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追憶のエピローグ


「ねぇ。君たち初日からなに暴れてんの?」


「ん?」


 そんな声が聞こえて振り返ると、そこにいたのはヘルムを外した西洋の鎧(二人は知らないが)のようなものを着ている、男性だった。


「ん?おじさん誰?」


「誰がおじさんだっ!俺はまだ二十三だっ!」


「そっかそっか。ごめんごめん。この酔っ払いに絡まれてイラついてたからさぁー。許してね?」


「……老け顔」


「こらっ。世の中には例え本当の事でも言っていい事と、悪いことがあるんだよ?老け顔に老け顔って言うのはダメだよ?」


「……ごめん。あなたは否老け顔(ひふけがお)


「うおぉーいっ!全くフォローになってないだろうっ!」


 実際に、その男性は老け顔というわけではなく、おじさんとは呼べない、なかなかカッコイイお兄さんだった。


 お兄さんは七実と九実にからかわられていると、ごほんとわざとらしく咳払いをし、七実と九実の遊びを、無理やり中断させていた。


「まったく。大人をからかいやがって。俺の名前は遠山キンレイだ」


「金無?」


「違うっ!片仮名(カタカナ)でキンレイだっ!常時金欠みたいな呼び方すんなっ!」


 キンレイはどうやらからかいがいのある正確をしているらしい。


 七実と九実はこのままからかい続けていたい衝動に駆られるが、これでは話が一向に進まないと思い、自分から話を元に戻すことにした。


「それで、金欠はなにしに来たの?」


 ……やめることはなかった。


「だから金欠じゃねぇ。俺はただギルドに加入して早々問題を起こしている奴を注意しに来ただけだ」


「注意?なんで?あたしたち悪いことしてないよ?皆さーん、そうですよねー」


 七実はキンレイの言葉に、ムッとしながらも、キンレイが問題と言っている事の事情を知っている他の人たちにそう声を掛けていた。


 七実は笑顔で聞いたのだが、その隣で九実が睨みをきかせていたため、さっきの争いの観客たちは焦った表情をしながら首を縦に凄い勢いで降っていた。


「まー、こいつらは新人イビリの常習犯だからな。だが一応話しは聞かなきゃだからな、悪りぃーが今日はこの街を出るなよ?それと、泊まってる宿を教えてくれねぇーか?」


「えーっ!街出ちゃ駄目なのっ!?」


 唐突に七実が大声を出したので、キンレイは思わず「うおっ!」っと驚いていた。


「おいおい、急にデカイ声だすなや。なんだ、急用でもあんのか?」


 キンレイの質問に、七実に言いにくそうに頬を掻いていた。


「……金欠」


「だから俺は金欠じゃねえっ!俺の名前はキンレイだっ!キンゼロじゃねえっ!」


「違う、金欠」


「違くねぇっ!俺はキンレイだって言ってんだろっ!」


「何度も言わせないで、金欠」


「だからーー」


「うるさぁぁぁぁぁぁいっ!!」


 二人が終わらない無限ループに嵌っていると、七実は大声を出すことによって、そのループを無理やり切断した。


「な、なんだよ。いきなり大声出して、うるせぇーじゃねぇか」


「うっさい能無しっ!うるさいのは二人だこの馬鹿っ!」


 七実の能無し扱いに、キンレイは乾いた笑みを浮かべていた。


「まず九実っ!九実は言葉が足りな過ぎっ!もっとちゃんと言いなさいっ!」


 七実が九実に向かって指をビシッと指すと、七実の勢いに押されたのか、九実は「……うん」っと答えていた。


 九実に言いたいことを言った七実は、キンレイの方に振り返ると、若干怒りを感じる表情でキンレイに指を指した。


「能無しは能無し過ぎっ!」


「うおいっ!初対面だよなっ!初対面でその毒舌なのかああ?」


「うるさいっ。今のあたしは機嫌が悪いのっ!冷凍するぞっ!」


 七実が怒気を含んだ口調でそう言うと、普通まだまだ幼い七実に言われたところで気にしない筈なのだが、まだ見ぬ七実の実力を見抜いているのか、キンレイは焦りの表情を浮かべていた。


「落ち着いて」


 キンレイの焦り、というより怯えに気が付いた九実は、その怯えがキンレイだけではなく、ギルド内にいる全員が抱いていることにも気が付くと、この場をどうにかするために、とりあえず怯えの発信源たる七実の頭に軽くチョップをした。


 九実にチョップされた七実は「あうっ。痛ぃ」っと小さく呻くと、今まで漏らしていた怒気を納めていた。


 七実が怒気を納めた途端、キンレイを含め、ギルド内にいた連中は、皆ふぅーっとため息をついていた。


「この程度で我を忘れないで。七実が我を失ったら話が次に進まない」


 九実が七実にジト目でそう言うと、七実は罰の悪い顔で「ご、ごめん」っと素直に謝っていた。


 九実は七実の頭を優しく撫でると「それならいい」っと優しく微笑んでいた。


「九実……」


「七実……」


 九実は頭を撫でるのをやめると、七実の手を取り、二人は手を取り合って静かに見つめ合っていた。


「えぇー、お二人さん?」


 七実と九実が桃色空間を作り出していると、そこにキンレイは横槍を入れていた。


 良い雰囲気を邪魔されて、機嫌が悪くなった七実は、キンレイを睨み付けながら「何?」っと、怒気を大分に含ませて言った。


「お前たちには悪いが、な?周りを見てくれよ」


「んん?」


 そこに広がっていた光景は、正に地獄絵図だった。


 具体的にいうと、ギルドの酒場にいた連中が、男女問わず、血の海に浮かんでいたのだ。


「な、何があったの?」


 その異様な光景に、七実は思わずといった風に問うと、キンレイははぁーっと深いため息をついていた。


「お前らの桃色空間に当てられて、みんな自分の鼻血に浮かんでんだよ」


「……へ?」


 つまり、この血濡れの地獄は、全て鼻血?


 キンレイから真実を聞いた七実と九実は、うわーっとした顔で、ドン引きしていた。


「いやいやいやいや、原因はお前らだからなっ!」


 キンレイの声は誰の耳にも届かなかった。













 ギルドが真っ赤に染まってしまったため、七実と九実、そして何故かついてきたキンレイの三人で、近くの喫茶店に入っていた。


 ちなみに、あの時七実にセクハラをしようとしていたロリコンは、キンレイが連れてきていた兵士っぽい人たちが連れて行っていた。


(命令してたけど、金欠って結構偉かったりするのかな?)


「それでだ」


 喫茶店で七実はコーヒー、九実は紅茶、キンレイはビールを注文すると、さっそくキンレイはそう切り出していた。


「言っとくけど、あたしたちは被害者だからね?」


 キンレイが何かを言い出す前に、七実がそうやって先制攻撃をすると、キンレイは「そんなことはどうでもいい」っと、この街の治安を守る、警察のような立場でありそうなのに、治安を二の次にした発言で七実は「え……」っと声を漏らしていた。


(まさか警察ってのは勘違い?)


 七実はキンレイのことを十中八九、警察かそれに近い何かだと思っていた。


 キンレイの格好は、西洋の鎧を着込んだ青年だが、あの時キンレイの後ろからワラワラと出てきた兵士っぽい人たちの着ていた鎧には、胸の部分に盾をモチーフにした紋章と、警察という意味であるpoliceと書いてあったのだ。これで警察以外の何かだと思う方がおかしい。


「金欠は警察じゃないの?」


「警察だぞ?それがどうかしたのか」


 七実の考えを見抜き、代わりに九実が金欠、もといキンレイに問うと、キンレイはいけしゃあしゃあに答えていた。


「警察なのに治安なんてどうでもいいなんて言わない方がいいよ?」


「言ってないだろ?」


「喧嘩のことなんてもどうでもいいって言った」


 平坦な口調で九実がそう言うと、キンレイは、ばれたかっとでも言いたげな顔で、罰が悪そうに頬を掻いていた。


「まー、あれだ。それはそれ。これはこれってやつだ」


 キンレイの言い訳に七実がすかさず「言い訳すんな」っと鋭く言うと、キンレイはため息をつくと、近くにいた店員に突然ケーキを二つ注文した。


 このタイミングでの注文、つまり賄賂だ。


 キンレイの行動に七実と九実は向かい合ってため息をつくと、キンレイの発言を実はそこまで気にしていなかったため、しゃーなしだっと許していた。


「それで、お前ら何者だ?」


「何?ナンパ?キンレイ改め金欠はお金がなく、能無しだけではもの足りないと、そこにロリコンというジョブを追加したいわけ?」


「そんなこと言ってねえだろっ!お前らがぶっ飛ばしたあいつは新人イビリの常習犯だ。だが、そんなレベルの低いことをしてるにも拘らず、幻操師としての実力は高い。少なくとも、お嬢ちゃんたちみたいな子供じゃ、本来倒せるレベルじゃない。つまり、お前らはそんな普通から外れた人間だろ?」


 今七実が考えていたことは


(えっ、あいつってそれなりに強かったの!?)


 そんな驚きだった。


 あの時の男は所詮底辺だと思っていたため、九実が手を出した時に、何も言わなかったのだ。


 底辺を倒したぐらいじゃ、ちょっとあの子強いかもぐらいで済むと思っていたのだ。


(そういえば、周りの驚き方が尋常じゃなかったかも……)


 七実と九実は、ギルドに入っても全力を出さずに、程度に働こうと思っていたのだ。


 しかし、二人は強者だと、キンレイにばれてしまった。


 この世界では、強い者にはいろいろと責任が生まれる。


 強者だとわかっただけで、いろいろと面倒事に巻き込まれる可能性がうなぎ登りになるのだ。


(噂じゃ、第三次幻界大戦が始まるって噂もあるしね)


 大戦が始まれば、各国はこぞって戦力、つまり強者を求めるようになる。


 戦争の道具として扱われる可能性があるのだ。


 どれだけ個人が強くても、数には普通勝てないのだ。


(まー、九実と二人ならどうにかなりそうな気もするけどね)


「ふーん。ばれちゃったもんは仕方ないかー。で?どうすんの?もしあたしたちの自由を奪うって言うなら……消すよ?」


 七実がそういうと、最後の言葉と同時に七実と九実はキンレイに向けてピンポイントで殺気をぶつけていた。


 七実と九実。二人の殺気に当てられたキンレイは、そのあまりにも重く深い殺気に、気を失いそうになっていた。


(手加減してるとはいえ、あたしたちの殺気をピンポイントで感じて気を保ってられるなんてね。キンレイって意外に強いのかな?)


 七実は内心キンレイの評価を上げていた。


「はぁ、はぁ。たくっ、いきなり殺気向けるのやめてくれねぇーか?」


 二人が殺気を出すのをやめると、今まで懸命に意識を保っていたキンレイは、殺気がなくなった瞬間に、バタッとテーブルに突っ伏すと、辛そうにしながらもそう言っていた。


「だって……」


「だってじゃねえーよ。たくっ、なんで女はこう、可愛いければ正義だとでも思ってんのか?はぁー、まあー、それはいい。とりあえず安心しろって、お前らのことを言いふらしたりしねぇーよ」


「……どこからツッコメばいい?それと、女って一括りにされるのは釈だけど、可愛いは正義、これは絶対の真理だよ?」


「……可愛いは正義」


 七実がまだ無い胸を張りながら言うと、九実も七実の真似なのか、七実のように無い胸を張っていた。


 幼女が二人で、偉そうにそんなことを仁王立ちで言うという、そう簡単にはお目にかかれない貴重な光景に、キンレイは顎が地面に届くのではないかと思うくらいに口をポカーンと開けていた。


「まぁ、あたしたちは金欠が言わないってなら、それでいいんだけどね」


 キンレイが口を開くたびに、七実がからかっていて、話が全く先に進まなかったため、七実はそろそろ話を進めようと思い、少し強引に次の話題にしていた。


「はぁー、やっとかよ」


 七実の言葉で我に返ったキンレイは、やっとのことで本題に入り始めた。


「俺と取り引きしねぇーか?」

 評価やお気に入り登録、アドバイスや感想などお持ちしております。


 次の更新は月曜日の午前12時です。


 上記外で更新する場合は、予め活動報告にて、ご連絡させていただきます。



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