降臨
俺はベッドの上に倒れこんだ。今日で何度目になるかわからないほどの一進一退を繰り返してきたが、一歩後ずさりするときには決まってこのベッドから見上げた天井の光景があった。天井の隅にある小さなシミの形も今なら目をつむって描けるほど鮮明に記憶していた。
そのシミがどことなく魔女のシルエットに見えて俺はあわてて目をつむった。
あの魔女に俺の性器が見えたということはすなわち、他にも見える人間がいるという可能性を大きく広げていた。
『おのれ、魔女め…。』
それから俺は魔女の残像を振り払うため、及川さんのことを想った。あの強気な目、ほぼ無いと言っていいくらいに薄く剃った眉毛。金色に揺れるポニーテール。
俺は魔女の一件の少し前まであの及川さんのすぐ目の前に自分の性器をさらしていたのだ。そのときの緊張感と興奮がじわじわと蘇ってきた。
『あぁ、及川さん』
俺は無意識のうちに股間に手を伸ばしていた。しかしそこに目当てのものはない。
俺は体を起こし頭の上で滞空する我が息子を見上げた。いつもと様子が違う。それは少し硬直し、言うなれば半分くらいの高さまで体を起こしていた。
想像していたことがそういう類のものであっただけに、今目にしている自分の息子の様子には納得がいくのだが、おかしいのはそれだけではなかった。
自分の性器が降りてきているのだ。それはもう俺の額の少し前にまで来ていた。
『もしかするとこいつは……』
新たな仮説が俺の中に浮かんだ。仮説が浮かんだときなすべきことは決まっていた。仮説実験。
俺は実験器具を取りに本棚へと向かった。中学校のアルバムを取り出す。背表紙はただのケースで中身はあの手この手を尽くして手に入れたアダルト雑誌である。本当は帰宅部連中とボーリングで負けた罰ゲームで買わされたときのものだったが、無論俺はそれをまったく罰と感じていなかった。まったく悪びれることなく俺は禁断の書物を手にしたのだ。
あの時は「いらねぇよこんなもん」と言って見せたが以来俺はこの禁書を宝物のように大事に保管してきたのだ。いくらネットが進化しても、俺の原点は紙媒体であり、永遠なるものなのだ。
深呼吸したのちに雑誌を開く。第二の世界が開かれたのだ。あとはそこに飛び込むだけだ。俺は欲望の海へとダイブした。
2~3ページほどめくったところで自分の性器を確認する。それはすでに100%準備の整った状態を維持していた。そして俺の仮説通りそれは俺の目の前まで降りてきていたのだ。
実験の後には新たな仮説が生まれる。より高い次元でより真理へと近づいた仮説が。
このまま快楽を与え続ければ、こいつはあるべき位置に戻ってくるのではないだろうか。
俺は無心で目の前にある自分の性器をこすった。まるで自分の角を研ぐかのように。
「あああああああああ!!」
3回ほどのストロークの後、俺は絶頂を迎えた。
『はぁ…はぁ…』
あまりの速さで覚えてはいないが、快楽が最高潮に達する直前、自分の性器はより低い位置にまで下がってきていた気がする。
見上げるとだらしなくなった自分の性器が最初に発見したときの位置、頭上30センチほどのところに戻ってきていた。
もう少しだ、もう少しで俺は平穏を手にする。いや、絶対に取り戻してやる。
俺は後処理を至極冷静に行った。頭上でくたびれている剣の切っ先も丁寧にふき取ってやった。この作業を今更シュールに感じるのもおかしな話だ。俺はすっかり現在自分の置かれている状況に適応していた。我ながら常人離れしたセンスだと思う。
その時携帯が鳴った。帰宅部仲間の三浦からだった。