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とりあえずは、デパートだな。いつまでも腹出しセクシーなビリビリTシャツってのも嫌だし。7月で外は暑いくらいだから防寒具は要らないが、替えの服とかは欲しい。カーゴパンツも靴も靴下も返り血で汚れちまってんだよ。今のところ生きている人間には会っていない。デパートに俺みたく火事場ドロしようって生きてるヤツがいなければ、欲しいモン取り放題か?うひょー楽しみー。金を払わずに好きなものが手に入るってのは、いいもんだな。
デパートに向かってテクテク歩く。人がいなくて走ってる自動車がいないだけで、街ってこんなに静かになるもんなのかね。いかに人間が騒々しい、やかましい生き物か、居なくなるとよく分かるな。この世界で音を出す生き物が自分独りしか居ないようで、そんな状況がなんだか楽しくて、つい歌い出してしまう。下手くそだけどかまわねー。ゾンビ以外に聞いてるヤツもいないし。
♪ぶれーいでーっど、げっすまいもめんとりぃぶれーいでーっど、ぞんびおびおでぃなり、えんぷてぃ…とか歌いながら歩いてたらゾンビが出てきた。呼んでねぇよ。さて、やるかとバット&バールの二刀流で構えてみるが……ゾンビに無視された。あれー?
デパートは駅に近いとこにあり、倉庫のあるところから見れば住宅街。近づくほどにゾンビもちらほらと増えてきた。だけど、俺に襲ってくるのは1体もいない。完全に無視されてるのでも無い。ゾンビも俺を見るのだが、しばらく目を合わせていると興味を失ったのか、ソッポを向いてうぁーとか言いながらフラフラと歩き去ってしまう。
思い返せば、映画のゾンビって生きている人間、または死にたての人間はもりもり喰うのに、ゾンビ同士共食いしないのはなんでだろうと疑問には感じてた。今、目の前にいるゾンビも共食いはしていない。ゾンビから見た人間とゾンビの区別、線引きってのはなんじゃろな?で、そのゾンビに襲われない俺は、ゾンビになってしまったんかねー。
右手の指で左手首をおさえる。とっくとっくとっく。うん、脈はある。右手で鼻を摘まんで口を閉じる。
…………………………………………苦しい。
「ぶはあっ!はぁっはぁっ、すうーーはぁーー」
息を止めて苦しいのだから、呼吸もしている。死んではいない。だけどゾンビには襲われない。どういうこと?
考えてもわからんことは後回し。日が落ちて暗くなる前に必要なものを揃えるべくデパートに到着。ここにもゾンビがいる。つまり人はいないってことかな。リュックに服、見てる人間はいないからこの場でシャツとパンツも着替えちまう。ウェットティッシュで顔と上半身を拭ってスッキリ。棚が倒れてたり、電灯がついてなくて薄暗い。まぁ奥様、このお店ディスプレイもお掃除もできていませんわよ、でも奥様、このお店全商品お値段100%引きですわよおほほ。
軍手にタオルと必要そうなものホイホイと、あとは水と食料品か。地下食料品売場に懐中電灯持ってGO。
地下には、なぜかゾンビが多かった。デパートの回りよりも少し多い程度だが。理由は不明。ゾンビが俺を無視するので、俺もゾンビを無視してお買い物続行……ん?歌が聞こえる?
♪おんざしるばすくりーん、おんざしるばすくりーん、わーおぅ
歌声の聞こえる方に行ってみる。ゾンビが歌ってるのは聞いたことが無いので、これは生き残りがいたか?しかし、これだけゾンビがいる中で歌ってる?棚の向こう側を見ると、男が一人いた。右手に青じそドレッシング、左手にイタリアンドレッシングを持って、歌いながらどっちにしようか迷っているようだ。
♪みりおんだらでぃるあいわなふぃちゃー
男は、迷うのを止めて両方カゴに入れやがった。回りにゾンビがフラフラしてんのに余裕だなー。男は俺に気づいたようだ。
「え?」
と一言、口から漏れて固まってしまった。かなり驚いてるみたい。お互いにそのまま視線を交わす。
俺以外に無事な人間、はっけーん。