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 マンションを出て、デパートに向かう。あの女が復活するかどうか観察してもいいが、いつ起き上がるか解らないものを待ってはいられない。あのまま、死んだままかも知れんし。金属バットを回収して、バールは吉野君に。ゾンビに襲われることは無くても、さっきみたいに急にバトルになることを考えておかないと。

「バールってけっこう重たいんですね」

「その分、威力はあるよー。頑張れば自販機も開けられる」

 自動車も見つかった。灰色のワゴン車。カギあり、ガソリン充分、エンジンオッケー。持ち主は吉野君の親戚、マンションのオーナー。勝手にガレージからもらっていきます。俺運転席、吉野君助手席で出発。無免許だけどトラックは運転したことあるから、公道じゃなければ無免許でも問題無いから慣れたもの、今は警察もいなくて取り締まりもやってない。車線も無視して道の真ん中を走る。他に走ってるクルマも無いし。

 デパートに到着したら、吉野君と二人でカートでワゴンに物資を運ぶ。水とお茶のペットボトルを箱買い、バックヤードからどんどん運ぶ。今日も無料セール中。生肉生野菜卵牛乳はヤバそうなので、やはり缶詰め、パン、カップ麺、お菓子。お湯が要るならカセットコンロか?他に必要そうなもの、ウェットティッシュ、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ついでに消臭スプレー。カートでカラカラ音を立てながら運搬してると興味を持ったゾンビが顔を出してくる。はい、ジャマジャマ、相手してる暇は無いの。迷子になったんなら、店員に言って呼び出しのアナウンスしてもらって。ドラッグストアで栄養補助食品、栄養ドリンク。ありゃ、もうワゴンいっぱいに。

「こんなもんかね」

「ちょっと休憩しませんか?」

「ついでに、メシにしよう、腹へった」


 従業員の休憩室で缶詰めとパンとペットボトルの飲み物で、遅めの昼食。プラスチックのカップにお茶を注いで、吉野君と乾杯。

「おつかれー」

「おつかれさまでーす、まだ終わってないんですけども」

 パンはよく見てカビがはえて無いのを確認して、桃の缶詰めと一緒に食べてみる。なかなかいける。吉野君はシーチキンをパンに乗せてマヨネーズかけてる。

「さて、集めた物資を学校に届けて終わりかな」

「それなんですけどね。届けたあとは、どうします?」

「渡すもの渡したら、さっさとおさらばしようか。あそこに長居はしたくない」

 なにせあそこには俺が襲ってしまいそうな女の子が一人いる。

「吉野君はあの学校の中には、うがーとなる人はいないんだろ?だったらあの人達と合流して救助を待つか?俺は別行動で」

「でも、前に小山さんが言ってた『ゆっくりとゾンビ化してる』という場合は、自分もいつ他のゾンビみたいになるかわかんないですよねー。今、ワゴンに積んだ分を持っていったら、次は救助が来てないか探して来るとか言って、また外に出ましょうか」

 吉野君がシーチキンサンドを作って渡してくれた。ありがとー。

「それに自分と同じ状態の人って、今のところ小山さんだけですから、しばらくは一緒に行動しましょうよ」

「ん、解った。それに俺ら、自衛隊とか救助に来たとこで、そのままついていくのもどうかと思うし」

 いつ完全ゾンビになって誰に襲いかかるかわからんとなるとなー。

「それ以前に、自衛隊もレスキューも、影も形も無いのな」

「この街、見棄てられましたかね」


 飯も食ってエネルギー充填、ワゴンを運転して再び学校へと。あまりスピードは出さずに道の状態見ながら進む。こっちは避けようとしてんのにゾンビの方からぶつかってきたりするので、イラッとする。置き捨てられたクルマで道がふさがってたら、バックして他の道に、スムーズには行かない。


 そんな進みかたでノロノロ移動中、左側上方から、カン、カン、カン、と音がする。ワゴンを止めて窓から顔出して見てみると、マンション三階ベランダに鍋とお玉を持った男がいる。必死な形相で両手を振っているので、俺も手を振って応える。

「いましたね、生き残り」

「とりあえず行ってみっか」

 マンションの下にワゴンを止めて降りる。近くにゾンビが2体いたのですぐさま殴り倒して、動かなくなるまで首と後頭部をボッコボコに殴る。これでよし、と。ベランダから男が、

「助けてくれ…」

 助けていわれてもなー、吉野君と相談タイム

「学校まで連れていきましょうか」

「人数増えたら、あっちが困るんじゃね?」

「でも、他に避難場所わかります?」

 それもそうか、それに騒いでゾンビが寄ってきても面倒。上に向かって、

「何人だ?」

「3人だ、頼む、助けてくれ」

「ゾンビに噛まれた奴はいるか?」

「誰も噛まれてない、助けてくれるのか?」

「避難場所まで連れてく、降りてこい」

「わかった、すぐに行く、置いていかないでくれ」

 後部座席の荷物詰めて、3人乗れるようにしないとな、その前にその3人がゾンビにやられないようにあたりを警戒。うろついてんのはいないかな。

「こういう状況だと、一軒家よりも二階以上の建物に閉じ籠るほうが生き残りやすいみたいですねー」

 確かに、平屋だと守るのは無理だな。建物が頑丈で、出入り口1つだと籠城しやすいかなー。

 マンションの一階からバタバタと足音が聞こえる。さっきのベランダの男に、女、その女に手を引かれて男の子、夫婦とその子供か、3人が近づいて来る。男が、

「ありがとう、よろしく頼む」

 いや、こっちはまだなにもしてないんだが、とりあえず後部座席に、と言う前に、吉野君が男の子の首に噛みついた。

…………あ、しまった。

「きゃああああぁぁぁぁっ!たかし?たかしーーーっ!」

「う、あわあっ、ゾンビっ?」

 しまったー、気づくのが遅れた。吉野君は男の子を押し倒して首のあたりを噛みついている。太い血管が切れたのか血が吹き出す。

「たかしを離せえっ!」

 男がポケットからなにか取り出して振りかぶる、ありゃナイフか、

「くっ、そ!」

 金属バット一閃、吉野君にナイフを降りおろそうとする男の左耳を潰すように男の頭を殴りつける。男は「かっ」という音を口から漏らして地面に倒れる。

「いやあぁああああっ!あなたーーーー!」

 うるせーー、振りかえって今度は奥さんの顔面をフルスイングする。うつ伏せに倒れたところを首を狙って三回バットを叩きつけたら動かなくなった。倒れた男から、うぅ、とうめき声が聞こえてきたので、そっちも頭を集中的に五回殴ったら静かになった。やっちまったなー。吉野君はまだ男の子の首から胸にかけてを、ぐちゃ、もぐもぐ、くちゃ、と食べている。さっきの悲鳴を聞きつけたのか、道の向こうからゾンビがフラフラと近づいてきたので八つ当たり気味にそいつをボコにする。

 やってしまった。生きてる人間、殺してしまった。かと言って子供を目の前で食い殺したヤツとその親御さんが、仲良く避難場所まで行けるハズも無いし。他にどうすればよかったんだろーかね。しかし、俺もゾンビ相手にバット振るのに慣れたせいか、人の形をしたものを殴り殺すのに、なんの躊躇もなかったなー。今も特になんにも感じてはいない。人を二人殺して、罪の意識も罪悪感もない。気づくのが遅れて対応失敗したなー、とか、吉野君がナイフに刺されなくて良かったなー、ぐらいしか、思ってない。ゾンビバトルのやり過ぎか?やってしまったことは、仕方ない。倒れたゾンビを蹴飛ばして動かないことを確認。さて、吉野君とこに戻ろう。


 吉野君は男の子の死体の前で正座してた。足音で気がついたのか、こちらを見上げる。

「あ、の、小山さん、すいません……」

 吉野君が頭を下げる、正気に戻ったみたいだな、こっちも姿勢を正して、吉野君に頭を下げる、

「スイマセンでした」

「……へ?」

「学校では吉野君が気づいて俺を止めてくれたっていうのに、今回、俺が気が付くのが遅れて止められませんでした。ホントごめん」

「…いや、あの……」

「あの家族連れ見て、俺はなんとも無かったし、女の子供もいないからって、気を抜いてた。なんかあったら、無事な方が止めるって約束だったのになー」

「学校のときは、突入前に、お互いがお互いを注意しておこうってしてたんで、気が付いたんですよ。今だったら、自分も油断してましたよ、その後始末を小山さん一人にやらせて、スイマセンでした」

 しばらくは、俺が、自分が、いや俺が、いやいや自分の方こそ、とお互いにペコペコしてたが、これからも仲良くやっていこうと握手して、この話はここまで。ワゴンの中からウエットティッシュを取り出して、吉野君に渡す。顔から胸が血塗れなので。吉野君は、鏡を探して来ます、とマンションの中に。空いてる部屋があったら、鏡と服を借りてくる、と


 吉野君がマンションの中に入ってしばらくしてから、男の子を観察。虚ろな目が空を見上げる。首から胸にかけては、皮膚がめくれ鎖骨と胸の骨が少し見えてる。歯でこれだけ食いちぎれるものなんか。近づいて念のために確認。男の子のズボンを下ろしてパンツを下ろす。うん、ついてる、男の子で間違いない。パンツを戻して、ズボンを戻して、瞼を閉じさせる。

 つまり、吉野君が気をつける対象は、小学校低学年の女の子と男の子、ということかな?

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