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4ー9 交差する勘違い?


 我らが姫こと奏はとある特異体質だ。奏は全ての幻操師をあまりにも超越した力を持っているのだが、その反動、リスクなのかその心に大きな乱れがあった。


 本来なら心が乱れていると、万全の実力を発揮出来ないのが幻操師という生き物なのだが、奏は心の安定を放棄することによって力を得ているようだった。


 リスクとして奏が持つ特異体質、それが『|七花天輪《しちかてんりん

》』だ。七つ人格を輪のように回り続ける。奏の七花にはそれぞれ違う名前がつけられている。


 冷静で優しく、責任感の強い、奏。


 男勝りで女騎士のような風格を持つ、菜々。


 他には極度の甘えん坊な少女。


 どこにでもいるような特徴がないのが特徴の普通の少女。


 あまりにも自由奔放で、最強の少女。


 めんどくさいが口癖で、いつもだらけている少女。


 思っていることもなかなか言えない、内気な少女。


 そんな七つの人格を持っているのが奏なのだ。


 この人格の一つ一つは記憶が共通していない訳ではない。多重人格ではなく、例えるなら一人の女優が演じているキャラの一つ一つ。強制的に演技をしてしまう体質とでも言えばいいのだろうか。


 『七花天輪』はランダムに人格、いや幻人格とでも呼ぼうか。強制演技の人格とも言える、幻人格はとある法則性の元移り変わっている。


 その法則性とはズバリ奏の心。幻人格=奏ではない。奏、いや『七花天輪』全員の心だ。


 全員の心という表現は適当ではない。心は七つあるわけではなく、あくまで一つなのだ。


 例えばここに一つサイコロがあるとする。サイコロはいくつあると聞かれれば答えは当然一つだ。しかし、サイコロはどこから見ても同じだろうか?いや、違う。見る方向が違ければ、その目に映るものは違うだろう。


 この時見る方向を決めるのが七花の心。感情と言ってもいい。感情が怒りならこちらから。安らぎならこちらから。不安ならこちらから。このように心によって見る方向が六つに変わるのだ。


 そしてそこに映る光景。数字こそが奏であり菜々たちなのだ。


 他にも例えると、そう、いつもは良い子で静かな人が、怒った時には暴言ばかり吐いて、良い子とは言えない状態になったとして、この怒る前と後では同じ人とは思えないように人柄が変わるとする。この二つは別人のようだが実際にそこにいるのは同じ人間だ。そこに心は二つは無い。一つだ。ただ怒りという感情によって変わってしまっただけなのだ。


 二つ目の例えの方がわかりやすいだろう。七花は抱いている感情によって移り変わっているのだ。


 なら菜々はなんの感情によって出てくるのだろうか?それは退屈だ。退屈なことによるストレス。それが菜々の発現状況。だから立花衆は、菜々のことを欲求不満(フラストレーション)と言ったのだ。


 ……つまりは、退屈だから戦いたくなった。それだけのことだ。


「結はいつも甘いです。私も菜々も同じ人間ですよ?」


 どうやら奏はご立腹の様子だ。……まぁ結にはその理由なんて分かっていないのだが。


 奏は無表情に見えて無表情じゃない。元々奏はクールキャラじゃないのだ。ただ冷静でいる時間常人より長いだけだ。……クールキャラじゃないぞ?


「女の子に手を出すのは男として最低だろ?」


「……」


 結の言葉を聞いた奏は、ジト目で結を見つめると無言で自分の体がよく見えるように両手を開いていた。


「ど、どうしたんだ?」


 突然目の前で手を開き、自分の体を見せるためという真の理由が分かっていない結にとって、奏の行動はまるで、抱き締めてくれと言っているようにも感じられてしまう格好だった。


 目の前で異性が見つめてきながら両手を開く、どっからどう見てもハグを要求しているようにしか見えない。


 結のどうした?っという言葉を聞き、結が気が付いていないと思った奏は、こくりと首を傾げると、あろうことか突然、和服の帯を解き始めていた。


「なっ!!なぜ脱ぐっ!!」


 目の前で異性が、それも奏という下手したらこの世で最も美しい、いや可愛らしい?……とりあえず魅力的な子が突然脱ぎ始めたのだ。結は完全に動揺していた。


(ハグの要求からの脱衣……ま、たさか)


 ちなみに結の思考は勘違いだ。


 さらには奏も勘違いしている。


 現在この二人は互いに勘違いし合ってこの状態になっているのだが、分かるだろうか?


 結の方は簡単だ。最初から違う。奏にハグを求めているわけではない。


 なら奏はなにを勘違いしているのだろうか?


 一見、奏はわかっているように見える。自分の体を見て欲しくて手を開いたのに、結がどうした?と言うからもっと見やすいように脱衣をした。


 そもそも、奏はなぜ結に身体を見て欲しいのだろうか?


 奏は結にどうやって身体を見せようとした?俯きながら?恥ずかしがりながら?照れながら?どれも違う。


 ジト目で見つめながらだ。


 ジト目とは軽蔑や反抗、否定的な意味で使われるのだ。先ほど挙げた理由ではどれもおかしい。何故なら先ほどの例はどれも否定的というより好意的だ。


 つまり奏の脱衣はサービスでもなんでもない。ただの嫌味だ。


 奏が脱ぎ始める前にはなにがあった?というより結はなんて言った?


(「女の子に手を出すのは男として最低だろ?」)


 セリフだけを見るならなかなか立派な、紳士と言えるだろう。


 しかし結にそれを言う資格があるのか?


 さっきまで結は誰となにをしていた?


 答えは、さっきまで結は菜々と戦っていたのだ。


 分かりやすくしようか?


 さっきまで結は女の子と戦っていたのだ。


 戦いとは互いに痛みを傷を負うものだ。今までは結の攻撃なんて一度も当たらなかった。当たったとしてもダメージなんて毛ほどもない。


 しかし今回、菜々はダメージを、それも怪我を負っているのだ。


 さて、もう一度結が言っていたことを思い出してみよう。


(「女の子に手を出すのは男として最低だろ?」)


 完全になに言ってんだこいつ?って感じた。


 つまり、奏は体を……正確には、体についた傷のことを示しているのだ。


 だから、奏はジト目(・・・)で体を見せようとしたのだ。


 奏の勘違い。それは結が自分の行動を正しく理解してくれると思ったことだ。


 普通は気付かない。


 奏は男という生き物を勘違いしていたのだ。


 奏は勘違いを未だに続けながら、とうとう帯を完全に解いてしまっていた。奏が帯を床に捨て奏の裸体、いや奏の体についた傷が今正に見えようとしていた。


 ごくり。


 結は思わず、喉を鳴らしていた。完全にただの変態である。


「させるかっ!!」

「だめにゃっ!!」


 雪乃と小雪の二人は、大声をあげながら、慌てて奏の奇行を止めに行っていた。


「このセクハラ魔っ!!」


 奏の奇行を止め、とりあえず一安心した小雪は、突然目つきをキッと鋭くすると、後を小雪に任せ、結の顔面にドロップキックをかましていた。


 結は突然のことにぼーっとしていたせいで、避けることも出来ずに、雪乃のドロップキックをまともに当たっていた。


 結は軽く吹き飛び、ゴロゴロと床を転がっていた。


「おいっ雪乃!!なんてことしやがる!!痛えじゃねえかっ!!」


 結は雪乃に蹴られた顔面を手で覆いながら立ち上がると、雪乃に向かって叫んでいた。


「うるさいバユウ!!セクハラ魔っ!!」


「セクハラ魔じゃねえっ!!そもそも今の俺は悪くないだろっ!!」


「うるさい黙れ十回死んで跡形も無く消滅しろっ!!」


「なっ!?」


 雪乃の罵倒という名の言葉の暴力を浴びせられた結は、そこまで言うか?とでも言いた気な顔をしていたが、これ以上喋っても火に油を注ぐことになると思い黙っていた。


「姫っなんで突然あんなふ、服を脱ぎ始めたのっ!!」


「そうだにゃっそうだにゃっ!!」


 奏の帯をしっかりと結び直した後、雪乃と小雪が慌ただしく奏に問いただしていると、奏は二人がどうして慌てているのかわからないといった風に首をちょこんとと傾げていた。


「身体を見せるために服を脱ぐ……当然の行動だと思うのですが?」


「なっ!?」「にゃっ!?」


(ゆ、結に身体を見せるため!?だ、だめだよそんなのっ!!そ、そんな事したら結だって、いや誰だろうと一発KOだよっ!!)


(にゃ!?そ、それってつまり、結とカニャデは既にそういう関係にゃのっ!?)


 二人とも勘違いをしているせいで、さらに勘違いという名の妄想がどんどん肥大していっていた。


「雪乃?小雪?どうしましたか?」


 二人は自分の妄想によって顔を真っ赤にすると、俯きぶつぶつと呟きながら固まってしまっていた。


「二人共顔が真っ赤ですよ!?大丈夫ですか!?」


 二人の今の心情などまるで分かっていない奏は、「風邪ですか!?」などと見当違いな事を考えていた。


 奏が二人の肩をポンポンと優しく叩きながら声を掛けても、二人とも「だ、だめだよ」「にゃぁー」っと何処か幸せそうな顔をしながらぶつぶつと呟くばかりで、帰ってくることは無かった。


「か、奏やめとけ。無駄だ」


 二人、というより主に雪乃が戦闘不能状態になったため、黙りをやめた結は、顔を少し赤くしながらも二人とは違い冷静に声を掛けていた。


「な、なんで突然、服を脱ぎ始めたんだ?」


 二人の事はほっとけといくら言っても「ですが」とか「あれ?結も顔が」などと言い始めた奏に結は動揺しながらも奏の言葉に重ねるように問い掛けていた。


「ほんとうに分からないのですか?」


 奏は首を傾げ、その姿はとても可憐で可愛らしかった。


(こ、これはやっぱりそういう意味なのかっ!?)


 ごくりと喉を鳴らしながら、盛大に勘違いしている結に向かって、奏は本当の事を言い始めた。


「結が「女の子に手を出すのは男として最低だろ?」などと言っていた割りには、菜々に手加減していなかったなと思い、あの戦いは事実上負けたようなものなので、少々悔しくて嫌味のつもりだったのですが……まさか気が付かないとは……」


「「「え?」」」


 三人が同時に変な声を出してしまっていると、奏は少し頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。


「「「えっ……」」」

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