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「きゃあーーーーー!」

 いきなり悲鳴が聞こえる。女の声で。声がするほうに走っていくと、女がゾンビに襲われていた。女が1人にゾンビが2体、仰向けに倒れた女の上にゾンビが2体覆い被さっている。まずはゾンビ1体の脇腹を爪先でサッカーボールキックで蹴りはがす。もう1体も同様に。ゾンビが離れるときに、ミチミチッと音がした。女を見ると右足ふくらはぎと、左腕の肉を噛みちぎられて血が出ている。その状態で、いやっ、やめてーと手足をばたつかせている。噛まれてしまったから、もうダメかな?でも俺らみたいになるかもしれんし、持ってるモップをゾンビに投げつけて、倒れてる女の上体を起こして耳元で、

「あばれるな!」

 大きめの声でびっくりさせて、動きが止まったところを肩に担ぐ。そのまま立ち上がりダッシュ。目的地、吉野君ちのマンション。吉野君ついて来てるかな?後ろを振り替えると、吉野君は立ち上がりかけたゾンビの足をモップで引っ掛けて、もう一度転ばしてた。そのまま走って俺に並ぶ。

「助かりそうですか?」

「わからん、先に行ってゾンビのいない部屋を確保して」

「じゃ、4階の高木さんとこで、カギ開けときます!」

 そう言って吉野君は先に行った。人を担いでる分、俺のほうが遅いので。わりと近くまで来てたからマンションに到着、人を担いで4階まで?うわ、しんど。でも後ろからうぁーとか聞こえるから休むわけにもいかん。女は暴れずにおとなしくなってるけど、泣きながら、いや、もういや、とか呟いてる。階段を昇る、えっさ、ほいさ。ゾンビの足が遅いから助かってるけど、まだついてきてる。しつこい。4階に昇って、高木さんとこまで。吉野君が走ってきた。

「小山さん!」

「パス!」

 女を肩から下ろして吉野君に任す、振り向いたらゾンビが階段昇って来てた。その場で膝に手をついて、息を整える。ぜーはー。ふー。OLゾンビが近づいてくる、俺を障害物を避けるように、横を通って女に向かう。やはりこっちは無視か、生きている女が目当てか。おーいこっちを無視すんな、とOLゾンビの前に移動してゾンビの脇の下に両手を差し込む、そのまま高い高ーい、と持ち上げて4階の手すりの下に落とす。2体目のブレザーゾンビも同様に下にポイッと。どこで増えたか3体目がいる。身長が俺と同じくらいあるから180cmくらいで重そうだ。体勢を低くして右肩を相手の腰に当てるようにタックル。そのまま肩の上に乗せて立ち上がる勢いで外にポイッと。これで終わり、と、あれ?引っ張られ、あぶねー!あわてて手すりにしがみついて踏ん張る。

ビリビリビリィッ…………グシャッ

 俺の上半身は手すりを越えて落ちそうになってる、あぶなー、油断したー。吉野君が駆け寄ってきて俺のズボンを引っ張って手すりの内側におりる。

「小山さん、無事ですか?」

 どうも担いだ3体目のゾンビが俺のTシャツの背中を掴んでたらしい。落としたゾンビにTシャツを引っ張られていっしょに落ちそうになったが、シャツが破れて助かった、と。

「あー、シャツ以外は無事、女は?」

 女はぐったりしている。吉野君が上半身持って俺が膝を持って、玄関を通って部屋の中に。


 改めて女の様子をみる。二十代ぐらいで、俺も吉野君も食いたくはならないようだ。寝たまま天井を虚ろな目で見てる。左腕、手首の近くと右足のふくらはぎの肉がえぐれて血が止まらない。小さな声で、痛い、もういや、とか呟いてる。

「どう見ても、ゾンビにかじられてだめっぽいですね」

「でも、俺らみたいになるかもよ?」

 死にかけてる。けど、まだ生きている。むぅ、思いつきだけど試してみるか。

「吉野君、その女の頭側にまわって腕を押さえといて」

 俺はキッチンに行って包丁をとって来る。吉野君は女の頭側に正座して、女をばんざいさせるようにして腕を持っていた。

「何をするんです?」

「説明するには、ちょっと時間が無いかな」

 俺は医者じゃないけれど、この女がもう危ないってのは解る。俺は自分の左腕に包丁をあてて、そのまま引く。痛ててててて。

「なにしてるんです?」

「そのまま、押さえといてー」

 吉野君びっくりしてんな、でも今はこっちが先、ポタポタと落ちる血を女の口に。

「さぁ、飲め」

「小山さん、意味わかんないですよ?」

「助かるかも知れないから、いいから、飲めって」

 女は首を振って嫌がるが、その力も弱い。顎をつかんで口を開けさせて、そこに左腕から落ちる俺の血を落とす。吉野君は体重をかけて、もがく女の腕を抑える。

「あとでちゃんと説明してくださいね!」

 女は少しは俺の血を飲んだみたいだ。だけど、もうもがく力も無いようだった。

「……なんで?こんなこと、なんで?……嫌…もう嫌、怖い………死にたくナイ………」

 なんとなく、吉野君が女の右手を握る。つられたのか、俺は左手を握る。やがて女はビクンビクンと身体を痙攣させて、動かなくなった。握っていた女の手も力を無くしていた。


 女の胸に耳を当てる、心臓止まってます。息をする音も聞こえません。御臨終です。

「小山さん、血を飲ませて、何をするつもりだったんですか?」

「んー、昔に読んだ本の知識なんだが、野生の草食獣が共食いすることがあるって知ってる?」

「エサが無くなって仕方なく、とかですか?」

「いや、群れの中で病気で死んだ仲間を食うときがある。野生の鹿だったかな?病気で死んだ仲間の肉を食うことで、その病気に対する免疫とか抗体を身につけるのだと」

「それが、人間でも、ゾンビにたいして効果があると?」

「それは、解らん。思いつきを試してみただけだし。ただ、もしかしたら俺ら二人はゾンビにたいしてなにか抗体でも持ってるかもなーと。その抗体をゾンビになる前に移せたら、俺らみたくなるかも、と」

「結果は死亡した、と」

「仮定の上の思いつきなんて、上手くいくわけなかったか」

「んーー、小山さん、ゾンビに噛まれたあと、寝て、というか意識を失ってから起きるまで、どれぐらい時間がかかりました?何時間寝てました?」

「え?覚えてない。というか日にちが解らん。まる1日なのか、3日寝てたのか……大体今日って何月何日?」

「自分も聞いておいて、自分がどれだけ寝てたのか解らないことに気がつきました。もしかしたら自分らも、寝てるときは死んでた、もしくは仮死状態だったかもしれません」

「ということは、この女もケガが治って白髪頭になって起きるかもしれん、てこと?」

「それは………わかりません、自分も仮定の上の思いつきを言ってるだけだし、なんせ、確かめようが無い」

 吉野君は女の脈拍をもう一度確認して、

「今は、死んでるみたいですね。ゾンビになるか、自分らみたいに会話できる人食いになるか、死んだままなのか、ぜんぜんわかりませんね」

「いつ起きるかわからんのを待ってても仕方ないか。あーあ、ズボン血だらけ」

 破れたTシャツを脱いで、それで左腕の血を拭う。吉野君も女の血で手と服が赤くなってた。

「また、デパート行って、服を換えましょうか」

「道草になったけど、最初の予定に戻るか………ところで吉野君、これ、どう思う?」

 俺は、血を拭った左腕を吉野君に見せた。けっこう深く、包丁で切った傷は、もうふさがっていた。

「………治るのが、異常に早いですね」

 二人で顔を見合わせる。やっぱり、俺はもう人間じゃないみたいだ。

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