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4ー10 奏の過去


「どうかしましたか?」


 自分たちの考えていたことが、ただの勘違いだと気が付いた結、雪乃、小雪の三人が呆然としていると、どうやら三人の様子がおかしいことに気が付いた奏は、純粋な目で三人に声を掛けていた。


「「「……」」」


 告白してもらえると思ってたら全く違うという勘違いが相手に与える心のダメージはあれだ、最強だ。


(最悪だ……)


(あたしの勘違いか……そうだよね。姫は最強だけど純粋だもんね。恋なんて知らないよね)


(にゃぁ。わたし(にゃにゃ)がエッチな勘違いしてたこと、結にばれちゃったにゃぁ。うにゃぁ)


 結は絶望したような顔で。


 雪乃はどこか嬉しそうな顔で。


 小雪は顔を真っ赤にして。


 三人とも心情の細かいところは違うが、誰もが自己嫌悪に陥っていた。


 奏は世界最強クラスだ。いずれは奏が世界最強になるだろうが、今の奏にはそれなりの弱点がある。


 まずは『七花天輪』をコントロール出来ないこと。


 もう一つは若いが故に経験が明らかに足りないのだ。


 経験がまだまだ少ないにもかかわらず、奏が世界最強クラスなのは純粋に奏の持っている才能だ。


 奏は天才な訳だが、天才と呼ばれる才能は大きく分けで二つに分類される。


 一つは経験だ。


 例えば、テレビに出てくるようなスポーツマン。テレビで天才、天才ともてはやされているプレイヤーにいつからそのスポーツをやっていましたか?っとインタビューすると、大抵「幼い頃からやっていました」とか「十年はやっていますね」などの回答が返ってくるだろう。


 確かにその業界でトップに馴れるのは選ばれた人間と言っても過言ではないだろう。しかしその天才は真の天才ではない。


 天才とは一パーセントの才能九十九の努力と言われることもあるほどだ。この世で言われている天才とは真の天才ではないのだ。


 ならばこの世に才能による不公平がないのかと問われれば答えは否だ。


 仮に同じ誕生日で同じ時間に産まれ、母親のお腹の中で一つの生命として誕生したのが全く同じの人間が二人居たとしよう。


 この二人にある時、二人とも今までやったことがないようなことをやらせてみると、二人の上達スピードは同じだろうか?


 それの答えは否だ。


 二人ともやった事がないことをしているにも拘らず、その上達スピードには違いが出来てしまうのだ。


 この違いこそ才能の差なのだろうか?


 答えはイエスでありノーでもある。


 この差は確かに才能の差と言えるだろう。しかし、その才能とは産まれてから今まで培ってきた経験による差だ。この差は子供いや赤子の頃から生まれてしまう。


 サイレントベビーという言葉を知っているだろうか?


 サイレントベビーとは、赤ちゃんの頃のコミニュケーション不足によって起こる現象だ。


 症状としてはまず、泣かない。


 赤ちゃんをお世話する時に厄介なのは泣くことだ。赤ちゃんは私たちとは違いまだ言葉を発することが出来ない。だがら代わりに泣くことによって自分の意思を表に出そうとするのだが、いくら泣いても無視されてしまうことが続いてしまうと、泣くことを、つまり自分の意思を伝えようとすることを諦めてしまうのだ。


 この症状は成長した後にも影響が残る。それはコミニュケーション能力の低下だ。人間社会において意思の疎通というものはとても大切で重要なものだ。


 あなたは赤ちゃんの頃の記憶があるだろうか?答えは確実に否だろう。


 覚えていない頃の、物心がつく前の記憶、経験がその後に大きく関わってしまうのだ。


 こういった経験による成長による差、それがこの世で一般的な才能だ。


 ならばもう一つ、真の才能とはなんだろうか?


 真の才能とは、そもそも経験を必要としない。というより、成長がないと言ってもいいかもしれない。


 なぜなら凡人や一般的に才能があるもの達は経験を元に成長している。この才能による差の有無は言葉にするとすれば、成長スピードの違いと限界地点の差だ。


 しかし、真の天才にはそれがない。なぜか、それは最初から最高地点にいるからだ。その能力だけを見ると、既に限界に達しているのだ。


 凡人は百の経験値でレベルが一つ上がり。


 天才は十の経験値でレベルが一つ上がり。


 真の天才は最初からレベルマックスなのだ。


 ならば、真の天才に経験は必要ないのかと問われればその答えもまた否だ。


 この世にたった一つの能力だけで出来ることなんてない。


 スポーツだってただ運動が出来れば良いだろか?それは違う、チームメイトや仲間を必要とするスポーツでは個人技だけではなく連携も必要だ。


 何かをやる時に、その成功具合を求める方法は、雑に言えばその物事に関係する能力を全てを足したものだ。


 いくら真の天才とはいえ、知らないことは出来ないのだ。


 あくまで最初からレベルマックスというのは、そのことについて知っているというのが前提だ。


 スポーツで言えば、ルールを完璧に知ることによってレベルマックス。言い換えると、知るか知らないかでレベルが一にもマックスにもなるのだ。


 つまり、まずは知ることによってレベルの上限が一から百になるのだ。どちらにせよ同じレベルマックスだが、知るか知らないかで上限が変わるのが真の天才。


 ちなみに凡人は知ることによって上限が一から変わるが、その値は少なくとも百ではないだろう。しかしそのことを続けることによって真の天才は無理でも普通の天才達とは張り合えるようになるだろう。


 なぜなら続けることによってあなたもまた、凡人から天才に変わるのだから。


 継続は力というやつだ。

 

 そしてこの奏という少女は凡人で無ければ天才でもない、正に真の天才だ。今は幼く経験が足りないため、そのレベルはこの世の天才たちと同等程度だが、経験を積むことによって、後三年も経てば間違いなく過去も未来も現在も、全てにおいて最高の存在にまでなるだろう。


「大丈夫ですか?」


「あ、あぁ」


 自己嫌悪の旅から帰ってくることが出来た三人は、奏に心配されながらもそれぞれの部屋に戻っていった。


 他の六花衆は部屋が別の方向のため別れたが、結と奏は部屋が隣同士のため、一緒に戻っていた。


「本当に大丈夫なのですか?」


「大丈夫だよ」


「ですが……」


「……俺のことを思うなら、もう言わないでくれ」


 結はなにかを悟っているかのような目で奏を見つめていると、奏は不満あり気にしていたが、結のことを思ってか「わかりました」っとこれ以上言及しないでくれた。


「いつも言っていますが、なにかあればすぐに声をかけてくださいね?」


「なんでそこまでするんだ?奏はもう俺の世話係じゃないだろ?」


 最初は世話係だったし、T•G(ここ)についてなにも知らない子供だったため、心配するのは心優しい奏からすれば仕方が無いことなのかもしれないが、今は違う。


 結はT•G(トレジャーガーデン)に来てから、すでに半年が経っているのだ。ガーデン内で迷子になることも無ければ、記憶が無く心が不安定だったあの頃とは違う。


 記憶はまだ戻ってきていないとは言え、奏や六花衆のおかげで今や不安定だった結の心はほぼ完全に安定しているのだ。


 それにB•G(ブラッドガーデン)が報復をしてくる能性はまだ残っているとは言え、すでに結の実力はSランクかそれ以上の力を手に入れているのだ。大抵と相手なら一人でどうにか出来るだろう、仮にそれが無理でも逃げ切ることは出来るだろう。


 結自身は自分の力がそこまで強くなっていることに気が付いていないものの、そもそもB•G(ブラッドガーデン)の報復なんて考えていないどころか可能性があることさえ知らないため、今の結は奏にここまで心配されるのが不思議なのだ。


(俺ってそんなに頼りないか?)


 などと思い、内心地味に落ち込んでいた。


「理由なんて決まっているではないですか」


「?」


「あなたが私にとって特別だからですよ」


 奏は頬をほんのりと赤く染めていた。


(え、これってまさか告白か!?)


 奏のあまりにも可愛らしい姿にキュン死にしてしまうのではないかと思うほどに、動揺していた結は、突然冷静さを取り戻し始めていた。


(いや、落ち着け。このパターンはさっきも無かったか?そうだ、これは求愛じゃない。どちらかと言えば母が息子に感じる愛情、いや姉の方が正しいか?とりあえずこれは異性に対する好意じゃないな。相手はあの奏だぞ?大抵のことはなんでもすぐにこなせるが恋愛関係はさっぱりの純粋な少女だからな)


 奏は男をしらない。


 奏は結と同じように、幻理世界で賢一が見つけ、連れてきた子供だ。


 奏がT•G(トレジャーガーデン)に入学したのは奏が八歳の頃、つまり結が入学する一年前だ。


 奏がT•G(トレジャーガーデン)に入学経緯は正確には違う、賢一が奏を見つけたのではなく、奏が賢一に戦いを挑んだのだ。


 奏は武器も持っていなければ、法具も持っていなかったため、最初は賢一も油断をし、自分の娘と遊んであげる感覚でその申し込みを了承したのだが、賢一はすぐに自分の認識を改めることになっていた。


 なんと、戦いが始まった瞬間、今までは幼い子供が持っている程度の、八歳という年齢にふさわしい量の幻力しか持っていなかったはずの奏から、突如多量のそれも自分と同等、またはそれ以上の幻力が溢れ出していたのだ。それだけじゃない、奏は賢一に向かって手を翳すと、なんと法具無しで幻操術を発動したのだ。


 二人の戦いは長くは続かなかった。


 奏は開始から一歩も動かないまま、賢一の攻撃を全て幻操術で受け止め、逸らし、反射させ、そして同時に幻操術によって怒涛の攻撃をしてきたのだ。


 予備動作無しで迸る攻撃の稲妻。同じく予備動作無しで造形される防御の氷。奏に隙は無かった。


 そして、戦いの結果はある意味当然の如く、奏の勝利で終わった。


 あの時、賢一は心装を使わなかった、いや使えなかったのだ。なぜなら十中八九、奏は心装が使えるからだ。


 賢一は強者だ。この世界でもトップクラスの。しかし賢一は自分の実力を正確に知っていた。そして、賢一は判断した。互い心装をして戦った場合。


 自分は死ぬと。


 だから賢一は始終心装を発動しなかったのだ。


 賢一を倒した奏は突然賢一に自分を連れて行くように言うと、賢一はそれを承諾したのだった。


 そしてT•G(トレジャーガーデン)に入学した奏はその現状に驚いていた。


 T•G(トレジャーガーデン)には上位クラスの一組と、その他の二組に別れている。奏が入ったのは当然一組だった。しかしそこは普通とは言えなかった。その現状は例えるなら、独裁国家だ。


 一組内部は完全に弱肉強食。実力が上のものから一から順に数字を与え、自分より数字が少ない人間には絶対服従。完全な縦社会だ。


 しかし、それだけでは独裁国家とは言えない、問題はこの先だ。


 一組には最強の四人組がいた。彼女達の名前は皆、雪を模していたため、彼女達のことを六花衆と呼んでいた。


 一組に入った奏はこの六花衆に目を付けられてしまっていた。


 六花衆の四人もそれぞれ違う魅力を持っていて、ほとんどの人間は彼女ことを美人、いや年齢的に美少女と呼ぶだろう。しかし、そんな美少女である四人が羨んでしまうほどの美を奏は持っていたのだ。


 ずっと可愛い、天使などと呼ばれていたにもかかわらず、ぽっと自分たち以上に可愛い少女が現れ、六花衆は一言で言えば奏を可憐さに妬いていたのだ。


 六花衆は奏の実力を知らないまま奏に勝負を仕掛け、そして簡単に、あまりにも簡単に伸されてしまったのだ。いくら六花衆は一人一人が強いと言ってもその実力はまだ四人同時でさえ賢一以下。賢一に勝つことが出来る奏に一人勝つことなんて到底不可能なのだ。


 六花衆は自分たちの敗北を認めることができなかった。


 たった一日で一組一の美少女の座も、そして最強の座もまでも失うことが認められないかったのだ。


 それから六花衆はそれぞれ毎日のように奏に勝負を挑んでいた。


 そして何度も戦っているうちに奏は六花衆に認められていったのだ。そして奏は六花衆の代わりにT•G(トレジャーガーデン)の頂点となり変わったのだ。


 奏は六花衆を己の守護者とし、一組全体を変えていったのだ。


 奏が最初にやったのは、一組内の掃除だ。今までは六花衆が独裁国家をとっていたわけだが、そこまで悪質なものではなかった。一番悪質なことをしていたのは一組の中位生ぐらいの子たちだった。


 上位生がいる時は媚を売り、上位生がいない時は下位生をこき使う。奏はそんなことをしている中位生を一人一人粛清したのだ。


 粛清とは言っても暴力で解決したわけじゃない。六花衆だって中位生がやっていることには気が付いていた。しかしなにもしなかったのだ。この事を知った奏は中位生たちとの対話をしたのだ。


 そして奏がT•G(トレジャーガーデン)の一組に入学して、たったの半年で今まではどちらかと言えば柄の悪い女子校のようだったT•G(トレジャーガーデン)の一組は今の礼儀正しい女子校になったのだ。


 さて気が付いただろうか?


 T•G(トレジャーガーデン)の一組は女子校(・・・)なのだ。


 一組は全生徒が女子なのだ。


 別に男子に差別をしたいわけではないのだが、それにはいろいろ事情があるのだ。


 賢一がT•G(トレジャーガーデン)に連れてくる子供には二種類ある。


 一つは元々幻理世界で迷子になっていた子供。


 もう一つは、|幻理世界に来てしまった子供だ。


 幻理領域ではない、幻理世界。


 ガーデンのマスターが作り出す異世界。それが幻理領域だ。


 私たち人間が生きる表の世界。それが物理世界だ。


 幻理領域でも物理世界でも、もちろん幻域でもない世界。


 マスターではなく、世界そのものが作り出した超大型幻理領域。それが幻理世界だ。

 

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