5ー1 一年後の今
「遅刻しちゃうのですぅー!!」
慌てた様子で街の中をセミロングの茶髪と頭のサイドから伸びている尻尾をなびかせて、疾走する少女の姿があった
「おっ、リリーちゃんっ。今日も大変だねー」
「なのですぅー!!」
辛そうな表情をしながらも、街中を走る少女、リリーはまだ肌寒い早朝から店を開く準備をしている、おじちゃんやおばちゃんからの声を掛けられながらも、ある場所に向かっていた。
リリーが結や奏と出会い、T•Gに入学してから既に一年間の月日が経っていた。
それと同時に、リリーがT•Gを自主退学になってからもまた、一年が経とうとしていた。
「やっとついたのですっ!」
この街の中心地から外れた場所にある、学校のような外見をもつ場所に辿り着いついたリリーは、正門の前まで走ると、ふーふーっと息を整えていた。
リリーは一旦息を整えると、わざわざ閉まっている正門を開けたりはせずに、その場でしゃがむように膝を落とすと、ピョンっと大きく飛び跳ね、正門の上を飛び越えていた。
空中で一回転し、両足と左手を地面に添えてバッと着地したリリーは、学校の玄関へと走り出していた。
この学校には上履きが無いため、いちいち靴を履き替えたりはせずに、すごい勢いで下駄箱を素通りしたリリーは、近くにある受付に設置されている機械に懐から取り出したカードを触れさせ、ピピッという音が鳴ったのを確認すると、一室に向かってまた走り出していた。
目的地にたどり着いたのか、リリーはふぅーと安心したのたように一息つくと、『生十会室』と書かれたプレートのぶら下がっている扉を開けた。
「リリチャルド・アルテウス・ファルミニールただいま登校しましたのですっ!」
開口一番に大声で挨拶をしながら、右手をピシッと額の近くに当て、敬礼のポーズを取ったリリーは、一礼をすると、既にリリーの指定席となっている扉から最も近い左手側の席に座った。
「今日もリリーはギリギリだね」
「そんなことはどうでもいいのだよ。間に合えばそれでいいのだよ」
「ですが、五分前行動という言葉もありますし、ギリギリはよろしくないのではないでしょうか?」
「うぅー。またみんなで新人イビリなのですぅー」
「にゃにゃっ!?にゃにゃ(私)は何も言ってないにゃっ!にゃにゃ(私)は言うのちゃんと我慢したのにゃっ!」
「うわーん。言ってないだけで思ってるんじゃないですかぁー」
泣き出してしまったリリーに、結果的に泣かせる原因を作ってしまったこの学校の生十会メンバー、雪乃、雪羽、美雪、小雪はリリーをどうにか泣き止ませようとしていた。
「リリーってばー、ねっ泣きやも?じゃないとあたし達が罰受けることになるからさ」
「そ、そうにゃっ!泣きやんでくれないとにゃにゃ(私)たちには酷い酷い罰が待っているのにゃっ!土下座かにゃ!?土下座すれば許してくれるかにゃ!?」
どうにかリリーに泣き止んでもらおうと思い、本気で土下座をしようとしている小雪を、リリーは慌てて止めていた。
「あれ?そういえば、お嬢様と師匠はまだきてないのですかぁ?」
思いっきり泣いてスッキリしたらしく、勝手に泣き止んだリリーは、生十会室の中を見渡すと、いつもならいるはずの二人がいないことに首を傾げていた。
「ん?あー、二人なら今頃実習室じゃない?」
「実習室ですかぁ?」
「リリーも知っているだろう?あの二人は真性の修行バカなのだよ」
「コラ、雪羽、そんなこと言ってはダメですよ?お二人とも私たちの主なのですから」
「ふっ。問題無いのだよ。二人ともそんなに心は狭くないのだよ」
「そうかにゃ?姫はそうにゃけど、主様はすぐ怒るのにゃ。そうだにゃっ!ちょっと前ににゃにゃ(私)が主様の作った新作をちょっと壊しただけでその日のご飯を抜きにされたにゃっ!」
小雪の言い分を聞いたリリーは、目をまんまるに見開いて驚くと「怖いのですぅ」っと怯えていた。
「いやいや、それは小雪が悪いでしょ」
小雪の言い分を雪乃が否定すると、小雪側だったリリーは雪乃のほうに視線を向けると「なんでですぅ?」っと驚いていた。
「だって、小雪ってばさっきはちょっと壊しただけって言ってたけど、実際は全壊だよ?」
「ふぇ?」
雪乃の言葉が意外だったのか、リリーは唖然とした表情を浮かべていた。
小雪に至っては、雪乃がばらしたことで「ばれたにゃ」っと気まずそうに頬をかいていた。
「にゃ、にゃけどご飯抜きは酷いのにゃっ!」
「確かあの時に壊したのは主が三日三晩寝ずに作っていたやつだったのだよ」
反論する小雪に、雪羽が追撃をすると、リリーは小雪のことをまるで塵を見るような目で見ていた。
リリーにそんな目で見られた小雪は、大慌てでリリーに「ごめんにゃっ!そんな目で見ないで欲しいのにゃっ」っと懸命にお願いをしていた。
「ああー、二人ともおっそいなぁー」
中々二人が来ないため、つまらなさそうにしている雪乃は、スカートを履いているというのに、両足を机の上に乗っけると、椅子を二本足にしてゆらゆらと揺らしていた。
「雪乃、はしたないですよ?今の雪乃を見たら主様はどう思うでしょうね」
「なっ。バカ主は関係ないでしょっ!」
「とか言って顔が真っ赤だにゃ」
どうにかリリーからの信頼を取り戻すことに成功し、機嫌が良くなっている小雪がそう指摘すると、図星を突かれた雪乃は「うるさーいっ」っとただをこねていた。
「それにしても遅いですね」
「なになに?美雪のほうがバカ主が恋しいんじゃないの?」
寂しそうに言う美雪に、さっきまでからかわれていた雪乃が反撃とばかりに、ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべていた。
「あら?私は主様が恋しいだなんて一言も言ってはいませんよ?あっ、そうでしたか、雪乃は主様がいなくて寂しかったのですが」
「なななっ」
反撃をするどころか、カウンターをクリティカルヒットすることになってしまった雪乃は、これ以上は墓穴を掘るだけだと思い、口を閉じてしまっていた。
雪乃が口を閉じたことで、美雪はぼそりと「あら?もう終わりですか。つまらないですね」っと小さく呟いていた。
「美雪はやはり悪女の才能があるのだよ」
美雪の呟きが聞こえていた雪羽がそうぼそりと言うと
「あら?この所主様と二人っきりになることが何故か多い雪羽は何か言いましたか?」
「……い、言っていないのだよ」
美雪が雪羽に笑顔を向けていると、雪羽はまるで怖い何かに会ったかのように顔色を悪くしていた。
「にゃにゃ?雪乃も雪羽も突然静かになってどうしたのにゃ?」
「さあ?どうしたのでしょうか。不自然な程に静かですし、保健室までお連れしましょうか?」
顔色が悪くなっている二人に、美雪は花が咲くような笑顔でそう言うと、二人は余計に顔色を悪くして懸命に首を横に振っていた。
「ね、ねえ。流石に二人とも遅いんじゃないかな?」
「……そうですね」
室内に設置されている時計で確認すると、時間ギリギリでリリーが来てから既に十五分が経っていた。
「も、もしかしたら何か事故があったのかもしれないのですぅーっ!」
「あの二人に限ってそんなことないと思うけど、万が一があるしね」
「そうだにゃっ、みんなで向かいに行くにゃっ!」
「しかし、すれ違いになる可能性があるのだよ。私はここに残ることにしよう」
「……雪羽はただ動きたくないだけでしょ?」
「すれ違いになる可能性があるのだよ」
雪乃に図星を突かれた雪羽は、視線を逸らしながらも、まるで自分は無罪だと言わんばかりにそう繰り返していた。
雪乃は雪羽の態度に、はぁーっとため息をついていた。
「雪羽一人では心配なので、そうですね、雪羽と私はここに残ります。雪乃、小雪、リリーで訓練室を見て来て下さい」
「わかった」
この中で最も冷静な美雪が話をまとめると、訓練室に行くことになった三人は走り去って行った。
三人は訓練室に向かって全力で走っていた。
「それにしても、主は今どんな気持ちだろうね」
走りながら唐突にそう言う雪乃に、並走する小雪とリリーは首を傾げていた。
「ゼロの状態からアレだけの力を手にして、その力さえ全部無くしちゃったんだよ?」
「……力が無くなるにゃんて想像出来ないにゃ」
「私は力を無くした師匠しかしらないのですぅ。そんなに凄かったのですかぁ?」
「凄いってレベルじゃないね。あれは姫とまた別の意味で規格外だったね」
「お嬢様の力は入学する前に見たので知ってるのですぅ。確かにあれは規格外だったのですぅ」
リリーはお嬢様と出会った時に見た光景を思い出していた。
「着いた」
三人は訓練室に辿り着くと、扉をノックしていた。
「……あれ?」
なんどノックをしようとも、中からの返事は皆無だった。
「本気でやばい奴かな」
訓練室では事故防止のために、中で訓練が行われている間、外からは扉が開けられないようになっている。
用がある場合は今雪乃がやっているように、ノックをすることになっている。
この場合、ノックとはノッカーではなく、ドアホン型の法具のことだ。
法具によって中にいる人間に来客を知らせ、中から開けてもらうためのものなのだが、反応が無い。
(つまり問題ありって事だよね)
「小雪っリリーっ、無理やりこじ開けるよっ!」
雪乃はそう判断すると、外から無理やり扉をこじ開ける事にした。
「行くよっ!」
雪乃と小雪が得意の氷属性による凍結で扉を凍らせ、凍った扉をリリーが綺麗に溶かしていた。
「相変わらず凄いね。リリーの術は」
リリーの術を雪乃が褒めると、褒められたリリーは「師匠がよかったのですぅ」っと照れていた。
「さて、中に入るよっ」
無事に扉を突破した三人が部屋の中に入ると
「……なに、これ」
そこに広がっていたのは
「なんで、崩壊してるの?」
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