4ー23 発見
テニントの街を捜索して、すでに一時間が経っていた。
今だに幻の逸材についての情報はなに一つ見つけることが出来ないでいた。
「本当にいるのか?」
「幻穴があったということはいるはずですよ?」
「でも、だからと言ってここにいる確証はないんだろ?」
「それもそうなのですが。いきなり知らない場所に来たら、とりあえず安全な場所を探すと思いませんか?」
「運悪くこの街とは真逆に進んじまった可能性もあるよな」
「近くにはここ以外の街は無いのか?」
「ないですね。もしここ以外を目指してしまった場合、最悪すでに死んでしまっているかもしれませんね」
なかなか幻の逸材が見つからないため、結はストレスが溜まっているようだった。
「幻力を探索することは出来ないのか?」
「顕在能力なら探索も可能ですが、幻の逸材はあくまで潜在能力が高いだけですから、探索は無理ですね」
探索幻操術は、体から漏れ出している顕在幻力を探しているのだ。
体から漏れ出していない潜在幻力を探索する術は今のところないのだ。
「探索術は無理ですが、だからと言って手が無いわけではありませんよ」
「そうなのかっ!」
「遠隔操作可能の氷に私の意識の一部を移して、それを街中にばら撒きます。つまり、擬似的に探索人数を増やすってことですね」
「意識の一部?そんなこと出来るのか?」
「一応は、ですが凄まじい集中力を必要としますので、やっている間は私の体のことを頼んでもいいですか?」
「わかった。でも、無理だけはするなよ?」
心配そうにしている結に、奏は「分かっています」っとウインクをした。
人に見られないように、路地裏まで移動すると、奏は指をパチンと鳴らした。
(おいおい、この数を同時に操るつもりか?……無理するなって言ったのに)
奏が創造した氷の数はぱっと見でも百はくだらないだろう。
これほどまでに大量の氷玉の高速構築、楽々とやっているように見えるが、本来なら同時に十個作れるだけでも凄いのだ。
奏が作ったのはその十倍。やはり規格外だ。
氷玉を作り終えた奏は、結に「体を頼みます」っと言うと、目を瞑った。
「おっと」
遠隔操作をしている間は、どうやら立っていることも出来ないらしく、奏は目を瞑るのとほぼ同時に倒れると、倒れ切る前に結が優しく抱き留めていた。
(こんな小さくて簡単に折れてしまうのではないかと思うくらいに細い体してるのに、幻操師最強クラスの存在か……世の中わからないものだな)
奏を抱きしめること数分、奏はスッと目を開けると、「ありがとうございました」っと結に礼を言うと、少し名残惜しそうにしながらも結から離れた。
「見つけたのか?」
「はい。おそらくですが見つけました。逃げられないように一つだけ氷玉を残していますので、すぐに向かいますよ」
「わかった」
結と奏は互いに頷き合うと、奏先導の元、奏の見つけた幻の逸材の元に向かった。
奏に案内されたのは、結たちが泊まっている宿から、少し離れた場所にある別の宿だった。
「ここか?」
「はい。幻理世界に来たばかりですので、もちろんお金も持っていないため、どうやらここの仕事を手伝う代わりに泊まらせてもらっているようですね」
「仕事中は話せないだろうな」
「そうでしょうね。氷玉で監視はしますので、彼女の仕事が終わるまで近くの喫茶店で時間を潰しますか?」
「そんなに長い間氷玉を出してて大丈夫なのか?」
「最初の数だと辛いかもしれませんが、一つであれば容易ですよ」
「そうか……なら良いが」
監視は奏に任せることになり、彼女の仕事が終わるまで、近くの喫茶店で時間を潰すことになった二人は、ちょうど宿の反対側にある小さな喫茶店に入ることにした。
「奏はなに飲む?」
「私は紅茶をお願いします」
「わかった。すみませーん」
店員を呼んだ結は、紅茶を二つ頼むと、紅茶が来るまで当たり障りのない雑談をしていた。
紅茶が運ばれると、結は奏に防音と結界を張ってもらうと、奏が新しく作るというガーデンについて聞いた。
「今のところ人数は何人くらいいるんだ?」
「そうですね。約百人くらいでしょうか」
「……結構多いんだな」
「そうですね。なんせ一組の子たちはほぼ全員が入りたいらしいですから」
「前は一組の上位勢って言っていなかったか?」
「発案した時の初期メンバーはという意味ですよ。その後一組でこの話が話題になったようで、参加希望者が殺到しまして」
「それで、結果は一組のほぼ全員と」
「……はい」
「相当慕わられてるんだな」
一組のほぼ全員が参加を希望したと言うことは、言い換えれば皆が奏について行きたいと言っているということになる。
そんなみんなの気持ちがわかるため、奏は恥ずかしくなり、思わず頬を赤く染め上げていた。
「ん?参加するのはT•Gの人間だけだよな?」
「そうなりますね」
「……また男は俺だけ?」
「……諦めてください」
「……男の友人が欲しいです」
「もう、女の子になってみたらどうですか?似合うかもしれませんよ?それに、男の子ではわからないことが女の子になることによってわかるかもしれませんよ?」
「……適当なこと言いやがって……」
楽しそうに話す奏に、結はジト目を向けていた。
(でも、女の子か……確かに時には違う視点から物事を見ることも大事だよな)
この奏の何気ない言葉によって、結はとある幻操術を作り出すことを今は知らない。
「どうやら終わったみたいですね」
喫茶店で時間を潰すことに数時間。
幻の逸材かもしれない少女は、宿の店主だと思われる優しげな男性と幾つか言葉を交わした後、ぺこりと頭を下げ、着ていたエプロンを脱ぎ、男性に渡すと、自分の部屋に向かっていた。
「さて、行くか」
結と奏は互いに頷き合うと幻の逸材かもしれない少女が住んでいる宿に向かった。
「いらっしゃい」
宿に入ると、最初に聞こえてきたのは店主の優しそうな声だった。
「泊まりかい?それとも食事かい?」
どうやらここはただの宿舎ではなく、一階は食堂になっているらしい。
「泊まりで、二人部屋を一つお願いします」
「え?」
結は店主に泊まりだと伝えると、一人部屋を二つではなく、二人部屋を一つ頼んでいた。
すでに別の宿に泊まっているのにここに泊まると言ったことと、二人部屋を頼んだことという合計二つの驚きのせいで、奏は思わず驚きの声を漏らしていた。
「結、どういうことですか?」
「白夜のことが気になってな。だからと言って向こうの宿をキャンセルすれば不自然だ。だから向こうはキャンセルせずに、偶然何日も帰っていないことにする。宿を出る前に店主にしばらく戻らないと言っておいたから大丈夫だよ」
「なるほど……で、ですが、どうして二人部屋にしたのですか?結は私が最初に二人部屋にしようとした時、全力で拒否したじゃないですか」
「状況が変わった。奏は幻の逸材で白夜は幻の逸材を探している。もしもの時のために一緒にいたほうがいいだろ?」
「な、なるほど」
ここまでずっとこそこそと小声で話していると、結がふと奏の額に手を置いた。
「ひゃっ。ど、どうしたのですか?」
「いや、顔もいつもより若干赤いし、いつもの奏なら俺の考えくらい簡単に読めるだろ?だから熱でもあるのかなって思ってさ」
「そ、そうですか」
「んー。手じゃよくわからないな」
「え?」
結はそうつぶやくと、手を奏の額から退かすと、今度は自分の額を奏の額にくっつけていた。
「ななななな何をしているのですかっ」
「だから、熱ーー」
「だ、大丈夫ですっ熱なんてありませんっ」
奏は慌てふためきながら結から離れると、顔を真っ赤に染め上げていた。
「さ、先に部屋に行っていますっ!」
奏はそう言うと、店主から部屋の鍵を受け取ると、凄まじい速さで階段を登っていった。
「なんなんだ?」
奏がどうしてあんなに慌てていたのかわからない結は首を傾げていた。
「くっくっくっ。坊主、中々やるじゃねえか」
結が首を傾げていると、結と奏のやり取りを見ていた店主がそう声を掛けていた。
「おじさん、中々やるってどういうこと?」
「くっくっくっ。どうやらあの子も大変みたいだね」
店主が楽しそうに笑っている間、結はずっと頭を傾げていた。
(なんで奏は突然怒り始めたんだ?)
奏が鍵の番号を結に教えぬまま、走り去ってしまったため、店主に部屋の番号を聞いた結は、部屋の前までいくと、扉も開けずに佇んでいた。
(おじさんは理由を分かっている風だったけど、結局教えてくれないし……気まずい)
結が中に入らない理由は、奏が突然走り去ったのは、怒ったからだと思っているからだ。
もちろん、奏は怒ったわけでもないし、結はその事にこれっぽっちも気が付いていなかった。
(……はぁー。どっちにせよ、あの子から話を聞かなくちゃ出し、奏を呼びに行かないとな)
結はため息をつくと、真剣な顔付きで覚悟を決めると、扉をノックした。
トントン
「…………」
(あれ?いないのか?)
トントン
結がもう一度ノックをすると、「……はい」っという微かな返事が聞こえた。
(なんだ。いるじゃないか)
微かだが、部屋の中から奏の声が聞こえたことで、奏がいることがわかった結は、「入るぞ」っと言いながら扉を開けた。
「結……」
部屋に入ると、ベットの上で毛布に包まる奏の姿があった。
(まだ顔が赤いな。やっぱり風邪か?)
「ごめんなさい」
「へ?」
奏の突然の謝罪に、結は思わず変な声を漏らしていた。
「私のせいで話を聞きに行くのが遅れてしまいました」
「……いや、それはいいんだが。……体は大丈夫なのか?」
頭を下げて謝罪する奏に、結は体の心配をすると、奏はキョトンとした表情で顔を上げると、はぁーっとため息をついた。
「風邪ではありませんから大丈夫ですよ」
「本当に?」
「本当です」
謝罪したら未だに結が勘違いしていることを知って、さっきまでの羞恥心が一気に覚めてしまった奏は、顔からも赤みが抜け、いつも美白美人の奏に戻っていた。
「それじゃ、あの子のところ行くか?」
「そうですね。行きましょうか」
結は奏の手を引いて、立ち上がらせてあげると、奏と二人、目的の子の部屋に向かった。
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