12 : 語り継がれる英雄と花嫁
二人で初めて一緒のベッドで眠った朝。私たちは顔を見合わせて、おはようと言った。ほんの少しの照れくささの後はいつも通りで、またそれまでと変わらない日常が帰ってきた。
思いっきり八つ当たりしたし、思いっきり泣いたおかげで、相当自分勝手ではあるが随分とすっきりしていて、時間はかかるだろうけどこの失恋の痛みをきっと忘れられるだろうなと思えるほどになっていた。八つ当たりされたほうのアルフォンスも、私に気を使っているんでなければ機嫌が悪そうには見えなかったので、きっとまたいつも通りの二人に戻れたはずだと私は思っている。
そう、いつも通り。
あれから、アルフォンスが私に触れるのを躊躇しなくなった。という点以外は。
「翠様、ここらで皆の能力の引き上げを計ってはどうでしょうか」
最近では日課になりつつあるタオルドライを自ら引き受けたアルフォンスが、そっと髪の毛をタオルで押さえながら言った。
アルフォンスは自分で髪を拭いたことがあるのかも疑問が生じるような身分のやんごとなきお方だが、その手際は悪くない。触れる手の力加減も、髪を乾かす順番も場所も、され慣れているからか、不満は一つも浮かばなかった。その刺激の心地よさに若干虜になっているのを否めない。
毎日洗って毎日乾かすというサイクルを繰り返していると、自分の髪なんて面倒くさい以外の何物でもない。そんな面倒くさい髪の毛を適当に乾かしながらお風呂から上がってくると、新しいタオルを手ににこにこと微笑みながら、ベッドに腰掛けて待っているアルフォンスがいるのだ。ついその誘惑に負けてしまい、炬燵に潜り込んでベッドに背を凭れ掛かると、アルフォンスが美容師顔負けの手つきと手練れで髪を乾かしてくれる。この時間が割とお気に入りで、最近では好きなようにさせている。
アルフォンスが乾かしてくれるようになって、朝のセットの時間が短縮したし、艶が良くなったのは確実に間違いじゃないだろう。買ったあと何度か使ってみたけど、手がべたつくのが嫌で放置していたオイルもどこからか見つけてきて、それをつけてくれているのだ。正しい手順とオイルのおかげで、私の頭皮も髪の毛も最近非常に調子がいい。
アルフォンスは私が大爆発したあの日から、私にあまり遠慮が無くなった。
言葉遣いは前とさほど変わらないものの、態度や行動によそよそしさが無くなった。私は最初からそんな感じでいいと思っていたので何も気にしていない。と言えば、嘘になる。16歳と言えども男。全く接触がなかったアルフォンスが、急にこういったスキンシップを取ってくるようになったことに若干の戸惑いと、そして照れを感じている。普通に、照れるのだ。髪の毛を乾かす時に耳やうなじに指が触れる度に、アルフォンスではなく私のほうが年甲斐もなく照れていた。
「どういうこと?」
タオルドライが終わったのか、低温のドライヤーをじっくりと当ててくれているアルフォンスに、コントローラーを動かしながら聞いた。何か他のことに集中していなければ、この照れ臭い空間に耐えれない。
画面版アルフォンスは今、いつも傷だらけになりながら皆を守ってくれる格好いいオーディンのために大量に回復剤を買い込んでいるところだ。
ちなみに、低温でじっくり乾かすなんて、腕がだるくって絶対に自分じゃやらない。
「戦闘後の獲得経験値をずっと記録しておりました。ここら一帯の戦闘は、今までのどの場所よりも経験値効率が良いようです。しばらくここらで戦闘を繰り返し、個人個人のレベルを伸ばし進行を有利にしていくのです」
「よくわかんないけど、それじゃストーリー進まなくなるけどいいの?急いでるんでしょ?」
「戦にとって、前準備は必要不可欠な勝因です。また、怠る事により敗因にもなりうる非常に意義深いものとなります。」
「だって兵は神速を貴ぶっていうじゃん」
「素晴らしいお言葉です。翠様がお考えに?」
「違うってわかってて聞いてくるの止めてもらえませんかね?」
「ふふ、何方かご高名な方に師事いただいたのですか?」
「いいえ。むかーしむかしに生きていた偉大な先人のお言葉です。」
「此度の戦は城からの増援も貴族からの援軍も期待できません。戦力を高めるには、既存の兵の底上げしかないのです。」
「ふーん。なんかよくわかんないけど、ここら辺のモンスター倒していけばいいのね。アルフォンス指示棒」
ドライヤーを終えたアルフォンスを、首を倒して見上げると、その麗しい顔を微笑みに変えて頷いた。
何局か戦うと、アルフォンスの目論見通りキャラクター達のレベルが随分と上がった。いつも使う子たちを中心に、ベンチの子達も少しではあるが参戦させた。バランスを考えてアルフォンスもキャラ選択の指示を出す。その時に、アルフォンスが真っ先に推薦したキャラクターが気になっていた人物だったので聞いてみることにした。
「ねぇアルフォンス。その子のこと知ってるの?」
聖女降臨後に仲間に入ったキャラなので、知らない可能性もあるかなと思ったが、アルフォンスはやはり知っていた。そのキャラクターを推す時のアルフォンスは、なにかしらの確信を持っているように感じたのだ。
「リュカ・レーンクヴィスト子爵。父親は辺境伯です。武芸の才能は勇者の再来と言われているほどの達人だったと記憶しております。」
アルフォンスに言われてなるほどと頷く。わかったことは、強そうということだけだった。
「勇者は剣一振りで千の魔物を葬り、槌一振りで地面を割ったと言われているお方です。」
「とにかくすごいわけね。」
「はい。とにかくすごいわけです。」
アルフォンスの説明を聞き流すと、私はキャラクターが映し出されているテレビ画面を凝視した。
ちなみにこのキャラクター、以前リカちゃんが騒いでいた彼女の推しメンである。確かに、とても綺麗な見た目をしている。つまり、ジュゴンボーイ筆頭ということだ。
「なぁんかこの苗字、聞いたことがあるような…」
「はい、先の勇者の末裔で、彼は直系の来孫に当たっていたはずです。」
「らいそん?」
「玄孫の子…曾孫の孫となります。」
途方もないほど遠い関係に仰け反ってしまった。名称があるだけでもびっくりだ。
「詳しいけど知り合い?」
「私も彼も社交の場にはあまり寄り付きませんし、彼は従軍せず世継ぎとして辺境の地で剣を奮っているため会合の機会はありませんでした。ですが、その血筋も才能も大変名高く、現在は王都に居を構えている私でも聞き及んでおります。その為、個人的にも興味深い青年であることは間違いありません。」
「つーまーりー?」
「知り合いではないですが、知り合いたいなと思っている相手です」
最初っからそのぐらいわかりやすく言ってくれればいいのにと睨みつければ、アルフォンスは苦笑でそれを流した。
「でもそっかー知り合いじゃないのかぁ」
「どうかなさいましたか?」
アルフォンスが指示棒をくるくると回しながら聞いてきた。手が暇になったのだろう。
「彼さ、説明書にはリュカ・レーンクヴィストとしか書かれてないけど、自己紹介でリュカ・ヒジリ・レーンクヴィストって言ってたんだよね。」
あまりにも印象的な名前だったので、よく覚えていた。きっと印象深く感じたのは私だけだろうと思っていたが、アルフォンスも記憶に留めていてくれた。
「はい。ヒジリはレーンクヴィストではよく使用されています。」
「なんで?ヒジリってなんかこれだけだいぶ響き違うし、そっちでは珍しい名前じゃないの?」
「…王族としてそれなりの人名は把握しておりますが、申し訳ないのですが由来までは存じ上げておりません。ご推察の通りヒジリという名前は大変珍しく、レーンクヴィスト以外で使用されたという話は今まで聞いたことがありません」
「いやいや、こっちこそ。友達でもない人間の名前の由来なんて知らないよね。ミドルネームってそもそもどんな意味でつけられるの?」
「基本的には洗礼名となります。我が国は女神教を唯一神とし、子は産まれると100日を待って洗礼を受けます。その際に、教会が用意した洗礼名をつけることが一般的です。ですがこれはほとんどが貴族の習慣で、一般の民草にまで広く浸透しているかと問われると―――」
「うん、それで洗礼名の他には?」
「他に、私のように父や祖父の名前、母の旧姓などをつける場合も―――」
言っていてアルフォンスも気づいたのか、ふと口を噤んだ。
「…それは姓に限るの?」
私の質問に、緩く首を振る。
「いえ、お察しの通り割と適当につけていることが多いです。ですが、レーンクヴィスト家は非常に長い間、ヒジリというミドルネームを使用していることから、彼の家にとって特別な名前なのはまず間違いないでしょう。」
その言葉に、私はアルフォンスの今までの言葉を思い出す。聖女の物を辿り、聖女の元にきた。その場にいた私が腕時計の存在を知っていた。二礼二拍手一礼をする私は、聖女の血縁にちがいない。どれもこれも、こじつけのような、誰にでも当てはまりそうな理由だった。
だけど、多野さんは腕時計はお姉ちゃんが私に買ったものだって言っていた。それにヒジリなんて名前、さすがに適当に作ったにしては響きが珍しい。その名前が特別な意味を持つ理由は想像するしかないけど、だけどもし本当に、アルフォンスの言った通りお姉ちゃんが現世に行ったことがあったとしたなら。
「勇者って、あんたがいう聖女に祝福を受けたっていう勇者だよね」
「はい。」
「その勇者、子孫がいるってことは結婚してるんでしょ?どんな人と結婚したの?100年も前の話だし、やっぱり詳しいことはわかんない?」
リュカは黒髪黒目だ。ゲームの序盤に降臨したあの聖女のイラストよりも、よほど姉に似ている風に見えてきてしまう。
「いいえ。多少であれば存じております」
はっきりと告げたアルフォンスの声に、驚いて彼を見つめた。
「どうして?」
「我ら現世の者は、この常世のように便利な道具や、不朽の本や記録を持ちません。情報は常に制限され、歴史は常に強者に上書きされていきます。そんな現世にも、決して変わらぬものがあります。」
アルフォンスの尊敬が混ざった強い眼差しは、トコヨに来て自分の今まで生きてきた世界と比べることが出来たからこその輝きを持っていた。それは進むべき道を見つけた若者の、強さにも見えた。
「かわらないもの?」
「吟遊詩人の歌でございます。」
聞き慣れなかったが、聞き慣れてしまった言葉に首を傾げる。
「吟遊詩人って…ヴァレンティーンみたいな?」
ヴァレンティーンとは、その名からわかるように『聖女降臨』に出てくるキャラクターの名前だ。自由と空と歌を愛し、常に歌っているちょっとしたすきものキャラだ。ただ、イケメンな見た目と美しい歌声からファンは後を絶たないらしい。とは、いつもの通りリカちゃん情報だ。
そんなヴァレンティーンは戦闘でも歌を歌う。選ぶ歌の種類によって効果は様々に変わってくる。そしてこの、歌うという選択肢はコストがかからない。ご明察の通り、私はこのキャラを買っていた。
「はい…春鳥のヴァレンティーン。彼はその秀逸な歌の才能と、危険な場所へも恐れずに物語を紡ぎに行く勇気から、吟遊詩人にとって最高の誉れである“鳥”という冠を持っております。概ね、ヴァレンティーンを吟遊詩人の鑑と見ていいでしょう。性格以外は。」
ゲームを操作しているときもなんとなく思っていたが、この最後の一言と苦々しい表情から、アルフォンスは彼を苦手と思っていると考えて間違いなさそうだ。そんな私の胡乱な目に気付いたのか、おほんと一つ咳払いをするとアルフォンスは取り繕うように言った。
「彼の才能は本物です。そして、磨いてきた技術も本物です。吟遊詩人は自由を愛しますが、嘘を好みません。自由と嘘。似ているようで非なるこの言葉の通り、ヴァレンティーンは自由に歌いますが、嘘は歌いません。幾星霜もの間、吟遊詩人達によって語り継がれる歌。それこそが、吟遊詩人の誇りと信念そのものだからです。100年間歌い継がれたこの歴史は、ほんのわずかな真実とみてよいでしょう。」
“聖女伝説”も彼らの語り継いできた歌の一つなのだと、アルフォンスは言った。
アルフォンスの言葉に、よくわからなかったがじんときた。なんだか悠久の時の流れを感じたのだ。
今の私たちにとっては、たったの100年。100年前に産まれていた人間さえ生きている時代だ。遠いようで身近な過去は、アルフォンス達にとってしてみれば途方もなく遠い過去のように感じるのだろう。そんな過去のことを歌い、語り継いできた吟遊詩人たちに、よくわからないながらに感動していたのだ。
「子供から老人まで、誰もが好む歌があります。英雄たちが、討伐に向かうとき。魔王を討ち果たすとき。そして勇者が花嫁を頂くとき。三部構成で出来ているこの曲は『英雄譚』と言う曲です。」
三部構成と言いながら、そこに怯むような色はない。わざわざ私に告げてきたということは、諳んじる自信があるのだろう。私は真っ直ぐにアルフォンスを見ながらお願いした。
「歌って、アルフォンス。」
「おおせのままに。」
アルフォンスは立ち上がると、スッと顎を引いてその美声を轟かせた。
旅立つときは、鳥が教えてくれた
青い空は 今はなく 漆黒の闇に包まれる
我らの求めに応えたのは 六人の英雄たち
舞い降りた聖女 白い光が 祈りの証
指さす先に 光が見える
闇の中を突き進む 一筋の淡い光
幾夜も越えた 試練の時 今こそすべてが 終わる時
強大な闇は 深く英雄達を傷つけた
何度倒れても 起き上がる 守る者達の為 待っている者の為
白い光 どこまでも広がる闇を 切り裂いた
風に乗り どこまでもどこまでも響くその声は 春の訪れ
永い永い 冬を越えた
青い空が 傷を負い倒れた英雄たちを優しく癒す
苦しみも 痛みも 耐えられぬと感じた寒さも
全ては今 終わりを告げた 奪われた安寧は 今 この手に戻ってきた
人々は 歌い踊り酔いどれた 世界が歓喜の 咆哮を上げる
乾杯だ 白い夢に身を包む女に 世界中が杯を掲げる
約束だ 帰ってきたら 愛をくれると
貴方のために 世界を救った
歌おう 笑おう 祈ろう
世界で一番の笑顔に ポレアと共に 愛を捧げよう
そうして 勇者は死んだ
そして そこに 一人の女を愛する男が 生まれた
アルフォンスは歌い終わると、照れたように笑った。
「お耳汚しを失礼致しました。この後、もしヴァレンティーン殿が歌われたら、恥ずかしいな。」
珍しく素のままのアルフォンスの言葉に驚いたが、それ以上にとんでもなく美しかった歌に驚いた。人の声に、美しいと感じたことなど初めてだった。
「アルフォンス、あんたやっぱすごいやつだったわ。さすが私のピィちゃん。」
「面はゆいです」
私の“鳥”を含めた褒め言葉の意味が伝わったのか、照れ笑いは深まり、少し俯くようにしてアルフォンスは赤ら顔を隠した。あんなに可愛くない褒め方でさえこれほど喜んでもらえることに、私もなんだか恥ずかしくなって顔を逸らす。
しばしの無言が流れた後、先に立ち直ったアルフォンスが話の続きを始めた。
「この歌からわかるように、勇者は旅立つ前から結婚を約束していた女性と結ばれたようです。このポレアとは、野に咲く素朴な花です。詳しくは帰って調べてみなければわかりませんが、勇者の住んでいた村に共に住んでいた女性だというのが一般的です。万が一、聖様が聖女として召喚されていたとしたら、国賓級の扱いを受けているはずです。吟遊詩人がポレアの花に例えることは、決してないでしょう。」
聞きたいような、聞きたくなかったような結末に、私は『そっか』と頷いた。
「かつての勇者も、私の様に聖女様のご尊名を知る機会があったのかもしれません。その名を子孫に語り継がせたとしても不思議ではないほどに、聖女の存在は尊いでしょう。」
アルフォンスの慰めるような言葉に、どっちともつかない気持ちのまま笑う。
「お姉と関係があるのかはさ、ちょっとわかんないけどさ。彼にヒジリって名前が入ってることだけは、確かなんだよね。…私の代わりにさ、たくさん話してきてよ、アルフォンス。リュカ君と。」
アルフォンスは私の言葉に、笑みを深めると力強く頷いた。それだけで、私は何も解決していないのに、ひどく安心してしまった。
「よっし、じゃあ私の軍師様の言うとおり、とりあえずリュカ君スタメン入りさせよう。」
「はい。彼は即戦力になるでしょう。」
「いくわよー!」
私はコントローラーのスティックを倒し、そこらへんに沸いていたモンスターに画面版アルフォンスを突っ込ませた。
そしてアルフォンス先生の指示棒の元、無事に勝利した私は非常に立腹していた。画面の中で、生意気なことばかりを言う青年に。
「かっわいくない!!こんなかわいくない生意気な奴がお姉のなんか孫の孫?なわけがない!イケメンは何してもいいんですぅなんて、リカちゃんしか言わないんだからね!!」
「翠様にはそっくりですね。」
「アルフォンス!あんた、漬物にするわよ!!」
夜のしじまに私の怒声が木霊した。
***
「わ、なんかお金いっぱい稼いでる」
記憶していた金額の数倍になっているゲーム画面に表示された所持金を見て私は驚いた。
ここ数日はアルフォンスに言われたとおり、周辺の敵を倒し、町に戻って休憩し、をしばらく繰り返していた。急ぐ旅だと言うのに、こんなにのんびりしていて良いのだろうかと不安に思っていたが、その不安を払拭するかのように次々とレベルの上がっていくキャラ達にほっと息をつく。最近はアルフォンスの明晰な頭脳をもってしても、戦闘中に苦境に立たされることが多かったからだ。しかし、これほどレベルが上がれば、しばらくの間画面越しに私がオロオロすることもないだろう。
「翠様がたくさんの魔物を討伐したからですね」
「あはーん?なるほどね、敵を倒せばお金もらえるんだったね。こんなことなら早くたくさん倒せばよかった。うちの軍いつもジリ貧だったんだから。あんたもさっさと教えなさいよねー」
全くとぼやきながら、画面版アルフォンスを一直線に武器屋に向かわせる私に、アルフォンスはじっとりとした目を向けた。
「…何よ」
「何を購入されるご予定で?」
「オーディンに強い斧に決まってるじゃない」
「…私にも買ってください。」
「アルフォンスは宝刀あるでしょ。」
「いつもこればかりじゃないですか!魔法なんて一度も撃たないまま、適性がマイナスになっておりますよ!」
「やだ脳禁ー!似合わなーい!」
ゲラゲラと笑う私に、アルフォンスは先ほどから言葉遣いが崩れていることも気にせずに刃向ってきた。
「双剣も序盤こそその威力を誇っておりましたが、もうずいぶんと前に時代遅れなガラクタとなっております!」
「あんた、自分とこの国宝になんて罰当たりな…」
「新しい武器、私もほしいです!」
「何小学生みたいなこと言ってんのよ。いいじゃん、すごいじゃん双剣。格好いい名前ついてんじゃん、ぷっ」
「み、翠様がそのようにおっしゃるから、もう持ってることすら恥ずかしいんじゃないですかっ!私、魔法のほうが得意だったんです!魔法塔の寵児ですよ!最短記録保持者ですよ!」
「魔法魔法うっさい!スタメンにはフリクリとマジェリーンもいるし、ベンチにはなんかほらあの陰気くさいのもいるでしょ!魔法はただでさえ高いんだから、あんたはその剣使ってなさい!」
「翠様、私のことを完璧に無料でこき使える便利のいい男、ぐらいにしか見ていないでしょう?」
「現実でも9割そう思ってる。」
「こんなに貴方に尽くしているのに!私、魔法も凄いのですよ!子供のころ暴走させて離宮一つ吹っ飛ばしたぐらい!」
「あんた国民の血税で出来た建築物ぶっ壊しといて何自慢してんのよ!帰ったらすぐ国民に償いなさいよ!」
「しょ、承知しました…」
珍しく口論でアルフォンスに勝利することのできた私は、意気揚々と当初の予定通り武器屋で“雷撃の斧”を購入した。
ミドルネームや洗礼名についての講釈は、このお話の世界観、宗教に基づいた設定となっております。実際とは異なりますので、ご留意ください。