を見上げて考える。冷蔵庫のお肉を見たとき視界が赤色セロファンを通したようになって、胸から意味不明な衝動が沸き上がって……もしかして、あれって食欲?とりあえず、ぬるい缶ビールを一本一気に飲み干す。うん、ぬるいまずーい、落ち着いた。
「あー、凄んで悪かった。ちとびっくりしちまってな、でも、どういうことか話してくれねぇかな」
「それはいいですけど、シチューはどうします?」
高木さんちのお嬢さんの太ももを煮込んだデミグラスソースシチューですか、
「いらない」
でも腹は減ってんだよなー、スポーツバッグの中身をがさごそ
「カップ麺にするから、お湯沸かしてくんね?」
「あ、ハイ」
吉野君はケトルにペットボトルのミネラルウォーターを注いだ。