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4ー8 結の実力(3)

九時の予定でしたが、早く終わったので投稿しました。


「諦める訳ないだろ?奏」


 菜々が大剣を振り下ろし、今まさに結に当たろうとした瞬間。結は静かに笑うと、そう呟いた。


「っ!?」


 菜々が結の言葉を聞き、その場から退避しようとするも、すでに時遅し、結の足元に菜々を巻き込むほどの大きな幻操陣が現れていた。


狙月(そげつ)


 結が幻操陣を発動すると、幻操陣全体から天まで昇るのではないかと思ってしまうほどの眩しい光が立ち昇った。


「くっ……」


 光の中から最初に飛びててきたのは菜々だった。しかしその姿はさっきまでの余裕に満ちたものではなく、着ていた和服はボロボロになり、菜々自身にもダメージがあることは明確だった。


「やっとまともなダメージを与えることが出来たな」


 光の柱が消えていき、中から現れた結は菜々とは違い今の光でダメージを受けている様子は無かった。


 結は嬉しそうに笑うと、トンファーを構え直し、今のダメージで辛そうにしている菜々に突進した。


(私がダメージを負ったのは私の油断だ。しかし、だからと言って策も無しに突進するなど愚の骨頂っ!!)


 菜々は結の行動に苛立ちを感じていた。何事も最後まで油断してないけない。菜々が結の『狙月(そげつ)』をもともにくらってしまったのは、菜々がこれで終わると油断したからだ。あの時、結の幻力は確実に底を尽きていたはずたったのだ、しかし今結はどうだろう。どうやら今の結は幻力を何かしらの手段を用いて回復させたようだった。


 ダメージを受けた菜々に対して、結は幻力も回復し、どうやら身体の傷もほとんど問題ないらしい。今の状態は結にとって好機。しかし、だからといって、策も立てずに正面から自分に向かってくる結の行動に苛立ちを感じていた。


「舐めるなっ!!」


 菜々はそんな結にカウンターを仕掛けようとしていた。もちろん同じ失敗はしない。結が指月(しげつ)を放とうとしても、すぐに対応できるようにしてだ。


「そのセリフ。そのまま返すよ」


 結もまた、菜々に苛立ちを感じていた。自分がそんな愚かな奴だと思っているのか?勝機があると思ってすぐに正面から突進するのは愚の骨頂。そんなことは結だって十分承知している。


 結が作り出したトンファーは多くの機能が搭載されている。


 一つはさっきも使ったように六月法(りげつほう)の高速発動だ。


 そしてもう一つ、その機能は機械的なギミックだ。もちろんただのギミックじゃない。幻操術を併用している超技術だ。


 結はこのタイミングでギミックの一つを起動させた。結がギミックを起動させると、トンファーの肘に伸びている側の先端から激しい炎がほとばしった。


「っ!?」


 トンファーから炎が吹き出るという常識外れな状況に、思わす目を見開き驚く菜々に向かって、結は炎の噴射によって加速し、菜々がカウンターを合わせようとしていたタイミングを外して、トンファーを振りかぶった。


 菜々はカウンターを諦め、大剣で防御をすると、即座に結を蹴り上げていた。


「ぐぅっ」


 菜々は空中に蹴り飛ばされ、身動きが出来なくなっている結に、追い打ちをするべく、大剣に幻力を注ぐと空中にいる結手掛けて振るっていた。


『月読=三日月』


 菜々が大剣を振るうと純白に輝く三日月型の飛ぶ斬撃が放たれていた。


 結は、菜々に蹴られた痛みに耐えながら再びギミックを起動させ、トンファーから炎をジェットの如く吹き出させると、空中で体制を整えると同時に、菜々の放った飛ぶ斬撃を回避していた。


「宙を舞うか。やはり天才か?」


「俺は天才なんがしゃねえよ。天才ってのはなどうな場所で生まれても成功するもんだ。でも俺はお前らに会えなきゃここまで強くなれなかったからな。俺はただの凡人、いやそれ以下のしょうもない劣等生だよ」


(……凡人か。これだけの力を得ながら自分を弱者だという。自分をあまりにも過小評価する。……一緒だな)


 自虐的に自分は劣等生だと。


 菜々は自分を過小評価し過ぎてしまう結に、そうさせてしまった自分たちに罪悪感があった。


 結がこうも自分を劣等生だと過小評価するようになってしまったのは自分たちの責任なのだ。


 T•G(トレジャーガーデン)の一組は天才の集まりだ。例えるなら中堅どころの大学で丁度まんなか位の学力がある学生が一人だけ世界トップクラスの大学に入学してしまったようなものだ。世間的には中堅どころに入るだけでなかなかの評価がもらえるのだが、自分以外はみんな天才。仮にテストをした場合、結の点数は七十といったところだろうか。凄く良い点数という訳ではないが、悪い点数でもない。どちらかといえばなかなかいい点と言ってもいいだろう。しかし周りの人間の点数は皆が九十五以上。正直そんな空間にずっといたら確実に精神が疲れてしまうだろう。


 本来ならばこの世界での幻操師の平均はCからDの間だ。しかし結の中のこの世界における幻操師の平均ランクはA。結はそう誤認してしまっているのだ。いくら理性が違うとわかっていても、心がそう思ってしまっているのだ。結果、結は自分のことを劣等生だと思っているのだ。


(きっと結がトラウマとも言えるその感情を打ち消すには、ここからいなくなるしかないのかもしれないな……)


 結がここから去り、例えばF•Gに入学すれば、本来の普通を知ることができれば、きっと結はトラウマを克服することができる。菜々はそう考えていた。


 しかし


(……すまぬ。私はお前が……)


「どうした菜々。もう終わりか?つまらないな」


 菜々が微妙に悲しそうな表情をしていることに気が付かなかった結は、挑発的な笑みを浮かべてそう言った。


「なんだと?この私がこの程度で倒れるとでも思ったのかっ!!」


 結に挑発されて元気を取り戻した菜々は改めて大剣を構え直すと、今度は菜々が先に動いていた。


(おそらく機能は他にもあるのだろうが。起動前に叩けば問題ないっ!!)


 大剣を持っているのにもかかわらず、凄まじいスピードで走る菜々は、突如としてその姿を消していた。


(消えた?)


 右?違う。左?違う。後ろ……からはなにも感じない。……それならっ!!


「上だろっ!!」


(あのスピードだ。防御してもすぐに反撃出来ないほどのダメージを負うだろうな)


 まるでミサイルの如く、天高くから一直線に飛来する菜々の振り下ろしを、この一撃は防御するのは最善ではないと判断すると、またギミックを起動して、トンファーから炎を噴射させると、床と平行に横に飛んだ。


「またそれかっ!!それしか芸はないのかっ!!」


 菜々は結がいなくなった床に大きなクレームを作りながら、先ほどから炎の噴射しかしない結に舌打ちをした。


(そんなに見たきゃ見せてやるよっ)


 結は左手のトンファーから炎を噴射しながら、炎の噴射を止めた右手を振るった。


 結はトンファーを振るうと同時に、炎とは違うギミックを起動していた。


「鎖っ!?」


 結がトンファーを振るうと、まるで釣竿を振っているかのように、トンファーの先端部分が本体と分離し、菜々に向かって飛んでいっていた。先端部分と本体は鎖で繋がれているようだが、その長さは本来結の持っているトンファーの内部に仕込むことが出来るような長さではない。先端部分はゆうに十数メートル離れている菜々にまで届いていた。


「この程度!!斬る!!」


 菜々は迫り来る鎖を、大剣で叩き斬ろうとするが


(き、斬れないっ!?)


 菜々の大剣は鎖を断ち切るどころか、鎖がまるで蛇のように自在に動き、気がつけば大剣に巻きついてしまっていた。


 結が最高作品として作り出した法具のギミックが、ただ延々と伸びる鎖を搭載しているだけの訳がない。


 結はいい意味でも、悪い意味でも完璧守護者だ。なんせ結は、戦闘中にどんな状況に陥っても、体が自動(・・)で動くように、プログラミングしているほどだ。


 結がトンファーに搭載させたのはただの鎖ではない。トンファー本体もそうだが、鎖には常に二つの術が発動している。


 それは『記憶』と『再生』だ。


 一切のダメージを受けていないトンファーの状態を記憶し、その状態を常に再生し続ける。そうすることによって、仮にミクロ単位で傷付いてしまったとしても、刹那の内に最初の状態を再生することによってミクロ単位の傷だろうが、一瞬で消してしまうのだ。


 そして鎖のもう一つの機能として鎖は結の思念で動いている。つまり、結が考える通り自在に動かすことが出来るのだ。


 結は菜々が大剣に絡みつく鎖に注意を逸らしている間に、『衝月(しょうげつ)』と炎のギミックを利用した『火速』で菜々との距離を詰めると、結が近付いたことによって、結がすぐそこに気が付き、反撃をしようとしている菜々にトンファーを回してぶつける『回撃(かいげき)』と『衝月(しょうげつ)』、『火速』を同時発動した。


「くっ……っ!?」


 菜々は防御しようと大剣を動かそうとするが、鎖がまだとれていなかったため、それも叶わなかった。


 結の一撃が菜々にヒットしようとする瞬間。結はピタッと手を止めていた。


「……なぜですか?」


 寸止めされている状況に対して、不満気に言う相手に、結はトンファーを消し、素手になると優しくその頭を撫でていた。


「俺が戦ってたのは、お前じゃないだろ?奏」


 結の目の前にいたのはあの日。結がT•G(トレジャーガーデン)に来てからずっと世話になっている少女。奏だった。

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