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4ー30 Bonds of true

 奏は結に話していた。


 結と賢一の本当の出会いについて。


 B•G(ブラッドガーデン)について。


 そして、零王について。


「……」


「……大丈夫ですか?」


「……あぁ」


 結は奏から聞かされた真実に固まってしまっていた。


 それも当然だろう。


 初めて出会った時、自分は恩人である賢一を殺そうとしていたこと。


 もしかしたら自分は、B•G(ブラッドガーデン)で実験体になっていた子たちを殺めてしまっているのかもしれないこと。


 そんなことを突然聞かされて、唖然としない訳がない。驚かない訳がないのだ。


 なにより、大丈夫な訳がないのだ。


 奏はそれがわかったからこそ。


「か、奏?」


「しばらくこうさせて下さい」


 奏は結の頭を優しく胸で抱き締めていた。


「結、我慢しないでください。私の前で、弱味を見せるのは嫌ですか」


 奏のその言葉を聞いた瞬間、結の目からは涙が零れていた。


 結は、奏の胸の中で、静かに、だけど確かに泣いていた。


「……あの日から一年ですか。よく、今まで我慢してきましたね。よく、がんばってきましたね」


 結は奏たちが自分に何かを隠していることに気付いていた。


 だけど、結には奏や賢一以外に頼る人がいなかった。


 だから、奏たちが話してくれないのは自分ためだと毎日毎日、自分に言い聞かせていた。


 だけど、それでも、不安なものは不安なのだ。


 本当は自分を騙しているのではないか。


 本当に信じてもいいのだろうか?


 結はそんなことばかりを考えていた。


 だからこそ、結は自分の弱い部分を奏たちに見せることが出来なかった。


「……ごめん、奏。ありがとう」


「……今まで隠してごめんなさい」


 こうして、結と奏は、本当の意味でパートナーとなったのだった。













「さて、いろいろありましたが、そろそろ出発しましょうか」


 結が目覚めた日から、また一日が経っていた。


 テニントの街に辿り着くまで三日。


 リリーを見つけるまで一日。


 結が目覚めるまで一日。


 そして出発するまで一日。


 すでに、T•G(トレジャーガーデン)を出発してから六日が経っていた。


 つまり、T•G(トレジャーガーデン)を出発した時に言った期間、一週間まで残り一日しかないのだ。


 結と奏、そして新しい仲間となるリリーの三人で、三人が、特にリリーと、心配をかけたという意味で世話になったルカに別れの挨拶を改めてした後、三人はT•G(トレジャーガーデン)に向かっていた。


「結様はお身体の調子は大丈夫なのですかぁ?」


「ん?あぁ、大丈夫だよ。リリーにも心配かけたな」


 結は心配そうにしているリリーの頭を優しく撫でてやると、リリーはちょっぴり恥ずかしそうに、だけど嬉しそうにしていた。


 リリーはまだ産まれたての幻の逸材(ファントム)だ。


 幻の逸材(ファントム)は時間が経つに連れて、物理世界での記憶を断片的に思い出すこともあるらしいが、リリーにはまだそれがない。


 つまり、家族の温もりに飢えているのだ。


(リリーは頭を撫でられることが好きみたいだしな)


 結は心配させた代わりにと、歩きながらリリーの頭を撫でていた。


 結がリリーの頭を撫でていると、奏がわざとらしくごほんと咳払いをした。


「どうしたんだ?」


「リリーには悪いですが、約束の時間まで後一日しかありません。イーターの大量発生という、想定外のことは起きましたが、時間に変更はありません、ここからは急ぎますよ」


「んー。俺は大丈夫だけど、リリーは大丈夫か?」


「ふぇっ?わ、私ですか?私は……だ、大丈夫ですっ」


 奏がリリーに視線を合わせると、リリーは歩くペースを落とさないまま、ソワソワするという、よくわからない芸を披露していた。


「はぁー。普段は使いませんが、今回は結の体が気になりますし、なにより時間もないことですし、これを使いますか」


 奏は二人に一旦止まるように言うと、いつもの如く、指をパシンと鳴らした。


「こりゃ、今回はなんというか、すごいもの作ったな」


「す、すごいですぅ。これが幻操師なのですぅ?」


「いや、奏は規格外だから、基準にしない方がいいぞ」


「そ、そうなのですかぁ?」


「リリーも幻の逸材(ファントム)なのですから素質はありますよ?これくらいなら出来るようになるかもしれませんよ?」


 奏は「まあ、氷属性が使えればですが」っと付け足すと、結とリリーに、奏が作り出したものの上に乗るようにいった。


 奏が作ったのは、わかりやすくいえば


(でかいスケボーだよな)


 その形はスケボーだった。


 とはいえ、本来スケボーについてあるはずのタイヤは一つも付いていない、それどころか、地面に接している部分は皆無だ。


 つまり奏が作ったのは、正確に言うと、空飛ぶスケボーだ。


 奏は二人を空飛ぶスケボーに乗せると、自分はスケボーの先端に立っていた。


「奏は座らないのか?」


「立っていたほうがいろいろと都合がいいので」


「なるほど」


 つまり奏は運転手なのだ。


 奏は後ろで座っている二人に「とばしますよ」っと一声掛けると、スケボーどころか、自動車をも超えるスピードで走り初めた。


 地面に接していないからか、振動などは全くなく、それどころか一切の囲いがないスケボーの形をしているにも関わらず、その上に乗っている結たちには、全く風が感じられなかった。


(奏の結界だろうな)


 掴むものもないのに、車を超えるスピードで動いたら、普通飛ばされてしまう。


 奏はそれを防ぐために、透明度一○○%の薄い氷の膜でスケボー上部を覆っていたのだ。


 空飛ぶスケボーの上に結は胡座で、リリーは正座で座り、凄まじいスピードで流れていく景色を見ていると、リリーが結に質問をしていた。


「そういえば、幻の逸材(ファントム)ってなんなのですぅ?」


「そういや、まだ教えてなかったな。幻の逸材(ファントム)ってのは……つまり……、幻操師として才能がある奴のことだよ。うん」


 幻の逸材(ファントム)がなんなのか、奏から最近教えて貰ったばかりだというのに、忘れてしまった結は、ギリギリ覚えていたことだけをリリーに教えると、リリーは「そうなのですかぁ」っと嬉しそうにしていた。


 結はそんなリリーを見て、罪悪感に駆られていると、後ろに振り返っていた奏が、結にジト目を向けていた。


「あ、はは」


 結は乾いた笑いを漏らしていた。












 テニントの街を出発してから、約半日。


 結たち御一行は、T•G(トレジャーガーデン)に辿り着いていた。


(行きは三日。帰りは半日。……奏、恐ろしい)


 乗客に全く負担を掛けずに、片道三日掛かる道のりを、たったの半日で移動させた奏に、結は思わず呆れていた。


「結はこのままT•G(トレジャーガーデン)に戻ってください」


「ん?奏たちはどっか行くのか?」


「私はリリーを賢一さんに紹介してきます」


 結が「それなら俺も行く」っと言いかけたところで、奏は手で制すと「結は不調なのですから早く休んでください。生十会に帰還の連絡をしたら今日はもう休んでいいですよ」っと言い残すと、リリーと二人で賢一のいるF•Gに向かっていった。


(はぁー。生十会、行くかー)


 結はため息をつくと、無事に帰ってきたことを知らせるために、生十会室に向かった。


「みんなー。戻ったぞー」


「おっそぉぉぉぉぉぉいっ!」


 結が生十会室に入ると、出迎えとして待っていたのは、雪乃の叫びにも似た大声の文句だった。


「いきなりうるさいなっお前はっ!」


「お前はやめてっ。ただの幻の逸材(ファントム)保護任務なのに、なんでこんなに時間たってるのよっ!」


「うるせぇっ!いろいろあったんだよっ!」


「いろいろって何よっ!あたしがちゃんと納得出来るように、三○○文字以上一○○文字以内で説明しなさいっ!」


「それ絶対に無理だろっ!考えてから言いやがれこの馬鹿女っ!」


「馬鹿女ですってぇ!」


「なんか違うか?んん?」


 出会ってそうそう、互いの額を押し付け合い、盛大に口喧嘩を始めた結と雪乃に「お二人とも落ち着いて下さい」っと美雪が仲裁に入ると、結と雪乃は互いを睨みながらも、自分の席に座った。


「姫は何処にゃ?」


「奏からリリーを連れて賢一さんのところに行ったよ。まぁすぐに帰って来るだろ」


 小雪の質問にそう答えると、結は机に突っ伏していた。


「リリー?誰なのだ?」


「あぁ、幻の逸材(ファントム)だよ幻の逸材(ファントム)。今回の任務で保護した少女だよ」


「フルネームはなんと仰るのですか?」


「えっ、フルネーム?えーと、なんだっけなー」


「うわー、フルネームも覚えてないなんてサイテー」


「うるせえなっ!ちょっと複雑な名前だったんだよっ!」


「だとしてもサイテーって言ってんだよバーカ」


 雪羽の質問に、結は怠そうに顔だけをあげて答えると、その答えに美雪が重ねて質問をした。


 結はあれから結局ずっとリリーと呼んでいるため、リリーのフルネームをまだ覚えていなかったのだ。


 小雪がそんな結を馬鹿にすると、二人はまた席から立ち上がり、互いの額を押し付けあっていた。


 そんな二人を見て、美雪はまたため息をつくと、今回は自分が失言だった思い、また仲裁に入っていた。


 美雪が二人をもう一度席に座らせていると、結が生十会室に入って来てから、ずっと観察するかのような目で結の事を見ていた雪羽は口を開いた。


「結、なにがあったのだ?」


「……いや、なにもなかったが?」


「そんな訳がないのだよ。私の観察力を舐めるなよ?」


 雪羽の思いがけもしない言葉に、結は一瞬固まってしまっていた。


 そんな結に気付かない雪羽ではない、雪羽は結が逃げられないようにもう一度言った。


「もう一度言う。何があった?」


「……なんでそう思う?」


 結は最後の足掻きとばかりに、質問に質問を返していた。


 結の質問に、雪羽は両肘を机に付け、重ねた手に頭を乗っけると、鋭く目で言った。


「君から漏れている幻力が明らかに弱くなっているからなのだよ」


「っ!?」


 雪羽の言葉に、今まで気が付いていなかった雪乃や小雪、美雪までもが大きく目を見開いていた。


 戦闘時には体から漏れる幻力の量は状況に合わせて大きく変わるものだが、平時の量は変わらない。


 体から漏れる幻力を抑える技術はあると言っても、今それをする必要など皆無だ。


 だから雪羽は何かがあったと判断したのだ。


 そして、そう思ったのは雪羽の言葉によって、結から漏れる幻力が減っていることに気が付いた雪乃、小雪、美雪も例外ではなかった。


 四人の視線が集まる中、結はため息を付くと、今回の出来事について話し始めた。



「……そっか。姫は教えることにしたんだ」


「やっぱりみんなも知ってたのか?」


「最初からじゃにゃいにゃ。ちょっと前からにゃ」


 とはいえ、短い期間とはいえ、四人が結に隠し事をしていたのは事実だ。


 室内には気まずい空気が流れていた。


 そんな空気を最初にぶち壊したのは


「まっ。そんなことはもういい」


 結だった。


「えっ?」


 予想外の結の反応に、六花衆の四人は思わず驚きの声を漏らしていた。


 四人は結に怒られると思っていたのだ。


 そんな大事なことをどうして教えてくれなかったのだ。


 四人は結の過去についてのことを誰でもない、結自身に教えなかったのだ、罵倒の言葉を浴びせられるぐらい覚悟していた。


 それなのに、結はけろっした様子で、四人にいつもと変わらない優しくて、少年らしい自然な笑みを浮かべていた。


「それで、四人に折り入って頼みがある」


「な、なんでしょうか?」


 結の様子に固まっていた四人の内、最初に硬直から元に戻っていた美雪が代表として返事をしていた。


「俺の修行を手伝ってくれないか?」


「修行、ですか?」


「どうやら今の俺は幻力が減っただけじゃないみたいなんだ」


 結の言葉に、硬直から回復した雪羽は「なんだと」っと唸っていた。


「だから、正確には修行というより、確認だな。それでその結果次第で修行を手伝って欲しい」


 結はそう言うと、四人に向かって頭を下げていた。


 結の行動に、四人は目をパチクリさせると、さっきとは別の意味で固まっていた。


 何故なら、結から頼み事をされるのが初めてだったからだ。


 結は頼み事をされることはあっても、自分からすることは今までなかったのだ。


 それは心の底から信頼出来ないという気持ちからきていたため、それは壁として四人は感じていたのだ。


 それなのに、結が自分たちに、それも頭を下げて頼み事をした。


 それはつまり、結の中にあった自分たちへの壁が無くなったということだ。


 それで四人は思わず驚いたのだ。


 それど同時に、嬉しいと感じていた。


 今まではきっと信用だった。


 信じて用いる。きっとその程度だったのだ。


 だけど、これからは信頼。


 信じて頼る。頼ってくれる。


 だから四人は嬉しさのあまりに頬を緩めていた。


 そんな四人の返事は勿論


「喜んでっ」


 評価やお気に入り登録、アドバイスや感想などお待ちしております。


 次の更新は月曜日の午前12時を予定しております。


 上記外での更新は、予め活動報告にてご連絡させていただきます。

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