4ー7 結の実力(2)
結のトンファーと菜々の大剣が鍔迫り合いをしていると、結は二つある内の片方を鍔迫り合いからズラし、右手一本で菜々の大剣との鍔迫り合いになると、腕を引くことによって菜々の大剣をトンファーに沿って滑らせていた。
滑らせているとはいえ、右手にかかる力はなかなかのものだ。結は自分の体を軸にして右手に伝わるその力を利用し、回転ドアのように回ると、菜々の大剣の力と己の力を合わせた一撃を左手に乗せて振るった。
「ちっ」
鍔迫り合いの中、急に力を抜かれたことによって正面に倒れるように体制を崩した菜々は舌打ちをしながら体を回転させることによって避けると、そのまま一回転し大剣から離した左手を裏拳として振るった。
「くそっ『衝月』」
結は両足に『衝月』を発動させると、発生する強い衝撃によって後ろに飛んでいた。
「む?いつの間に六月法を自由に使えるようになったのだ?」
「ついさっきだな」
結と菜々は一旦距離をとり、互いに警戒は解かないままそんな話をしていた。
結は通常幻操術が使えない。
通常の幻操師は良くアニメや漫画であるような魔法使い。火の玉を撃ったり、水の壁を作ったり、全身から雷を放出したりと、俗に属性と呼ばれるものを持ったものを使っているのだが、結はこういったこと。火や水、雷などの分かりやすい属性を扱うことが出来ない。
幻操術を発動させるためのエネルギー。幻力は例えるなら光だ。太陽の光は様々な色の光が混ざっていることは知っているだろうか?雨が降った後など、条件が整えば混ざっていた光はバラバラになりそれを虹と呼んでいる訳だが、幻力とはまさにこれだ。
虹には赤、橙、黄、緑、藍、紫という種類の光が混ざっているのだが、属性を伴った幻操術を発動するには最低条件の一つとして、その元が必要なのだ。たとえ火の玉を発生させたいのであれは火の元、が必要であり、水を発生させたければ水の元がいる。そしてこの元は例えると虹として混ざっているそれぞれの色だ。
この虹として混ざっている光の割合、つまり幻力が持つ元の配合は個人個人で違いがあり、指紋と同じように同じ人間はいない。つまりある人間には火の元があるが水の元が無いとか、またある人は水の元があるが火の元が無いということもあり得るのだが、結の場合、なんとそういった元がないのだ。
この配合の割合によって、性質という名前で七つに分かれているのだが、結のような元、つまり幻元をほとんど持たない人の性質が月の性質だ。
月の性質は不明な点が多く、なにより使える属性がないため、その潜在能力は低いと思われていたのだが、月の性質には月の性質独特の属性、月の属性が使えることが分かったのだ。
しかし、他の属性のように、火や水などと分かりやすく、イメージし易いものとは違い月の属性は良くイメージが出来ない。幻操術とは強く念じることによって発動させると言っても過言ではないのだ。しっかりとイメージ出来ないと術は出来上がらない。結果、月の属性の幻操術はほぼ無いに等しい。
幻操師にとって幻操術はなくてはならないものであり、幻操術が使えない幻操師など剣を持たない剣士と同じだ。
B•Gのこともあり、剣を手に入れる必要があったのだが、結には合う剣が無かったのだ。
最初は賢一もどうしようかと思ったのだが、そこで賢一はあることを思い出したのだ。それは零王の存在。零王が使っていた術『六月法』は純白の光を発生させる術。純白の光、これは月の属性の特徴だ。
賢一はあの時、零王の『六月法』を見ているのだ。賢一はその時に描かれた幻操陣も確認しているのだ。賢一はその時の記憶を頼りに結に『六月法』を教え込んでいたのだ。
「ついさっきだと?」
「そっ。ついさっきだ。正確にはこれが出来てからだ」
結はそういうと両手にそれぞれ持っているトンファーを菜々に見せた。
「……それが新機能か?」
「まっ。そういうことだな」
結がトンファーに搭載した機能の一つ。それが『六月法』特化能力。トンファーを使っている間、結は発動箇所を念じながら、幻力をトンファーに注ぐだけで『六月法』を使用することができるのだ。
「それじゃ、行くぞ?」
結はそう言うと、再び両足に『衝月』を発動させて菜々に向かって一直線に飛んだ。
(確かに速いが所詮は直線運動。カウンターを合わせることなど容易っ!!)
菜々は結にカウンターを決めるべく、右足を引くといつでも大剣を振るえるように準備をしていた。
(カウンターか?甘いなっ!!)
菜々がカウンターを狙っていることにすぐさま気が付いた結は、トンファーを握ったまま、左手を上げ人差し指を菜々に向けた。
『指月』
「くっ!?」
菜々の元に辿り着いた結は、結の指から発射された指月を避けるために、思わす体制を崩してしまっている菜々に向かって右手を振るった。ちなみにただ振るうだけじゃない、振るった瞬間に握りを緩めることによってトンファーを回転させていた。回転させることによって生まれる遠心力、さらにはトンファーに『衝月』までも発動させているのだ。
純粋な右手の一撃による威力と回転による遠心力、さらには『衝月』を発動させたことによって生まれる強い衝撃という三重の威力がこもった一撃なのだ。
「ぐっ!!」
ギリギリ大剣を盾として使い、身を守った菜々は、凄まじい結の一撃によって部屋の端まで吹き飛ばされていた。
「これじゃ終わらないだろ?」
結は地面に着地すると、すぐさまトンファーに幻力を注ぎ込み、トンファーを構え正面を殴るかのように拳を突き出していた。
『弾月』
それと同時に光の弾丸が菜々に向かって放てれていた。
「くっ!!」
部屋の壁に叩きつけられ、身動きが出来なかった菜々は結の弾月をモロにくらっていた。
(衝月二発に指月一発、さらには弾月まだ撃ったんだ。幻力がもうほぼそこをついたな……)
六月法は一つ一つが発動による消費幻力が激しい。
指月は六月法の中でも消費幻力が圧倒的に少ないとはいえ、それでも他に三発も発動しているのだ。今の結に掛かっている負荷はなかなかのものだろう。
「ふふふ、今のは効いたぞ。結」
弾月の爆発によって巻き起こった煙の中から、どこか楽しげな声が聞こえてきた。
「……冗談だろ……」
次の瞬間、煙の中から多量の幻力が溢れ出していた。その勢いによって煙が吹き飛ばされていき、中から出てきたのは、多少衣服が汚れているだけで自信は全くの無傷で立つ、菜々の姿があった。
「こりゃ。笑うしかないな」
結はすでに幻力がほぼ尽きているのに対し、菜々はその真逆、ほぼ無傷なのだ。
戦いが始まった時は結が明らかに有利な状況だったのだ。結は全く疲労していない状態だったのに対して、菜々は結と戦い始める前までずっと六花衆と戦っていたのだ。どれだけかはわからないが少なからず疲労していたはずだ。それなのに結果はこのざまだ。
(さすがに悔しいな)
結は今まで、何度も菜々と模擬戦をしてきたのだが、結は今だに一度も勝ったことがないのだ。
結も男だ。ずっと女の子に負けるのはかっこ悪いと感じていたのだ。
「さて、どうやら終わりのようだな。結」
菜々は結に向かってトコトコと歩きながらそう言った。
結は諦めてしまったのか、その場に座り込んでいた。
「終わりだ。結」
結の正面まで近付いた菜々は、大剣を振り上げるとそう言った。
結は覚悟したのか座り込んだまま、両手を地面につけると、静かに目を瞑っていた。
そして、菜々は大剣を結に向かって振り下ろした。
「諦める訳ないだろ?奏」
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