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協力

 

 喧嘩がひと段落つき、俺と三浦は部屋へ戻った。


「何お前、頭から小便出るの?」

 三浦がまだ笑いを含んだ声で尋ねてくる。

「だから言ってるだろ、ここに。」

 俺は頭の上を指さす。

「ここにあるんだよ。」

「ちんこが?」

「そう、ちんこが。」

 

 しばらく話をした結果、三浦にはやはり俺の性器は見えず、先ほど排泄したとき三浦の目に映ったのは尿の軌道だけだったという。


 ようやく真剣になった三浦が言う。


「しかし信じがたい話だな。お前ちょっと服脱げよ。確かめたいことがある。」

「なんでだよ。嫌に決まってんだろ。」

「いいから早く。俺は唯一お前の理解者であり協力者なんだぞ?言うこと聞けよ。」

「いや、なんの協力者だよ。」

「そのお前の頭の上にあるちんこをもとに戻すのに協力してやるって言ってるんだよ。」


 信じてはいけない、三浦は好奇心に突き動かされて何をしでかすかわからない奴だ。


「いいよ、これは俺の問題だから俺一人でなんとかする。」

「助けたいんだよ!お前のこと!」

「三浦……。」


「実際、お前の話聞く限り本当みたいだし、もし自分がそんなことになったらって考えると怖くてたまらない。一生童貞かもしれないし、小便だってもう小便器でできないんだろ?公衆浴場にも行けないし、きっとオナニーだってシュールすぎてイケなくなるんじゃないかとも思う。そんな最低最悪でもう男として生きる価値のなくなっている状況のお前を、親友の俺が放っておけるわけないだろ」


「いや、ちょっと言い過ぎじゃ…。」


「俺は真剣だよ米倉。俺の目を見ろ。これが面白半分で言ってるやつの目かどうか、お前の目で見定めろ。」


 俺はまっすぐに三浦と視線を合わせた。やっぱりちょっと笑ってる。


「米倉!」

「はい」

「いいから脱いで見せてくれ。上だけでもいい。」

「上だけって、お前上半身はなんともねーぞ?まぁそこまで言うならしょうがないけどよ。」


 俺は着ていたTシャツを脱いでみせた。


「なんだよ男のままかよおー。」

「お前は何を期待したんだよ。」

「いや別に。気持ち悪いから早く着てくれ。」


 この年代の男子が考えることはどいつもこいつも同じことだった。


「どうせあれだろ?ちんこがなくなったからって代わりに俺の体が女になっておっぱいあるんじゃないかとか思ったんだろ?本当にお前ってゲスいな」

「うるせぇな。じゃあ下はどうなってんだよ。」

「下も見るか?なんというかあれだぞ?お前トラウマになるぞ?」

「どうせヴァギナがついてるわけでもないんだろ?いいから見せろよ。」


 今更隠したって仕方ないと思い俺はパンツをおろした。


「うおお…まじかよ…本当にねーじゃん。怖いわ。ないけどすげえナチュラルになくなってるな。マネキンみたいだわ、うおおすっげええ、なぁ米倉、これ写真撮っていい?」

「いいわけねえだろ。はいもうおしまい」


 俺はズボンをあげて言った。


「三浦お前このこと絶対誰にも言うなよ」

「言わねーよ。そんなん信じるやついないし、俺が馬鹿にされるわ。てか、お前学校来るの?俺はそのお前の頭の上にあるっていうのが見えないけど、だからって全員が見えないわけじゃないだろ?もし見えるやつがいたら事件だぞ事件。」


 三浦は以外に冷静で的確に問題を指摘する。朝の俺とは大違いだ。


「それなんだけどよ、一人見えるやつがいたんだよ。」

「え?まじ?どういうことだよ」

「いや、今朝母さんに見えてなかったみたいだからもしかしてと思って外にでてみたんだよ。そしたらやっぱり他の人には見えてなくて、コンビニにも行ったけど買い物も普通にできた。」

「お前すげえ行動力だな。無謀を通り越してるぞ。」

「でさ、コンビニ出たら魔女がいたんだよ。」

「魔女?あいつ夜勤じゃなかった?」

 「いや、それが偶然シフト入ってたみたいでさ…」


 俺はその時の光景が再びよみがえり寒気がした。


「魔女が俺の頭の上の方見て笑ってたんだよ。」

「確かに魔女ならなんか見えてもおかしくない気がするわ。でもそれ勘違いなんじゃねーの?あいつ、なんていうかちょっと斜視入ってるじゃん。」

「三浦お前そんなこと言ってると呪われるぞ。」

「でもどっちにしろ確かではないんだろ?」


 思い返せば三浦の言うとおり、あのときの俺はあまりの恐怖にあわてて逃げ帰ったのではっきりと魔女が俺の性器を見ていたという確信はなかった。


「いや、まぁ…確かではないけど。」

 三浦が真顔で言う。

「じゃあもう一回行って確かめる必要があるな。」

「は?」

「魔女に見えてるんだとすればお前は学校へ行かない方がいいし、魔女に見えてなければほぼ100%他人には見えないわけだし安心して学校に行ける。こういう不安因子は早めにつぶした方がいいだろ。大丈夫だよ、多分絶対気のせいだから。」


 「多分」と「絶対」を併用してる時点で絶対信用できないと俺は思ったが三浦の言うことには一理あった。俺はもう一度魔女のところへ行って確かめる必要があった。逃げてはいけない、失いつつある平穏を取り戻すために。


「そうだな、今から行けばまだいるかもしれない。三浦もついてきてくれ。」

「当たり前だろ。来るなって言われても行くわ。面白いものが見られるかもしれないし。」


 やっぱりこいつは俺のこの現状を楽しんでいる。俺は三浦への不信感と魔女への恐怖感を、三浦は好奇心のみをそれぞれに抱えながら俺たちは家をでた。


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